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俺たちの進む道には  作者: 風 桜月
2002年9月
63/92

2002年9月 SIDE TOOKO

 時計を見る。

 現在午後九時三十八分。お仕事の進度四十五パーセント。全然終わらない。そもそも、指示を出す上の連中の連携がなっていない。九時過ぎても、あたしたちには夕食も配布されていなかった。お弁当は届いているのに、だ。

「そろそろ、お弁当にしましょう。」

 直接の上司が見かねてお弁当を配りだした。あたしは、こんなところで、職場の人と冷めたお弁当を食べたいんじゃない。お家に帰ってさくやとご飯が食べたい。考えたら泣きそうになった。さくやはもうテレビを見ながらビールを飲んでいる時間だ。メールを入れることすら出来ないから、こんな遅くなることをどう思っているんだろう。

 それから、必死にお仕事したけど、終わる気配はなかった。時計を見ると切なくなるから見ないことにした。そろそろ、全体のお仕事が終わって終業の集まりが始まる雰囲気になってようやく時計を見たら、日付を大きくまたいでいた。午前一時四十五分。こんな時間にさくやが起きているはずはない。明日は土曜日でお仕事ではないけれど、酔っぱらって寝ているはずだ。あたしはあたしで、明日行事があるから出勤しなければならない。

 叫びだしたくなった。何が悲しくてお誕生日一日を職場ですごさなきゃならないの。

 さくやに無理を言ってお家に来てもらったのに何の意味もないじゃない。

 終業の集まりを終えて、お家の近いもの同士タクシーに分乗して帰った。あたしがお家に着いたのは二時十五分を過ぎていた。

 そっと鍵を開ける。

 さくやは、メゾネットの下の階でお布団で寝ていると思ったら、テレビをつけたまま、ソファーでウトウトしていた。

 約束、守ってくれたんだ。それだけで、涙が出た。

 ドアを静かに閉めたつもりだったけれど、さくやはそのかすかな音で目を覚ました。

「お帰り。」

「ただいま。」

 言った時にはしゃくりあげていた。

「どうした。」

 まだ、寝ぼけたこえのさくやが、あたしの涙声に反応する。

「やだ。」

「何がよ。」

「こんな、お誕生日、嫌だ。」

 さくやが、こっちにおいでと言うように腕を広げたから、あたしは迷いなくさくやの腕におさまった。

「俺、帰って来てやったべ。」

「でも、とーこはさくやと夜ご飯食べて、ゆっくりしたかったの。こんなお誕生日、嫌だ。」

「じゃあ、来年は、ゆっくり祝おうな。」

 その言葉に、涙が引っ込む。今「来年」って言った?

「さくやととーこに『来年』はあるの?」

「なんだ、その言い方。」

「来年も、傍にいてくれるの?」

「当たり前だろ。」

 それは、酔った勢いの言葉だったとしても、明日には忘れてしまう類の言葉だったとしても、最高のお誕生日プレゼントだった。

「ありがとう、さくや。」

「もう寝るべ。俺、眠い。」

「さくや、先寝てて。とーこシャワー浴びてから寝るから。」

「じゃあ、シャワー、待っててやるよ。」

「いいよ。眠いんでしょう?」

「一人じゃ眠れねぇんだよ。」

 不貞腐れたように言ったさくやが、可愛らしくて、あたしは急いでシャワーを浴びた。ドライヤーをかけたらもう時計は三時過ぎを示していて、さくやはソファーでぐっすり寝ていた。

「さくや。」

「ん?」

「寝よう。」

「明日、仕事終わったら遊びに行くべ。」

「いいの?」

 半分寝ている酔っぱらいのさくやの言うことをどこまで信じていいのかは判らなかったけれど、約束を一つ、もらった。

「下で、寝よう。」

「うん。」

「風邪ひいちゃうよ。」

「うん。」

「さくやってば。」

 そう言って顔を近付けたら、不意にキスされた。

「誕生日、おめでとう。」

 さくやはズルい。一番欲しいと思っている言葉を、一番欲しいと思っているタイミングでくれる。だからどんどん好きになってしまう。

「ありがとう。」

 この心のドキドキが聞こえませんように。

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