胸囲に挟まれる子供達
教会の中は予想していた通りの有様だった。
「……透理、私は……もう、ダメかもしれない」
子供たちに揉みくちゃにされうつ伏せるサンタに、次々と覆いかぶさっていく無邪気な子供達。一人乗るごとに一番下のルアの瞳から生気が失われていく。急いで子供を退かそうとする職員のシスター達をライナが面白そうな顔で割って入った。
「問題ありません。彼はとても強いのですから、ね? そうですよね、ウィレイカシスさん?」
「きッ、貴様ぁ……自らの手を汚さず、この子達に……殺させるき……か?」
「あらあら、まさか貴方ほどの殿方がこの程度で死ぬとは思っていませんわ。それに、もし子供たちが貴方を圧殺する前に……うふふ」
息も絶え絶えで酸素が脳に行き渡らないルアの意識は限界だった。
「あわわ。み、みんな、ウォルお姉ちゃんが皆と怪獣ごっこ遊びしたいって!」
ルアに覆いかぶさる男の子のほとんどが透理の言葉に反応した。子供は怪獣遊びが大好きなのだ。蜘蛛の子を散らした――いいや、捕食し終わったピラニアが一斉に次の得物に群がる様に、子供たちは小さな握り拳を作りウォルに飛び掛かる。
「トゥリ、私、言ってない。怪獣遊び、知らない」
「まあまあ、怪我させないようにじゃれててよ」
「ん、わかった」
八人ほどの子供がウォルに拳や足を放つが、反射神経や機敏さが人間の域を凌駕する銀髪の少女にとって軽くあしらうくらい容易かった。
連続して放たれる攻撃全てを軽やかな足の運びだけで、触れるか触れないかという絶妙な紙一重の回避を見せた。もちろん子供たちはムキになる一方だ。
「小っちゃいお姉ちゃん、どうして当たらないんだよ」
「小っちゃいくせに」
「む、私、お前達より大きい」
「でもライナ先生より胸ちっちゃいじゃん」
「…………」
嫌な予感がした。それはライナも感じ取ったようで、子供たちを引きはがそうと足を一歩踏み出した――時にはすべてが終わっていた。
八人の子供達は床に大の字で倒れている。何が起こったのか理解が追い付いていないようで、身を起こしてパチクリと目を丸々くして周囲を見渡している。
「酒は駄目。近い先、垂れる。無様な程に」
冷たい視線で子供たちを見下ろすルアの目付きは透理の背筋をゾッとさせた。
「小さい方がいい。抱きやすい。お前達は、どっちがいい?」
「ち――小さいほう!」
「でっかいのはお化けだ!」
「ライナ先生はお化け?」
「そう。あの女、お化け。子供を食べる奴」
恐怖で子供達を支配し何やら洗脳紛いの事をし始めた。ライナが子供達に声を掛けると、恐ろしいものを見るような眼で振り返る。
「い、いけません! そんな嘘を信じてはいけません。私とその子、どっちを信用しますか?」
「お前達、知ったはず。どっちが人間を堕落させるか」
「小っちゃいのは黙ってなさい!!」
「熟れて、ムレた酒、黙る」
「ライナ・ピアドール!!」
両者の意見に板挟みになりオロオロと困惑する子供たちを救ったのは、意外にも先程まで押しつぶされて死にそうだったルアだった。
「子供たちが怯えているだろうに。恐怖で人を支配することは出来ない、お前達は知らないのか?」
ルアが泣きじゃくる子供達の頭にそっと手を置く。
「さあ、プレゼントがあの袋の中にある。皆で仲良く分けなさい」
ぱっと華やかな顔つきになった子供たちは一目散に袋に駆け寄った。
「ライナ、ウォル。子供たちを恐怖で縛り付けるな。子供の自由な発想力や行動力が失われるだろ」
「わ、私は別に恐怖で縛り付けてなんて――」
「顔、怖かった。子供が泣く」
「うぐっ……」
「お前達には少々説教だ。透理、子供たちと遊んできてくれるか?」
「オッケー、任せて!」
ルアはライナとウォルを小さな応接室に連れ込み、小一時間ほど出てくることは無かった。
こんばんは、上月です(*'▽')
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