マイク持ったら変わるかも?
「・・・・・・ええ?」
しばらく間があって、鹿鳴くんは今日1番大きな声を出した。
「ほら、見ての通り私たちってリズム隊しかいないから。瑞希のキーボードと鹿鳴くんのボーカルが入ってくれたら最高なのよ」
「でも、僕は人前で歌ったとこが無くて」
「大丈夫よ、どんな事でも最初は初めてなんだから」
「でも・・・」
「んー、じゃあ取り敢えずマイク握ってみようか」
「え!ちょ、ちょっと」
「瑞希もボーッとしてないで、キーボードの前に立つ」
「私もなの?」
カンナに追いたてられて、私たちはそれぞれの場所に立つ。
「んー、いいわよいいわよー。なんかバンドやってますって感じになってきたー」
カンナはニヤニヤしながら私たちを見比べている。
正面から見ると。
真ん中に鹿鳴くん、その右に京くん。
左にはキーボードの私がいて、後ろにドラムのカンナ。
少し変な編成ではあるかもしれないけど、それでも確かにバンドっぽくなっている。
「さってー、それじゃ早速だけど1曲いってみる?楽譜はみんなの前に置いてあるからね」
カンナの準備の良さに圧されて、なんとなく演奏を始める空気になってしまった。
鹿鳴くんはずっと困ったようにうつむいてるし、私だって初めてで心の準備が・・・
そんな、私の心に構わず、カンナはドラムスティックを鳴らしてカウントをとろうとした。
その時だった。
「ご、ごめんなさい!!」
鹿鳴くんはマイクスタンドに丁寧にマイクを戻し、私たちに頭を下げると、カバンを持ってスタジオを出ていってしまった。
「ちょ、鹿鳴くん!!」
突然の事でびっくりしたけれど、いや、びっくりしたからだろうか。
身体が勝手に動いていた。
「カンナ、ごめん」
「オッケー、頼んだわよ」
鹿鳴くんの後を追いかけようとする私にカンナが何かを手渡した。
それが何か見る余裕も無く、私もスタジオを飛び出して行った。