2002年11月 SIDE TOOKO
お洗濯物が溜まっていなくても、バスでさくやのお部屋に行く事が多くなった。そんな時はお部屋の前に置いてある二槽式の洗濯機の横のホース掛けのところにコンビニのビニール袋に鍵を入れて縛って掛けてあって、それを使ってお部屋に入る。ドアノブを少し持ち上げながら鍵を差し込むコツもだいぶ飲み込めてきた。
さくやは遅番だったり、夜勤だったり、色々な作業形態で働いているから、さくやのお部屋に行っても必ずずっと一緒にいられる訳じゃないけど、さくやのお部屋でさくやを待つのは幸せだった。
今日もお仕事が終わった頃に明日もお休みだし『さくやのお部屋、行ってもいい?』ってメールしたら『来ると思って鍵、いつものとこに下げてあるから。ストーブ最小にしてついてるから寒かったら温度調整しといて』ってメールが帰って来た。
この時間でメールが直ぐに返ってくるって事は遅番か。お腹を空かせて帰ってくるであろうさくやの為に、スーパーでお買い物を済ませてからバスに乗る。まだ、五歩歩いては後ろを振り向かずにはいられない衝動は消えない。でも、さくやのお部屋に近付くと少し、楽になる。事件現場から遠いからかあまり怖くない。
今日も洗濯機の横にかかっているビニール袋から中に入っている鍵を取り出してさくやのお部屋に入る。
この鍵、合鍵欲しいな。
作ろうと思えば作れないことはない。でも、さくやの手から欲しかった。
それに、彼女じゃああるまいし、合鍵が欲しいなんて言えない。
もし、さくやの彼女になれたら、合鍵をもらおう。
お部屋は少し、寒かった。建付けが悪いせいであちこちから隙間風が入ってくる。ストーブの設定温度を少し上げて、さくやがいつもあたしに貸してくれるスエットを着込んだ。
キッチンに立って今夜のご飯を作る。
正直、あたしたちはそんなに裕福ではなかった。お部屋を二つ借りてるし、さくやには借金もある。夜に遊びに行ったりもしているけど、その回数も減っていた。きっつきつの中生活しているから、切り詰めるのは食費しかなかった。
で、今日は湯豆腐。お豆腐と春雨だけお鍋に入れてポン酢で食べる。さくやはビールが飲めればお腹いっぱいになるって言っていたし、これで十分。って言い訳いてみる。
携帯に『今から帰る』ってメールが来たから待っていると「ただいま。」さくやが帰って来た。
「お帰り。お疲れさま。」
「さみぃ。」
「今日、湯豆腐だよ。あったまるよ。」
食卓テーブルの用意をしている間にさくやが着替えて居間に戻ってきた。
「節約、節約。」
「大事。」
「では、いっせーのーで。いただきます。」
当然「ありがとうございます。」も忘れない。
「あったまるねぇ。」
「うまっ。」
お豆腐二丁と春雨はちょうど良い量だった。お腹いっぱいになったところで、さくやが言う。
「お前、風呂入る?」
「ここの?」
「沸かすけど。」
「うん。」
「一緒に入るべ。」
「一緒に?」
「ダメか?」
「恥ずかしい。」
「おんなじ物しか付いてねぇよ。」
さくやは、今まで身体を重ねる時、お洋服を脱いだことがなかった。あたしのお家ではもちろん、一人でお風呂に入っていた。明るい電気の下で一緒にお風呂に入るなんて恥ずかしい。
「入るのか、入んねぇのか。」
「入り、ます。」
さくやは鼻で笑ったようだった。
さくやのお部屋のお風呂は玄関から直通で脱衣所はない。一畳ほどのスペースにタイル張りの洗い場と浴槽があって、もちろんシャワーはない。だから、どっちかがお風呂に入って、どっちかが洗い場で身体や頭を洗うしかない。
こんなことになると思っていなかったから、さくやからタオルを借りて全裸になり玄関経由でお風呂場に入る。
「お前、先洗う?」
「うん。」
返事をするとさくやは掛け湯をして浴槽に納まった。
玄関からの風が入ってきて寒い。
「髪にお湯掛けてやるから、いいとこでストップって言って。」
そう言うと、さくやは桶で髪にお湯を掛けてくれた。今まで寒かったのが嘘のように身体まで温まる。
「ストップ。」
シャンプーを探していると、目の前に置かれた。
「お前、目、そんなに悪いの?」
「うん。」
「不便だな。」
シャンプーしている間に、また隙間風で身体が冷えてくる。それを察してか、さくやが身体にお湯を掛けてくれた。
「シャンプー流すか?」
「うん。お願いします。」
「いいところで、ストップって言ってな。」
浴槽から桶で何回もお湯を掛けてくれる。シャンプーもコンディショナーもその要領で終えた。身体を洗ってさくやと交代する。
浴槽のお湯は熱めだった。さくやの髪にもさっきしてくれたように桶でお湯を掛ける。
なるべく身体は見ないようにしたいんだけれど、引き締まった背中とか肩甲骨とかに目が行ってしまう。
最後は二人で浴槽に入った。先にさくやが入って向かい合わせにあたしが入る。一番恥ずかしい格好だったけれど、この浴槽の構造上こう入るしかなかった。あたしはさくやの鎖骨が格好いいとか上半身しか見られなかった。
お風呂を出る時が大変で、まず玄関スリッパの上を飛び越えて廊下に置いてあるバスタオルにくるまって居間に移動してから身体を拭く。
「あっちいんだか、さみぃんだか判んねぇな。」
浴槽のお湯が熱かったから身体はほてってた。でも、玄関を通ったから寒い。急いで長袖のスエットを着込む。
「お前さ、あの時の怪我、だいぶ良くなたな。」
七月にひったくりに遭った時の打撲はもう良くなっていた。青黒かった痕はもうどこにも残っていない。肘に擦り傷の痕が残ってしまっただけだった。
「うん。ありがとう。」
「それにお前、本当にカリッカリなのな。もっと太れ。」
「そんなとこ、見てたの?」
「いや。いろんなとこ見てたよ。例えばココとか。」
後ろから胸を触られる。首筋に口づけられて動きが止まってしまう。
「さくや。くすぐったい。」
くすぐったいんじゃない。いやらしい気分になるんだ。」
「もうひと汗かく?」
あっという間にベッドに誘われた。




