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俺たちの進む道には  作者: 風 桜月
2002年9月
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2002年9月 SIDE SAKUYA

 弟のトラックで、昔使っていた家電を置いてもらっていた親父の家に行く。とーこには鍵を渡してあるから、部屋を開けて水道と電気を通してもらっているところだ。

 気に入っていた皮のソファとテレビ、冷蔵庫、洗濯機、カラーボックス、ベッド、洗濯物干し、後は段ボールに入っていたいくつかの雑貨類。

『今から親父の家を出るから。四十分くらいで着くと思う。』

 とーこにメールしてから出発した。

『気を付けて来てね。電気と水道はバッチリだよ。ただ、洗濯機置き場がないの。』

 はぁ?それって、致命的じゃないか。そんな家、イマドキあるのか?

 まあ、家賃を考えれば仕方ないのか。いや仕方なくない。手洗いでもしろってのか?

 俺の持っている洗濯機もイマドキ二層式だけど、どうしよう。風呂場にでも置くか。

「すんげぇ、ぼろっちいな。」

 俺の部屋に着いて、弟が放った第一声。

「だろ。」

「よく住む気になったな。」

「わっちもそう思う。」

 さすがに弟の前で「俺」とは言えないから「わっち」と言ってごまかす。今更、弟も俺が「俺」と言ったところで違和感はないだろうけど。

「あ、こんにちは。」

 とーこが部屋の中から出てきて弟に挨拶した。

「拓真。とーこ。引っ越し手伝ってもらってんの。」

「こんにちは。」

「さくやさん。何運んだら良いかな?」

 普段「さん」付けなんかしないくせに、弟の前では建前があるからかとーこは俺に「さん」をつけた。

「とーこは、小さい段ボール類、台所に運んで。」

「はぁい。」

 部屋を見て回ったが、とーこの言う通り洗濯機置き場がない。

 風呂場を覗いたが、二層式の洗濯機を置くスペースがない。これは困った。

「拓真、洗濯機、とりあえず玄関前に置いといて。」

「判った。」

 使えないなら、外に置くしかない。

「姉ちゃん、これ邪魔じゃねぇの?」

 和室を区切っている障子。確かに邪魔だ。これさえ無ければ広い一部屋として使える。

「外そうぜ。」

 建付けの悪い部屋から障子を外すのは一苦労だった。

 全部外して、奥の押し入れの戸も外して押し入れの中に入れる。これだけで部屋は格段に広くなった。

 後は大きなものを入れて引っ越しは完了だ。

 途中、ガス会社の人が来てガスを通してくれて、このボロっちい部屋も何とか人の住める部屋になった。

 とーこは黙々と段ボールを運んで、運んできたソファやカラーボックスを拭いていた。

「姉ちゃん。じゃあ、俺、帰るわ。」

「おう。拓真。今日はありがとうな。」

 とーこは拓真に深々と頭を下げていた。「ありがとう」と言うのはおかしいと思ったのだろう。なんせ、俺の引っ越しだ。とーこも手伝いに来た立場なのだから。

「お前、疲れたろ。」

「そんなことないよ。さくやこそ、疲れたでしょう?」

「ビール飲みてぇ。」

「この辺、スーパーないね。」

「買い物も車かよ。面倒くせぇな。」

「さくや、考えたんだけど、お洗濯ね、溜まったらとーこのお部屋に持ってきて、とーこのお部屋でお洗濯して、ここで干すっていうのはどうかな?お買い物のついでとかに。」

 コインランドリーは気持ち悪くてなるべく使いたくない。とーこの提案は願ったり叶ったりだった。

「お前、それでいいの?」

「週末と、週中一日くらいお洗濯したら間に合うんじゃないかと思うんだけど。」

「お願いします。」

「何それ。さくや、変なの。」

 かしこまって言ったらとーこに笑われた。

「送ってくよ。」

「ありがとう。」

 車に乗って、とーこの家に着く直前に言おうと思っていたことを言った。

「お前には本当に感謝している。ありがとう。」

「何だか、別れの言葉みたいだね。」

「違うって。俺はまだお前を必要としている。素直に受け取れ。」

 細い肩を摑まえてキスをした。今までの中でいちばん優しいキスだったと思う。

「とーこだって、さくやにはいっぱい感謝しているよ。ありがとう。」

 はにかんだ声が可愛い。

 とーこが車から降りて、バックミラーで見えなくなるまで見送ってくれているのが判った。

 これから、俺、一人でやっていけるんだろうか。

 不安だらけで俺の一人暮らしは始まった。


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