2003年3月 SIDE SAKUYA
雪はそんなに積もってなかったけれど、この道路状況から見て俺のプレリュードでは、空港まで行けそうに無い。
夏昼に頼んで夏昼の軽自動車を借りることになった。この軽だってボロボロだったけど、プレリュードよりは走ってくれる。
志憧は朝に九州を出る便で来ると言うことで、とーこが弁当を作った。はやめに行って弁当を食べながら待ってることにした。
俺たちの住んでいる所から空港までの道が判らないから地図を広げて、とーこの危なっかしいナビで行くしかなかった。途中、とーこの携帯が鳴る。
「はい。はい。11時30分ですね。ありがとうございます。」
携帯を切ると「志憧くん、飛行機に乗ったって。11時30分に着く予定だよ。」と、嬉しそうに言った。
「たった一人で飛行機に乗って来るんだね。大丈夫かな。」
「志憧は強い子だよ。大丈夫さ。」
そう言ってとーこを落ち着かせたが、俺の方がドキドキしていた。
その後も、右と左が怪しいとーこのナビで、空港周辺までようやく着いた。その頃にはポツポツと雨が降ってきた。
「ここ、真ん中車線。」
「普通に空港に向かっていいのか?」
「うん。途中でみだりに曲がるから。」
「左、だろ?」
「そう。」
やっぱり、とーこのナビは信用出来ない。
「次、左。」
「本当に左か?」
「うん、さっきので学んだ。」
とーことのドライブは危なっかしくて、楽しい。
左に入る道はだだっ広い無機質な空間が広がってて、本当にこっちで合ってるのか不安になるくらいだった。
青看板を見ると、次は右に曲がるという選択肢しかないようだ。
右に曲がると、『貨物ターミナル』と書かれた、これまた無機質な建物が建っていた。
その前にある駐車場に車を停めて一息つく。
「お弁当、食べる?」
「ああ。」
到着時間までもう少し。とーこには悪いが、ワクワクして食べた物の味なんて覚えてない。
「俺、外でタバコ吸ってるわ。」
「雨降ってるし、ここで吸ったら?」
「新鮮な空気も吸いたいし。」
とにかく、いてもたってもいられなかった。
タバコを半分くらいまで吸い終わった時、とーこが車の中から、出てきた。
「そろそろ時間だよ」
「行くべ」
貨物ターミナルに入っていく。
そこで受付をしたら、奥から見覚えのある青いバスケットが出てきた。
「こちらで間違いないですね。」
「はい。」
とーこと俺の声が重なった。
差し出された用紙に、とーこがサインする。
「どうぞ。」
言われ終わる前にバスケットのストッパーを外して中をのぞき込んだ。
そこにはポシャポシャの黒と茶色の毛が生えた大きな目の小さな不思議な物体がいた。
「お前、本当にヨーキーか?」
写真で見るのとずいぶん違う。きっと、少し大きくなったからだ。でも、可愛くて仕方ない。抱き上げると骨が細くて壊してしまいそうでおっかない。そして、犬臭い。
「めんこいなぁ。志憧。」
「志憧くん。初めまして。」
志憧は、初めて連れて来られたところにおっかなびっくりしながらキョロキョロしていた。撫でてやって顔の前に持ってくると、ペロッと鼻の頭を舐められた。
俺はそれだけでメロメロだった。
バスケットに入れ直して車まで運ぶ。志憧を後部座席に乗せて、車に乗り込んでエンジンをかけた。
「家に帰るか。」
「うん。」
そうだ、俺たちには『家』がある。
さっきと逆に無機質な道を通り抜けて進む。
「見て見て、さくや。綺麗ねぇ」
正面には虹が広がっていた。
「おぅ。」
珍しく、完璧に半円形に架かった虹に吸い込まれるように車は進んだ。
「ねぇ、さくや。」
「ん?」
「ママに手紙を書いたの。大切な人と家族を築きますって。」
「そんなコトして、大丈夫なのかよ。とーこの母さんは、とーこが普通に男と結婚して、幸せな家族を持つことが夢なんだろうに。」
「だって、そんな日は絶対に来ないんだよ。期待させてる方が残酷だよ。さくやの事、女の子だって書くか悩んだけど、隠しても仕方ないから、正直に書いた。とーこはこれで良かったと思ってる。」
「もし、とーこの母さんに拒絶されたら、俺が責任を持ってとーこを守るから。」
「違うよ、さくや。拒絶されても、とーこがさくやを守るから。さくやは安心してて良いんだよ。」
「3人で、幸せな家庭を作ろうな。」
俺たちの進む道には、何が待っているか判らない。
これから沢山の出会いや、別れ。偏見や差別。とーこが遭ったような事件や、事故に遭うことだってゼロとは言いきれない。
志憧が病気になったり、怪我をするかもしれない。
また、酒に酔って失敗することも多いだろう。とーこと喧嘩したり、傷付け傷付き、家族でいることが困難になるかもしれない。
でも、どんなことがあったとしても、俺はこの守るべき家族を愛し、慈しみ、大切にしていきたいと思う。
それが俺の願いだ。




