ニェヴェナについて ひとつめ:修道女の説話
『ニィカ!』(http://ncode.syosetu.com/n1838cw/) 100話記念企画から生まれた作品です。
アンケートによって決まったお題は『遍き聖域 ニェヴェナを舞台とした物語』。
ニェヴェナについては、地域によって違った神話が伝えられています。
各地の神話のうち代表的なものをいくつかご紹介します。
はじめの国では、修道女が子どもたちに説くお話を聞いてみましょう。
はい、みなさん。おしずかに、おしずかに。お話をはじめますよ。手はきちんとおひざのうえにおいて。
きょうはとおいとおい昔に、神さまがわたしたちのご先祖となさった約束についてお伝えしましょう。
知っている子も、よく聞いて。その約束は神さまとわたしたちひとりひとりとの約束でもあるのですからね。けっしてわすれないように、しっかりお耳をすませているのですよ。
むかしむかし、みなさんのおじいさまやおばあさま、そのまたおじいさまやおばあさまがうまれるよりもずっとずっとむかしから、神さまはニェヴェナにおわしました。そしてこの大地のすがた、鳥やけものがかけまわるさまをごらんになっていました。
あるときに神さまは、この地上のことをもっとくわしくお知りになりたいと思し召しました。
みなさんもよく知っているとおり、ニェヴェナは杉の木立よりもたかく、雲よりもたかく、月や星や太陽よりもたかいところにあるものですから、土にまぢかの虫たちや、水にもぐる魚たちについてはいくら神さまでもすべてをあまさずごらんになるというわけにはいかなかったのです。
そこで神さまは、ご自身のおすがたににせた生きもの、つまり人間をおつくりになって、地上での目や耳としてお使いになることになさいました。
人間が役目をりっぱにはたせるよう、神さまは三つのおくりものをくださいました。
それは困難をのりこえるための知恵、おそろしいけものをとおざけ、けがれたものを清めるための火、神さまに真実をおつたえするための言葉です。
人間を地上におくるまえに、神さまはこうおおせになりました。
「おまえたちはこれから、地上のものごとをしっかりと見て、みずからのおこないとともにもらさずわたしに報告するのだ。おまえたちがよいとかんじたことも、わるいとかんじたことも、かくさずに。もしもおまえたち自身がわるいおこないをしてしまったとしても、わたしはそれをとがめはしない。わたしがおまえたちをとがめだてるとすれば、それはおまえたちがわたしにいつわりを述べたときだけだ。おまえたちがまごころをもってこのつとめをやりとげたあかつきには、私はおまえたちをふたたびニェヴェナにむかえいれ、とこしえのさいわいをさずけよう」
さあ、みなさんおわかりですね。これが神さまとわたしたちのご先祖がなさった、たいせつな約束なのです。
神さまのみことばにしたがって、人間は地上におり、ながいたびをはじめました。
けれどもいくらもあるかないうちにひとり、またひとりとつかれてたおれこみ、ついにはだれひとりとしてたっていられないほどになってしまいました。
これではさずかったお役目をはたせないとおもってみても、どうにもちからがでないのです。
そのとき、じっとうめくばかりの人間たちの目のまえを、いっぴきのヤマネがはしりすぎました。
ヤマネはかるがると木のみきをのぼり、そこに生るオレンジをかじりだしました。
そのさわやかなかおりをかいで、ゆうきのあるものがヤマネのまねをしてオレンジの実を口にいれました。たちまちにそのひとははしりまわれるほどにげんきをとりもどしました。
人間たちはみな、鳥やけものにまじってオレンジをひとつずつたべました。
いきをふきかえした人間は日没まですすめるだけすすみました。夜がおとずれるとかれらは火をかこんで、さっそく神さまにもうしあげました。
「ちいさく愛らしいけものが、きょうわれわれに生きるすべをおしえてくれました。朝の太陽の色をしたまるい果実はわれわれの心身をみたし、ふたたびあゆみをすすめる活力となりました」
神さまはおこたえになりました。
「果実をひとつ火のなかにいれなさい。それは私のもとへとどくだろう。おまえたちのニェヴェナでの食物とするために、私は一本の果樹をそだてよう」
人間がそのとおりにするとよいかおりのけむりがまっすぐに天へのぼっていきました。
ささげられたオレンジはニェヴェナの中心にどっしりと根をはり、かぞえきれないほどの光の果実をつけるようになりました。
神さまはそれから、オレンジのたねをせかいじゅうにまいて、それぞれの土地にふさわしくそだつように、人間がどこへいってもうえることのないようにしてくださいました。
ですからみなさんは、神さまのおのぞみにそむくことのないように、よくよくものごとをみて、かしこくしょうじきな人とならなければなりませんよ。
きょうのお話はこれでおしまいです。さいごまでいい子できけたごほうびに、神さまの果実、オレンジをあげましょうね。
あらまあ、たべてもいないのにもうげんきになって。きちんとみなさんにたりるようにしていますから、おぎょうぎよく一列にならんで。
はい、ひとりひとつずつ。
またお話をする日にはかねをならしてあいずしますから、そのときにはまたどうぞいらっしゃい。