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ルアの身体

 ルアが目を覚ましたのは、聖羅が立ち去って二日後の事だった。


「ここは……私の家か」


 ベッドに寝かされている身体は倦怠感と脇腹の痛みで、起き上がるのも一苦労だった。


「私は確か、聖羅に刺され……聖羅ッ!!」


 布団を跳ね飛ばして起き上がる――脇腹の痛みに顔をしかめ、溢れ出す脂汗を袖で拭き取る。


「ルゥ、起きた。これでトゥリ、悲しくない」

「――飢えた狼!?」

「あら、起きて早々騒がしいですよ魔術師」

「執行会……」


 ルアの頭は混乱していた。


 刺されてからの記憶が無いのだ。聖羅はあの後どうしたのか。倒したのか、それとも逃げたのか。彼女の実力から考えてその二つの選択肢は考えづらかった。執行会であるライナと、飢えた狼のウォル。この二人がどうして自分の屋敷に居るのか。疑問を突き詰めていけばいくほど、より多くの疑問と混乱が沸き起こる。


「はぁ、いいでしょう。貴方が気を失った辺りから説明して差し上げます」

「お酒、説明する」

「黙りなさい狼! 私はお酒ではありません。お酒はピアドールで、私はビアドールです!」

「どうでもいい、早く説明。私、トゥリに教えて来る」


 足音を立てずに廊下を走って行ったウォルを見送るライナは、短い溜息と共にドアを後ろ手に閉め、近くに合った椅子を持ってベッドの傍らに腰を下ろした。


「ギリギリでした。もう少し私と飢えた狼が遅れていたら、貴方は今頃あの世でよろしくやっていたわね」

「何故だ。どうして、私を助けた?」

「別に魔術師あなたを助けたかった訳じゃありません。貴方の傍にいる透理さんを助けたかっただけ。町に不穏な気配を感じたので辿ってみれば、貴方の家の前に着いたのよ。飢えた狼ともそこで鉢合わせて、二人で屋敷に押し入ってみれば、稲神聖羅が貴方にナイフを振り下ろそうと――」

「なるほどな、そういう事か。とりあえず命は助けてもらったんだ、礼は言わせてもらう」

「礼なんて必要ありません。以前、私は貴方に命を見逃してもらっています。そのお返しをしただけです」


 イライラした口調のライナに、ルアは不器用に薄く口角を持ち上げてみせた。


「な、なにを笑っているんですか! 不愉快です。というより不気味です。執行しますよ?」

「いや、気にしなくていい。ちょっと不思議だ、と思っただけだ」


 まさか、敵対勢力に助けられるとは誰が想像できただろうか。ウォルもライナも一度だけ命のやり取りをした間柄だ。彼女たちが助けたかったのは透理だと言っていたが、そのついででも助けられた事には変わりはない。


「そうだ、キミた――」

「ルアぁぁぁぁぁぁ!!」


 情けない声と共に、廊下をドタドタと踏み鳴らし姿を見せた透理。


「い、生きてたぁ~。ライナさんが治療してくれたけど、このまま目を覚まさないと思ったんだからな! 二日だぞ、二日ぁ~」


 上半身を起こすルアに飛び掛かる透理――激痛が全身を行きわたり、ルアの表情が凝固した。一切の感情を捨て、思考を放棄する事で痛みに耐えようとする無意識下の防衛反応。拭き取った脂汗は先程と比べようもない量が噴き出していた。


「ルア、ルア、ルアぁ~。うわーん、もう、死ぬんじゃないぞ! 死ぬなよ、ばかぁ~」


 自分の為に泣いてくれるのはとても嬉しいが、力強く抱きしめる透理の腕力は、一般の非力な女の子のそれと比較してはならない程の強さだった。


「と、透理。す、すま……ないが、離れて、くれ。傷口が……」

「わわぁ! ご、ごめん。大丈夫? あれ、顔色が真っ青だよ? まだ、寝てた方がいいって」

「ああ、助かる。一つ聞く。透理、お前は治療時に私の裸を見たか?」

「は、はは裸ぁ!? み、見てないよ。治療はライナさんが全部ひとりでやってくれたから。な、なにさ。見られて困る事でもあるの? べ、別に男性の裸見たからって――」

「そうか、ならいい。すまないが透理、飢えた狼。少しだけライナと二人きりにしてくれないか?」


 怪訝な視線を向ける透理。飢えた狼という呼称に不満の視線を向けるウォル。渋々と言った不満残る表情のまま部屋から出て行った。扉から聞き耳を立てている気配もないので、ライナは口を開く。


「あの身体は一体なんなの? あんな怪我……」


 顔色を変えたライナが真摯な顔つきでルアに問う。

こんばんは、上月です(*'▽')


次回の投稿は今週中になります!


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