2003年1月 SIDE TOOKO
今年は雪が多い。さくやも出勤前、愛車のプレリュードを雪の中から掘り出すのに苦労している。帰ってきた時くらい、出来るだけ雪かきの苦労を半減させてあげようと、駐車スペースを雪かきするんだけれど、かいているそばから降ってくる。今日もお仕事から帰って来て沢山着込んで雪かきをしてみたは良かったけれど、お夕食を作りにお家に入ったらまた雪が降ってきた。
『今から帰るよ』
さくやの帰るメールを見て、作りかけのお夕食は一旦手を止めて、また着込んでお外に出た。
風がビュービューいっている。やっぱり、さっき雪かきしたところはまた雪が溜まっていた。さくやが帰って来るまでに、少しでも停めやすいようにしておかなきゃ。
「よいしょ。」
思わず声が出る。今日の雪は水を含んで重たい。あたしの身長を越える雪山に雪を捨てるのはなかなか骨が折れた。でも、さっき雪かきを済ませていたから、さくやが帰って来る頃には、駐車スペースは出来上がっていた。
さくやは車を停めて、すぐに出てきた。
「とーこ。疲れたべ?」
「大丈夫。」
「今日の雪、重いもんな。だいじょばないだろ。」
「平気だよ。」
本当は腕と腰が痛かった。でも、さくやがお仕事から帰って来てこの雪をかくことを考えたら、ずっと良かった。
「すぐ風呂沸かすから、一緒に入ろうな。」
冬場は玄関が凍るから、お風呂に入るのを控えていた。瞬間湯沸かし器のお湯で頭と身体を洗ってそれで済ましていた。でも、身体の芯から温まりたい時はやっぱりお風呂に限る。
あたしは、このお家のお風呂の沸かし方を知らない。何だか昔の機械がそこに置いてあってそれを操作するんだけれど、それが難しそうで触ったことがない。
さくやは難なくお風呂を沸かしてくれた。あたしはその間に、お夕飯の準備を再開させる。出来上がった頃にさくやから声がかかった。
「沸いたぞ。」
「じゃあ、お風呂に先に入ろうか。」
「んだな。」
ここに引っ越してきてから、何度もお風呂に入ったけれど、今日は一番寒い。玄関を経由するだけで全身に鳥肌が立った。
「とーこ、先に洗うだろ?」
「うん。」
いつもの順番通り、あたしが先に髪と身体を洗って、交代して、さくやが同じようにする。あたしはさくやがシャンプーをして目を閉じてる隙に、腕や腰を浴槽の中で揉んだり叩いたりして、少しでも痛みを無くそうとした。
最後に二人で浴槽に入っている時に、さくやが「腕、痛くねぇの?」と突っ込んできて、さくやは後ろにも目がついてるんじゃないかとビックリした。
「何で?」
「今日の雪は重かったろ。あんな雪、雪山まで持ち上げたら、俺だって腕、痛くなるからさ。」
そう言うと、さくやはあたしの右腕を取って優しくマッサージし始めた。
「ここ、痛い?」
痛いところで顔を歪めてしまったのか、念入りにマッサージしてくれる。右腕が終わったら、左腕も。
「腰も痛いだろ?後で湿布貼ってやるからな。」
さくやには全部お見通しだった。
「さくや。のぼぜちゃうよ。」
あまりにも丁寧にマッサージしてくれているのが申し訳なくて言ってみたけれど、さくやは「あんな寒いとこに居たんだ。身体の芯から温まるまで入ってなきゃダメだぞ。」と聞いてはくれなかった。
結局、熱いお風呂に長いこと浸かって、玄関を通る時、寒いと思う暇もなく居間までたどり着けた。
「あっちぃ。ビール飲みてぇ。」
「冷蔵庫に冷えているよ。」
しばらく、バスタオルを身体に巻いたまま身体が適温になるのを待つ。さくやは腰にバスタオルを巻いたままビールを飲んでご機嫌そうだった。
「とーこさ。」
「なぁに?」
「ありがとうな。」
「何が?」
「雪かき。」
「何で?」
「何でって、大変だったろ。」
「だって、いつかさくやが言ってたじゃない。出来る方が出来る時にやったらいいじゃんって。今日は、とーこが、あ、出来るかなって思ったからやっただけ。無理もしてないし、頑張りすぎてもいないよ。」
「結果、腕パンパンで、腰にもきたけどな。」
「もう。それは歳のせいです。」
もう、さくやとは口きいてあげないんだから、って思って、ふんって横向いたら、後ろから抱きすくめられた。
「とーこ。ありがとう。本当に助かった。」
耳元で、そんな優しい声で言うなんて反則だと思う。それを言ってやろうとさくやの方を向いたら、キスが降ってきた。
さくやはあたしの心を操る天才だ。




