2002年4月 SIDE SAKUYA
甘い言葉を囁いてやって、キスして、抱き締めてやれば、大抵のオンナはオチる。
知っててやってる。今まで、何人のオンナを口説いたと思ってるんだ。だから行きつけの飲み屋では「桜夜は止めとけ。」って言われるんだ。
どーせ明日になれば忘れてる。そう思った途端に、頭の中のいつもは使わない部分が音を立てた。
忘れちゃいけないぞって。
何なんだ。タバコワンカートンの賭けは確かに財布に優しくない。けど、そんなことくらいで記憶できるんだったら、今までもっと高価なものを貢いでくれたオンナはごまんといた。けど、酔った勢いで名前すら忘れてきた。
何なんだこの感情?
混乱して、だから俺は酒に逃げることにした。
「先輩。ビール下さい。」
「今日はずいぶん飲むな。その分だと本気で記憶飛ぶぞ。」
「大丈夫ですって。あ、先輩もどうぞ。」
「お、いただきます。」
乾杯して、さっきとーこが入れてくれた携帯のアドレスを眺める。
それは、簡単な単語と文字の羅列だった。
「これ、どういう意味?」
「とーこね、QOOに似てるって言われるの。」
「QOOって飲み物の、キャラクターの?」
今は前髪を下してるから実感がわかない。気付かれないように手を出して、前髪をよけてみた。
「やめて。」
「似てるべ。マジウケる。」
要するに、デコが広いんだ。とーこは。「じゃあ、HIYOは?」
「昔、チキンラーメンのヒヨコに似てるって言われて……。」
言い終わる前から吹き出した。目が大きいからか、とーこはキャラクター顔だ。
「そんなに笑わなくてもいいじゃん。」
ふくれた顔がまたQOOにそっくりだ。あんまり笑ってとーこの機嫌を損ねるとなんだかかわいそうな気がして、頭をポンポンと撫でた。
「数字は、誕生日?」
「そう。」
「じゃあ、覚えとく。」
「え?」
「お前の誕生日。」
オンナは記念日に弱い。判ってて言ってる。そんな自分がちょっと嫌だった。




