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俺たちの進む道には  作者: 風 桜月
2002年10月
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2002年10月 SIDE TOOKO

 土曜日と木曜日にさくやはお洗濯物を持ってお家に来る。たまにずれたりするけど、大体はその二日。かご一杯のお洗濯ものを車に積んで、時にはシーツだの布団カバーだのかごに入りきらないものも積んでやってくる。そのたび、お家の洗濯機はフル活動でお洗濯をして、仕上がったものをしわが出来ないように畳んで、新しいかごに入れてさくやはお家に帰っていく。

 お洗濯をしている間にお風呂に入って行くこともある。確かにあのお風呂じゃあ、入りにくいだろう。普段は瞬間湯沸かし器で頭を洗って、後は身体を拭いたり、入りにくいお風呂に挑戦しているようだ。

 ある土曜日、ダメもとで「とーこ、干しに行こうか?」と言ったらさくやはよっぽど疲れていたのか、「頼めるか?そのまま泊まっていかねぇ?」と言われた。

「いいの?」

「疲れた。鍋でもしよーぜ。」

「じゃあ、カセットコンロとお鍋、持ってく。途中で、スーパー寄ってお買い物しよう。」

「おう。」

 お洗濯ものを後部座席に積んでカセットコンロとお鍋を持って、久々にさくやの車に乗り込んだ。エアフレッシャーの強い香りがして音楽がガンガンなってて、ああ、さくやの車だって、そんなに長く乗ってなかったわけじゃないのに懐かしく思う。

 スーパーに着いて、また五歩歩くたびに後ろを振り向かずにはいられないあたしの右側について「大丈夫だからな。」ってさくやが言ってくれただけで、不安が取れた。

 お鍋に使う食材、まあ大半はお肉だったけど、を買ってビールもケースで買ってお会計を済ますと、さくやのお部屋に向かった。

 あたし、お洗濯もの干す係。さくや、お鍋作る係。

 大量のお洗濯ものをしわを伸ばして干している間にお鍋はいい具合になっていた。

「食べようぜ。」

「いっせーので、いただきます。」

 もちろん、その後の「ありがとうございます」も忘れない。

 さくやがお家に帰って来なくなってから、ろくなものを食べてなかったから、お鍋が身体中に染み渡る。

「お前、痩せたんじゃね?」

「そんなことないよ。」

「ちゃんと食ってるんだろうな?」

 鋭い。さくやは、あたしが精神的に抱え込むと何も食べられなくなることを知っている。

「食べてるってば。」

「じゃあ、昨日何食べたか言ってみ。」

「何それ、認知症の検査?」

「話をそらすな。」

「お鍋美味しいね。」

 昨日はスナック菓子を食べました。なんて言えるもんか。

 作る相手がいないんだったら料理は作る必要がない。さくやが出て行ってから、包丁もフライパンも使い手がいなくなっている。

 このまま一人で住んでいたらスナック菓子が主食になっちゃいそうだ。

 それから、お鍋を散々食べて、さくやは散々飲んで、二人で他愛のない話をして、寝た。

 さくやの久々の腕枕にドキドキしながら、あたしは久々に深い眠りに落ちた。一人でいる時は病院からもらっている睡眠薬を飲んでも深く眠れないのに、さくやがいると深く眠れる。次の日、さくやより先に目が覚めて、さくやを起こさないようにベッドから居間に出てきた時に、カラーボックスの中にさくやの彼女が表紙になっている雑誌を飾っているのを見てしまった。その他にも彼女の載っている雑誌が沢山置いてあった。さくやは一人暮らしでも淋しくないね。彼女を眺めていれば彼女と一緒にいるみたいだから。

 ちょっとホッとした。さくやは一人でいるのが苦手かと思っていたから。

「俺より先に布団から出るな。」

「ごめん。」

 慌ててお布団に戻って横になる。

「何見てたんだよ。」

「さくやの彼女の雑誌。あんなにいっぱいあるんだね。あれだけあれば淋しくないね。」

「はぁ?意味判んねぇし。」

「一緒にいるような気分になれるでしょう?そうしたら一人暮らしでも淋しくないでしょう?」

「そんなことねぇけど。」

「とーこがさくやだったら、そう思う。」

「俺は本物がいい。」

「そっか。」

 それは、申し訳ないことを言ってしまった。そう思った途端抱き締められた。

「ここに本物がいるから、いい。」

「とーこはさくやの彼女じゃないじゃん。」

「俺が、今の彼女と別れたら、次は絶対お前を選ぶって言ってるだろ。」

「それは、酔った時にね。」

「俺は本気で思っているけど。」

 反則だ。酔っていない時にそういう言葉を言うなんて。期待してしまう。

「でも、別れないんでしょう?」

「さあ、どうかな?」

 さくやの瞳が揺れた。いつもだったらもっと自信満々なのに今日は頼りなげだ。この前、抱いている最中にあたしと彼女の名前を間違えた時、電話の後もこんな顔をしていた。彼女と何かあったのかな。でもあたしはそこまで突っ込めない。

「ラーメン食いに行くべ。」

「朝から?」

「俺、朝昼晩、ラーメンでも大丈夫だもん。」

「判った。準備するね。」

 話をそらされたのは判っていたけれど、乗ってあげることにした。

 

 それにしても、さくやの食欲には驚く。よくあんなに食べてあんなに痩せていられるものだ。昨日だってお肉いっぱいのお鍋をお雑炊まで完食して、今朝はラーメンが食べたいと言う。そういえば、あたしのお家にいた時もあたしが出したお食事を残したことは一度もなかった。

「さくや。」

「ん?」

「さくやのお誕生日っていつ?」

「十一月四日。何で?」

「お祝いしたいから。当日はお友達とか、彼女がお祝いしてくれて無理かもしれないけれど。」

「今年は、もう予定が詰まっている。」

「だよね。お休みだもんね。」

「まだ判らないけど、昔からお世話になっている人と焼き肉食べに行く事になってる。」

「さくや、焼き肉好きなの?」

「ラーメンと焼き肉は毎日食べても飽きないな。」

「そうなんだ。」

 また、さくやの好きなものを一つ発見する。そして、嬉しくなる。

 四日に祝えなくてもいい。さくやのお誕生日を祝えれば。

 あたしのお誕生日をさくやが演出してくれたみたいに、素敵なお誕生日になればいいな。

 そんなに財力も発想力もないけれど、当日まで色々考えてみよう。

 出来れば、四日になった瞬間、一緒にいたいな。そしたら誰よりも早くお誕生日を祝える。あたしは携帯にアラームをかけた。

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