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12話 DJ!DJ!~とどかぬ想い~

おまたせしました。ごめんちゃい。

「私にはね。才能がなかった」

 彼女の最初の一言は、それだった。

「は?」

 何を言っているんだこいつは、と思った。

 わたしが憧れ、羨み、妬み、僻んだ才能を持っているじゃないか。

 そういう思いをまなざしに込めると、海鵺は小さく首を振った。

「いえ。将棋の才能は、確かにあったわ。でも、かわりに、私には、円滑に生きる才能がなかった」

 悲しそうに。本当に悲しそうに、語り始めた。

「思ったことを素直に口にするのではなく、周りに合わせた言動をする。たったそれだけのことが、私にはできなかった。だからみんな私のもとから離れていった。私にはそれが耐えられなかった。だから、私はしゃべらなくなった。そしたら、誰も近寄らなくなった」

 彼女のこれまでの言動を思い出す。なるほど、将棋部の人たちに合わせることなく、わたしともうまくやろうとせず、距離を置いていた。あれは、彼女の本心であり、同時に、何とかしたい言動でもあったのか。

「将棋は強かったけれど、将棋は私の居場所にはならなかったし、道場や部活でも誰とも仲良くはなれなかった。誰も、私と親しく話してくれる人などいなかった。だから、この学校の将棋部にも、所属は一応していたけれど、活動への参加はほとんどしなかった。せいぜいランキング戦と、大会だけ。部員の人たちもあんまり歓迎してる感じじゃなかったし」

「……そう、かなぁ」

 歓迎されていたかはわからないけれど、仲良くなりたいとは思っていたと思う。そうでなければ、海鵺のために強くなろうだなんて思わないだろうし、ふくに嫉妬したりしないだろう。

 しかし、海鵺はわたしの疑問の声に反応せず、言葉をつづける。

「そんな私の生活が変わったのは、ふくが転校してきてから。ふくは最近の将棋ブームに当てられて部室を訪れたみたいなんだけれど、あまりハマる感じではなかった。そんな時、私が気まぐれに指していたついたて将棋に興味を持ったみたい。やけに興味深そうにするものだから簡単にルールを説明して、やってもらった。そしたらドハマリして、それからあの子はついたて将棋の虜」

 懐かしそうに目を細める。

「でもうちの将棋部でついたて将棋を趣味程度にもする人は私しかいなかった。だから、私とあの子は必然的に二人で延々とついたて将棋を指し続ける関係になったのよ」

 わずかに頬を緩め、遠くを見るような目をする。きっと、二人の間の思い出を脳裏に描いているのだろう。

「私にとってそれは、とてもかけがえのない、失いがたい時間だったわ。あの子と繋がっているためだけに、ついたて将棋を続ける程度には」

 海鵺は視線をわたしに戻し、

「だから私は、あの子がついたて将棋を決して嫌いにならないよう、飽きないよう、全力で手を抜き、あの子が気分よく勝てる程度の力で指し続けてきたわ」

 ばつが悪そうに、そらした。

「たとえそれが、あの子の成長を妨げようとも、私は100%私自身のために、手を抜き、あなたという指導者を排除しようとした」

 そして、わずかに、彼女は頭を下げた。

「以上。これが、私とついたて将棋とふくの関係。私のふくへの執着はただの独占欲だし、私が手を抜いていたのも独占欲。あなたを排除したがったのも。全て、独占欲。もう少し、生きる才能があれば、きっと違ったんでしょうけれどね」

 自虐的な、少しだけ悲しそうな笑みを浮かべて言った。

 彼女の複雑な表情から、なんとなく察する。

 きっと、ずっと、誰かに吐き出したかったんだろう。

 苦しんでいたんだろう。

 才能のなさに絶望し、ようやく手に掴みかけた可能性に、なりふり構わずしがみつく。

 その気持ちは、とてもよくわかる。心がえぐられるほどに良くわかる。

 海鵺も、わたしと、同じだったんだ。

 と、そこまで共感しつつ、わたしは、

「あ ほ く さ」

 はぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~と、深くため息をついた。

 あほくさい。これ以上適切な言葉があるか。なんだこの、海鵺とふくの間の、くだらないすれ違いは。お互い、一言でも何か言えばすべてが解決しただろうに。

「……まぁ、でも」

 外から見たら、きっとそんなもんなんだろう。わたしも。

 ぐるぐると頭の中で回して、回して、回して、目が回ってしまって、きちんと見えなくなってしまうんだ。

 きょとんとする海鵺。

 そんな彼女の間抜けな顔に、わたしは、苦笑した。

 まったく。わたしの負けだ。

 同情してしまった。救ってやりたいと思ってしまった。

 まるで、わたしみたいで。

 だから、提案してみた。

「ねぇ。全国。行ってみない?」


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