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俺たちの進む道には  作者: 風 桜月
2002年11月
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2002年11月 SIDE SAKUYA

 もうすぐ雪が降る。

 なのに、俺は決断できないでいる。

 とーこの事を。

 実紗と別れた時、とーこに言った。「俺、彼女と別れたけど、直ぐ次にお前と付き合うって出来ねぇ。ごめんな。それは気持ちの整理が出来て、ちゃんとお前に向き合えるようになってから、きちんと俺から言いたい。それでもいいか?」って。それは、実紗が駄目だったからじゃあとーこでいいやって言う半端な気持ちで付き合うようなオンナじゃないって判っているから言った言葉だった。

 俺の幸せを誰よりも祈っているとーこ。実際俺はとーこを好きなのかと問われたら、好きなんだと思う。でも、好きと言う気持ちよりは愛おしい。

 だから、大切にしたい。上手く伝えたい。

 今日もとーこはこの部屋に来る。本当だったらあの家を引き上げさせてこの部屋で一緒に住みたい。けれど、そうすると、とーこの職場からはかなり離れてしまうし、不便だろうから言わない。言えない。

『着いたよ』

 今日は休みで部屋に着いたらメールするように言っていた。メールを見て玄関のカギを開ける。

「お疲れ。」

「お疲れさま。」

「お前、明日仕事?」

「ううん。明日は行事もないし、お休み。」

「じゃあ、泊まってけよ。」

「そう言ってくれるの、ちょっと期待してた。」

 照れたように笑ってとーこは荷物を置くと「夜ご飯のお買い物してきて無いの。車出してくれる?」と聞いてきた。

「おうよ。」

 このところ、ビールを買う金がなくて焼酎ばっかり飲んでいる。とーこと買い物に行けばビールをGET出来るかもしれない。

「ビールが飲みたい。」

「そう言うと思った。でも夜ご飯は玉ねぎのかき揚げだよ。」

「なんだそりゃ?」

「貧乏料理。」

 スーパーに着くと、とーこは一玉七十八円の大きな玉ねぎ二つと、一袋八十八円の小麦粉と、一本百八十八円の油と、ビールを一ケース、カートに乗っけてレジに並んだ。ビールだけがやけに贅沢品に見えて申し訳なくなった。

 会計を済ませたビールと、その他諸々を全部持って車まで運ぶと、とーこが車の扉を開いてくれた。

「重いのにごめんね。」

「消費するのは俺だから。」


 家に帰るととーこはキッチンで何やらスンスン鼻を鳴らし始めて、泣いてるのかと思って心配して声をかけたら「玉ねぎ切ってるの。」と返事が返ってきた。

 実は、俺は玉ねぎが好きではない。生でも火が通っていてもあの味が好みではない。でも、今は節約しなければならない。それに、節約とはかけ離れたビールを飲んでる張本人はこの俺だ。文句は言えない。

 天ぷらがカラカラ揚がる音が聞こえてきて「出来たよー。」食卓テーブルには山盛りの玉ねぎのかき揚げが持ってこられた。これを、天つゆで食べる。

 とーこの考えることは、ワイルドだ。

「いっせーのーで。いただきます。」

 そう言った後、とーこは必ず「ありがとうございます。」という。作ったのはとーこなのに、だ。

「うまっ。」

 生まれて初めて玉ねぎを食べてもいいと思った。

 カラカラ揚がった玉ねぎは甘くて美味しかった。これでお腹いっぱいにしようと考えているとーこはやっぱりワイルドだ。

「どんどん揚がるから、どんどん食べて。」

「まだあんのか?」

「まだまだあるよ。明日は玉ねぎ天丼だよ。」

「お前の考える事、すげーわ。」

「仕方ないじゃん。貧乏なんだもん。」

 ここで、頭の中でカタって音が鳴った。ここに引っ越して来れば家賃は減るんだぞって。

 でも、言いそびれてしまった。

 食事が終わって、片付けている間にもとーこに伝えたいことは上手く伝えられなかった。

 酒の力を借りても上手く言えないなんて、今までなかった。そのくらい緊張している。

「ねぇ、さくや。」

「ん?」

「それ。」

 初め何を指しているのか判らなかった。とーこの指先を見ると俺の左の薬指を指してる。

「外さないんだね。」

 言われて初めてそこに指輪が付いていることを思い出した。実紗とお揃いの指輪を今まで無意識にしていた。

「ああ。忘れてた。」

 外して、テーブルの上に置く。

「さくやはまだ、彼女の事を忘れていないんだね。」

 そんな事はない。現に指輪もとーこに言われるまで忘れていた。とーこに言われて何だかイラついた。

「そんなことねぇって。指輪だって忘れてただけだ。」

「忘れてないじゃん。雑誌だってそのままだし、彼女の事、まだ好きなんでしょう?」

 雑誌だって、捨てるのが面倒だったからそのままにしてあっただけだ。それより、もう昔の事になってるオンナのことを持ち出されて、俺はかなりムカムカしていた。

「判った。雑誌は明日なげる。それでいいんだべ。」

「そういうこと言っているんじゃなくて。」

「じゃあ、何が言いたいのよ。」

「さくやは、まだ幸せになれないのかなぁって。」

「じゃあ、お前が幸せにしてくれればいいだろ。」

「どういうこと?」

 こういう時に限って、勘の悪いとーこにイライラする。

「俺を幸せにしろって言ってんだよ。」

 とーこははじめ、何を言われているのか判らないって顔をした。

「とーこに出来るか判らないよ。」

 そして、予想外の返事をよこした。

「何でよ。」

「とーこ、さくやを幸せに出来る自信ないもん。」

「とーこじゃなきゃダメなんだよ。とーこが俺を幸せにしてくれるんだろ。」

「さくやは、とーこを幸せにする天才だけど、とーこはその何分の一かもさくやを幸せに出来ないよ?それでもいいの?」

 あー。こういう時、とーこは雰囲気で持ち込めない。真面目すぎる。

 他のオンナならキス一つで落ちるのに。

「いいか。俺と付き合えって言ってんだよ。」

 結局、考えに考えて、もっとちゃんと言おうと思っていた言葉は、喧嘩腰での告白になってしまった。

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