第一棟 自己愛性妄想症候群
初投稿となります。
できるだけ毎日投稿を心がけますので、皆様よろしくお願いします。
2017/3/14 インフェルノを“地獄”に変更いたしました。
主人公が地獄へと送られるであろうリミットを一年に延ばしました。
朝、起きると母さんが俺を見下ろしていた。
「たくみ…お客さんよ」
母さんは俺に誰が来たのかは言わない。それはそうだろう。だって、僕を追っている機関の奴らに記憶を操作されているのだから。
「母さん…。今助けてあげるからね!」
僕は母さんを操っている機関の連中を俺のこの力、『終焉を迎える審判』を使って倒してやる!
―――
東京の都心近くにあるマンション桜。金持ちが住むようなマンションでもないこのマンションに銃を装備した警官二名がやってきた。目的は【厨二病患者】の逮捕及び捕縛。質の悪い場合であれば射殺も許可されている。
さて、警官二名は容疑者宅へと到着する。玄関のインターホンを押すと少しやつれたような雰囲気の女性が現れる。被疑者の母親で、今回の通報者だ。
「はい、うちの息子はもう二年間も自分に不思議な力が宿っていると言ってきかなくて…。ううっ…」
「お辛かったでしょう。ですが、我々が来たからには大丈夫です。必ず息子さんの病気を治して見せます」
「ですのでまずは息子さんを呼んできていただけますか?」
そういわれると女性は部屋の奥へと消えて行った。数分も立たないうちにどたどたと言う足音と共に15歳ぐらいの少年が息を荒げて出て来る。
「機関の連中め!ここも嗅ぎ付けたか…。だが、不運だったな。この俺が来たからにはお前ら何て」
パン。と、乾いた音が響く。警官のうち一人が少年の頬を掠めるようにして発砲したのだった。これには少年も耐え切れずに気絶してしまう。
「ではお母様、息子さんが完治されたら報告いたします。―――ですが、もし治らないと判断した場合は息子さんの生きた姿を見るのはこれで最後かもしれません」
そう言われた母親は泣き崩れ、気絶した息子の頬を撫でる。その頬には一筋の涙が伝っていた。
―――
気が付くと俺の目の前には白い天井が広がっていた。
「クソッ!!!本格的に機関の連中が僕を…」
「違うよォ~」
どこからともなく声が聞こえてくる。
「誰だ!?」
僕はあたりを見渡そうとするが、身動きが取れない。四肢を動かそうとするとジャラリと硬質な音が響くだけでピクリとも動かない。
「無理に動かそうとしてもだァめだよォ。君は今鎖で四肢を手術台に繋がれているからねェ___そして、さっきの誰だって質問だけどォ、僕は遊馬咲隼太。厚生省厨二病処理班班長っていう役職なんだけどォ、君にはこの意味が分かるかなァ?」
そこまで言うと眼鏡をかけた細目の男が僕を覗き込む。この男が遊馬咲なのだろう。だが、遊馬咲は何を言っているんだ?
「僕は厨二病なんかじゃない。あんな妄想だけの屑どもとは違う!僕はアヌビス神の加護を受けているんだ。本当に人類に終焉をもたらす審判を下す…」
「くだらない妄想はやめろ」
遊馬咲の冷徹な声に思わず背中がぞくりとする。
「お前は日本という世界でも最高水準の科学力を持つ国の厨二病検査を受け、陽性と診断されたんだ。いいか?お前の脳には自己愛性妄想症候群。通称厨二病を発病させる寄生虫がいるんだ。昔は厨二病なんかありふれた病気だったらしいが、現在の厨二病は違う。寄生虫が自分の餌であるアドレナリンを宿主の脳から大量に分泌。それの影響によって傷害事件などが多発した。だから厨二病患者は隔離するようになった。
―――って、これくらいの事は小学校で習ったはずだよねェ」
この男は何を言っているんだ?僕が厨二病?そんなはずがない?
「―――まァだ自分が厨二病じゃないと思っているみたいだねェ…セロ」
「はい、マスターハヤタ。何でしょうか」
遊馬咲がセロと呼ぶとどこからともなく新たな声が増えた。女のようだ。
「被検体34A27を“地獄”へ」
「かしこまりました」
そういうと僕の視界が揺れる。僕が載っていた手術台をセロが運んでいるみたいだ。
しばらく揺れているが、視界に映るのは白い天井のみだ。そうしていると、急にピタリと揺れが収まり、台が縦になっていく。すると視界が正常になり、目の前には公園のようなものが広がる。人間が数人いるが、様子が変だ。全員がギラリと光る赤黒いものを持っている。…包丁か?すると不意にその中の一人が包丁を振り上げ、もう一人の脳天に勢いよく振り下ろした。辺り一面に頭の中身が散乱するが、周りの人間はそれを気にする様子はない。
腹の奥から何かが上がって来る。それが喉を通過して僕の足元を濡らす。
「―――これは、君のしばらくしてからの姿だよォ。君も厨二病を治さなければ…そうだねェ、一年後ぐらいにはあそこの仲間入りすることになるだろうねェ」