2002年4月 SIDE TOOKO
どうして、そんな展開になったのか判らない。
はじめ、ぶっきらぼうに話していたさくやも、酔いが回るにつれ表情も豊かに饒舌になって、いろんな話をしてくれた。中でも彼女に関する話題が一番多かったけれど、さくやはなんだか幸せそうには見えなかった。
あたしとは正反対の美人で「夜のオンナ」で派手な彼女らしい。勤めてるクラブではナンバーワンで、地方紙だけど雑誌にも載ったことが数度あると言っていた。
けれど……恋愛って外見だけじゃあ幸せになれないんだなって、さくやの語り口で判る。そんな彼女に「振り回されてる」さくや。
「さくやは大変なんだね。」
正直な感想を言ったら、さくやはハトが豆鉄砲を食らった時ってこんな顔するんだろうなって表情をした。あたし、何か変なことを言っただろうか。
それからも話し続けたけれど、昨夜の口調はさっきよりも優しくて、あたしはこの人とお友達になれるかもしれない。そう思った矢先だった。
「ん。」
さくやがくわえているのはチャームで出てきたお菓子。「ん。」って……ポッキーゲームみたいにこっちからも食べろて事なんだろうか。少し強めに肩を抱かれたから、冗談っぽくお菓子の端に口をつけたら。
そのままキスが降ってきた。
「どーせ、桜夜のことだから、今夜のコト忘れるだろ?」
ようやくお客さんの波が引いて、斗亜さんはあたしたちが座っているテーブルの前に強引に椅子を持ってきて通路を塞ぐ形で座る。
「忘れないですよ。」
「瞳呼は純粋なんだから、騙したりするなよ?この世界慣れてねぇんだし。」
あたしの上の猫三匹は、斗亜さんにもいつきさんにも、あたしが「純粋」であると認識させられてるらしい。そんなに純粋でもないのにな。
「騙すってなんすか?」
「その手とか。」
さっきから、あたしの左手はさくやに握られている。斗亜さんに指摘されてもその手を離すことなく、さくやは飄々としていた。
「普通じゃないですか。」
「ま、桜夜にとってはな。でも瞳呼はまだ何も知らないんだから、程々にしろよ?俺は友達を紹介したんだからな。知らねぇぞ。」
「判ってますって。」
「じゃあ、お前、明日もここに来い。約束忘れたら、瞳呼と俺にタバコ、ワンカートン買ってよこせよ。」
「ちょっと、なんすか。その強引な賭け。」
「そのぐらいしないと、忘れるだろ。ただ、今のお前の行為は忘れていい問題じゃないからな。」
ちっとも突き放した口調ではなく斗亜さんが言うと、目の前のビールをグビリと飲んで立ち上がった。」
「で、お前らアドレスとか交換したの?」
言い残して椅子を直すと斗亜さんはカウンターの中に消えた。
「とーこ、携帯持ってる?」
「うん。」
「アド交換するべ。」
そう言うが早く、さくやは自分の携帯を差し出してきた。
「入れんの面倒だから入れて。」
あたしは使い慣れないさくやの携帯に苦労しながら、自分のアドレスを入力する。
「はい。」
「じゃあ、送るから。」
さくやは何やら携帯を操作すると「送ったから。」にやりと笑って言った。
すぐにカバンの中で振動しだしたあたしの携帯。
メール画面を開いて、あたしはビックリした。
『明日も逢いたい。』
すぐさくやを見ると、唇の前に人差し指を立てて、このことは秘密だぞって顔をする。
店内を見回すと斗亜さんもいつきさんも常連のお客さんの相手をしていて、あたしたちの行動には気付いていない様子。その隙に、もう一度キスが降ってきた。
「お前に逢いたい。」
……なんて、切ない声で話すんだろう。なんて切ない目をするんだろう。
あたしは、さくやの右手をさっきよりも強く握った。
「逢おう。」
言うと、さくやはあたしの耳の傍まで近づいてきて。
「俺、お前のコト好きかもしれない。」
反則な一言を囁いた。




