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俺たちの進む道には  作者: 風 桜月
2002年11月
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2002年11月 SIDE TOOKO

 起きて、隣にさくやがいるとホッとする。

 そして、眠気がまた襲ってくる。一人の部屋ではなかなか眠れない。さくやの部屋に来るとよく眠れた。

 今日はさくやに用があるから夕方までには帰ることになっていた。

 あの暗く、淋しい部屋に。

 お誕生日なんだから一緒にいたい。けれど我儘は言いたくない。

 あたしはお誕生日にツイてないなと思う。自分のお誕生日は仕事で一緒にいられなかったし、さくやのお誕生日にはさくやの用事で一緒にいられない。二人に来年があるなら、来年は一緒に祝える仲になっていたい。

 不意にさくやが目を覚ました。

「おはよ。おたんじょうびおめでとう。」

「ん。おはよ。」

 寝ぼけてるさくやはいつもみたいに誰も信じないって顔に書いてない。ふんわりして可愛くさえ見える。

「お前、寒くないの?」

 肩からはだけたお布団をかけなおしてくれる。そんな一つ一つのしぐさが優しくて苦しくなる。

「ありがとう。」

 お布団から、フワッとさくやのつけてる香水の香り。その香りで落ち着く。

「起きるべ。」

 もう少しこの温かさの中にいたかったけれど、さくやに従った。

「さくやは何時から用事があるの?」

「夕方から。出てくときに送ってやるよ。」

「うん。ありがとう。」

 まだ、朝早い。さくやといられる時間はまだまだある。

 さくやが毎朝淹れるコーヒーを、今朝一二時過ぎてからあたしがあげたヨークシャーテリアの付いたカップに注いでいた。それだけで、舞い上がる。

 使ってくれた。それが嬉しい。あたしは単純だ。

 そのまま、さくやがキッチンに立って朝食の準備を始めようとしたから、立ち上がって傍に行く。

「お誕生日の人は座ってて。」

「お前、俺の作った朝食、食べたくねぇの?」

「食べたいけど……。」

「じゃあ、大人しく座ってな。」

 にやりと笑われて、そのしてやったりの顔にやられた。大人しく食卓テーブルにしている背の低い机の前で正座していたら、焼けたパンを運んできながら「足崩せば?」とさくやに笑われた。

「たいしたもん作ってる訳じゃねぇし。」

 机の上には焼き立てのパンとベーコンエッグとスープが並んで、「昨日酔ってて飯炊き忘れたんだ。」言い訳のように言われたけれど、あたしにとってはごちそうだった。

「いっせーのーで、いただきます。」

 その後の「ありがとうございます」にはいつも以上の力がこもった。

「さくやが作ったから、お片付けはとーこがやるね。」

「何だそりゃ。そんなの出来る方が出来る時にやったらいいじゃん。」

 さくやが、そういう考え方だって事、今更知った。確かにさくやはあたしのお家にいた時、あたしが精神的に参っていると、何気なくフォローしてくれてた。例えばちょっと具合が悪くてお洗濯が出来ないなって思っていたら、何も言わずにお洗濯をしていてくれたり、お皿洗いまで手が回らないなって時に、気が付いたらお皿がキレイになっていたり。

「誰がやるとか決めたら、負担だろ。出来る時に出来る奴がやればいいの。」

 あたしがよっぽどキョトン顔をしていたからか、さくやは言葉を変えてあたしが判るように言ってくれた。

「お前は、やらなきゃやらなきゃって思いすぎ。それで自分苦しめて疲れさせてんだよ。もっと、頼れ。もっと自由にやりゃいいだろ。」

 その考え方は、今までの自分の中になかったもので、どう受け止めて良いのかさえ判らなかった。同時に、さくやがあたしをそんな風に見ていてくれたのかと思うと、あたしはさくやの心の中のどこかに居場所があるんじゃないかと錯覚させてくれた。

「頼るって言っても、誰に頼っていいのか判らないし。」

「俺に頼ればいいだろうよ。」

「でも、さくやは、いつかはいなくなっちゃうもの。」

「何それ。」

「だって、さくやは、今だけ、傍にいてくれるんでしょう?」

 するとさくやは空になったお皿を重ねて持つと立ち上がって無言でキッチンに下げに行った。

 それを追ってさくやに聞く。

「何で?怒ったの?」

「普通、怒るべ。」

「間違ったことは言ってない。」

 するとさくやは、切れそうな瞳であたしを向いて「俺は、お前の傍を離れねぇからな。」と言った。

 その目力に腰が抜けそうになって立っていられなくなったあたしを置いて、さくやはキッチンと食卓テーブルとの往復を済ました。

 ようやく、我に返ってタバコに火をつけたさくやの傍まで戻る。

「だって、彼女と正式にお付き合いしたら、こんな関係、無理じゃない。」

「それでも、俺はお前を離さねぇ。」

「浮気するって事?」

「お前にとって浮気なの?」

「本気だけど。」

「じゃ、それでいいんじゃねぇ?」

 何だそれ。無茶苦茶だ。さくやの言うことは時に無茶苦茶で、それでいて甘い香りがした。


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