じゃあ、勧誘しちゃおうよ
「ふえ?」
私の案を聞いたカンナの第一声はそんな気の抜けた声だった。
「ごめんごめんごめんごめん、もう一回言ってもらっていい?」
「だから、うちのクラスの鹿鳴くん。彼をボーカルに誘ってみたらって言ってるの」
「いやだって、あの子内気そうだしいつも下向いてるし前髪で目元隠してるし声も小さいし」
まあ、その通りなのだけどずいぶんと言ってくれる。
「でも、髪上げたら案外可愛い顔してるのよね。あたしこないだ見たけど」
「ええっ!! 見たの?見たことあるの? なんで知ってるの?」
「だって、漫画じゃあるまいしあの髪で前見えるのかなーって」
「なんなのよ、もう。カンナは男女構わずスキンシップが多すぎなのよ」
「へ? あれ? もしかして瑞希さん、鹿鳴くんの事が気になっちゃってたりしてる?」
「ななななに言ってるのよ。そそそそそんな訳ないじゃない。たただあれよ。彼歌うまいからバンドのボーカルにどうかなって」
「聞いたことあるの?」
「多分なんだけど」
そこでやっと私は彼が歌い手をしているんじゃないかという話しをした。
「うーん」
なのにカンナはなんだか浮かない顔をしている。
「ベース、ドラム、ボーカルって、なんかバランス悪くない?」
「あ、んー、確かにそうかも」
私が知らないだけでもしかしたらそんな編成もあるのかもしれないけど、でもカンナたちのバンドには違和感がある気がする。
「やっぱりなんか欲しいのよね、ギターとか・・・・・・!!」
いきなりカンナの目が輝いた。
「な、なに?」
「瑞希!! あんたやっぱりキーボードやりなさい!!」
「へ? どうしてまた話しが戻るのよー」
「そしてあたしは、鹿鳴くんを勧誘してくる!!」
「えええっ!!」
「そしたら気になる鹿鳴くんと、もっとお近づきになれるわよー」
「だから、そうじゃないんだってばー!!」
私の叫びを聞いてるのか聞いてないのか、カンナは猛烈な勢いで走り去って行った。