第ニ棟 同じ釜の飯を食う者
「な、何だよ、これ」
俺は今見た光景が信じられなかった。この機関は人殺しもしてるのか。僕の目の前には、さっきまで生きていた奴らの脳味噌がぶちまけられている。見るに耐えない光景がそこに広がっていた。
「君もこうなりたいかい?なりたくないよねェ。誰だってそうだよォ」
じゃあ自分が厨二病であることを認めて治療に励むんだね。遊馬咲は冷たく、吐き捨てるようにそう言った。
「セロ、こいつを203に放り込んでおけ」
「はい、マスターハヤタ」
不意に液体を口の中に流し込まれる。本能で飲んではいけないと判っていても、セロのどの渇きに負けて飲み込んでしまった。瞬間、猛烈な眠気に襲われた。瞼が落ちる。
「一年以内に治るかなァ」
愉快そうな遊馬咲の声を最後に俺の意識は飛んだ。
―――
「ここは……?」
まだ少し頭がぼんやりする。さっきまで見ていた場所とは違う天井が広がっていた
「おはようさん 、ここは君の家みたいなもんや」
何を言っているのか意味が分からなかった。家?それじゃあもう俺は家に帰れないのか?そもそもここはどこだ?俺の手首にはバングルのようなものがつけられている。外そうとしても中々外れない。
「それは君の暴走を止めるリミッターみたいなもんや。勿論自分らも外せへん」
「は?暴走?どういうことだ?俺の封印されし力が暴走するのか?」
「まぁそんな感じやな。自分の場合は妖が出てくるのを防ぐためやな」
妖?こいつ、頭おかしいのか?俺は起き上がって改めてそいつの姿を見た。赤黒い髪の毛で、口元にヘラヘラした笑みを浮かべている。気味が悪い。
「ここにいるって事はお前も機関の連中に捕まったのか?」
「機関?ようわからんけど、まぁそう言う事やな」
そうか、こいつも俺と同じように……
「あんさん、名前なんて言いはりますの?」
言い張る?名前を言張れと言うのか?頭おかしいのかこいつ。
「言いはるっていうのは何て言うのって言う意味。関西地方での方言さ。そんなこともわからなかったの?」
「おわっ!お、お前いつの間に!」
突然、横から静かな声が聞こえてきた。振り向くとそこには俺たちと同じバングルをした男が座っている。生憎、そいつの前髪が長いせいで顔つきはよくわからない。俺は声が聞こえるまでそいつの存在に気づかなかった。
「君、名前なんて言うの?僕に教えてよ」
「―――俺は波崎たくみ。アヌビス神に選ばれ、『終焉を迎える審判』を与えられし男だ」
「じゃっじめんと?風紀委員みたいなもんか……自分はリト言います。妖の生まれ変わりみたいなもんや」
リトと名乗った男がもう一人の男に名のるように促したが、もう一人はそっぽを向いて言った。
「僕は…名乗るつもりなんてない、君達と馴れ合うつもりもないよ」
「なんだとっ…!お前、誰に向かってその口をきいている!」
「まぁまぁ二人とも落ち着きぃな。ここは同じ釜の飯を食うもん同士、仲良くしようや」
ひと通り自己紹介が終わった後、俺は気付いた。この部屋の隅にドアがある。何とかドアを破壊して外に脱出できないものかとドアのある方に駆け寄り開けようとするが、生憎鍵がかかっていて開かない。
「クソッ巫山戯るな!俺はこんな場所にいるべきではない!出せ!」
俺はドアを蹴り、思いっきり殴った。しかしドアはビクともしない。
「開く筈がないやん。ここは自分らを閉じ込めておく施設やで?逃げられるんやったらとっくの昔に逃げてるわ。監視カメラもあるから、あんまそんなことせん方がええで」
「クソォ……!」
この施設に収監された、俺達の最悪な生活が始まった。