恥ずかしそうに話す彼が
カンナと別れ自宅に帰った私は、早速パソコンを立ちあげる。
YouTubeを開き登録しているチャンネルをクリック。
ユーザー名を決めかねているのかいつまでたっても(仮名)とだけ書かれたチャンネル。
「あ、新しい曲だ」
新しいとは言っても新曲という事ではない。
有名なボカロの、しかも女の子が歌っている歌を、その男の人はゆっくりとしたバラード調に編曲し歌っているのだ。
そう、彼は歌い手さんと呼ばれる人たちの1人。
なのだけど、全然有名じゃなくて、再生回数もそれほど伸びていない。
でも、私は彼の伸びやかで優しげな声が、とても好きだった。
そして。
そして最近さらに気になっているのが。
この歌い手さんが鹿鳴くんなんじゃないかという事。
彼は以前1度だけ、顔を晒したことがあった。
晒したといっても、大きなマスクをつけ、目元しか見えなかったのだけれど。
それでも、うつむき加減で恥ずかしそうに話す彼が、その目元が、鹿鳴くんそのものだったのだ。
その1度限りで彼は顔を出すことはなかった。
今回も画面には満開の桜の画像と歌詞が流れているだけ。
ゆったりとしたテンポのまま、曲は終わり、小さな声で「ありがとうございました」とお礼を言って動画は終わった。
私はベットに倒れ込むと、歌の余韻に浸りながらある事を考えていた。