2003年1月 SIDE SAKUYA
こんなこと、家族に言わなくてもやっていける。現に今までだって、オンナと付き合ってきて、その誰一人として家族に紹介したことなんかない。
けど、とーこは「彼女」じゃないような気がする。どちらかと言えば「家族」に近い。
だからか。兄弟姉妹の誰か一人には紹介しとかなきゃと思うのは。
一番適当なのは、とーこが家を借りてくれるまで転がり込んでいた、三人の子持ちの年子の妹。夏昼。アイツなら人生のいろんな場面に遭遇している。話すならアイツしかいない。
メールにするか電話にするかでしばらく悩んで、メールだと言葉のちょっとした行き違いで誤解を生んではいけないと思って電話をかけた。
「もっしー。」
「あら。久しぶり。」
「あいつら、元気なの?」
「すこぶる、元気だよ。」
三男の斗夢の百日以来逢ってない。もうみんな、ずいぶん大きくなったことだろう。
「どうしたの?急に?」
「あのさ。あんただけに話しておきたいことがあるんだけど。」
「なにさ?」
「わっち、彼女が出来たから。」
「あっそ。で?」
あまりに普通に流されて、こっちが拍子抜けした。
「あんた、ビックリしないの?」
「ねーちゃんのことだから、いつかそうなるとは思っていたし、驚きはないね。」
「さすが、妹歴長いな。」
「二十七年やってれば判りますって。」
「で、もう一緒に住んでるから。」
「ふうん。おめでとー。」
「この話は、あんたにしか言ってないから。」
「拓真と紅葉には黙っとけってことね。」
「そう、よろしく。」
「良かったね。ねーちゃん。やっと幸せになれるじゃん。」
夏昼は俺が男と付き合ってた時代を含めて俺の色んな苦労を見てきている。オンナと付き合ってた時代は知らなくても、家を間借りしてた時、車で寝てた時、俺が無茶苦茶に遊んでは遊び歩いてた事をよく知ってる。
「ああ。今度連れてくよ。」
「りょーかい。」
「子供らにもよろしく。」
「言っとくわ。じゃね。」
妹にとっても、俺が彼女を作って当然に見えてたんだ。確かに俺は短髪で化粧もしない。
いつもジーンズにTシャツかロンTでスカートなんて持っていない。ヒールなんて履いたら骨折しそうだし、言葉遣いも乱暴だ。
ただ、俺はこの世界を知る前、男と付き合っていたことがある。今と変わらず短髪でスカートも履いたことはなかったが、その男はそんな俺でも良かったらしい。俺は家事をこなし男と生活することが不自由だった。その男とは、結婚まで話が進んだことがあった。俺は家と家のしがらみにがんじがらめにされるのが嫌で、結婚を断った。
そんな時だ。携帯が普及し始めて、携帯でインターネットにアクセスできるようになって、ビアンのサイトが見られるようになり、今でいう出会い系ってのが出来てきたのは。
俺は夢中だった。失敗したことも何度もある。でも、こんな世界が広がっていることが楽しくて仕方なくて、男と付き合う意義を見出せず、男と別れた。
夏昼に話したらなんだかスッキリした。
今度とーこを夏昼の家に連れて行こう。三人の甥っ子たちにもしばらく会ってないし。
仕事から帰って来たとーこに、今日、夏昼にとーこと俺の関係を話したことを告げた。
「さくやは、それで大丈夫だったの?」
「ねーちゃんらしいって言われた。」
「でも、ビックリされたでしょう?」
「いや。俺の方がビックリするくらいスルーだったわ。」
「ごめんね。さくや。さくやは家族の人に話してくれたのに、とーこにはそれが出来ない。」
「とーこは一人っ子だから仕方ないだろ。」
俺には兄弟姉妹が三人いる。リスクが全然違う。
「夏昼にさ、やっと幸せになれるって言われた。俺たち二人で幸せになるんだもんな。」
してやったりの顔でとーこを見つめてやる。とーこはしばらく考えて「とーこが幸せにできるかは判らないけれど、さくやはとーこを幸せに天才だから、きっと二人足したらきっちり二人分幸せになるんだと思う。」
「とーこ、真面目すぎ。」
思わず吹き出してしまった。
「今度、夏昼の家に行こうぜ。甥っ子たちが可愛いからよ。」
「甥っ子ちゃん、三人いるんだっけ?」
「上から風弥、摩周、斗夢。斗夢なんて、百日以来逢ってないから随分大きくなったと思うぞ。」
夏昼のところにとーこを連れていくことを想像する。兄弟姉妹に初めて紹介する付き合ってるオンナ。夏昼は電話ではああ言ってたけど、実際はどんな反応なんだろう。
俺は自分の家族というテリトリーにとーこを組み込んだことをなんだか嬉しく思った。




