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俺たちの進む道には  作者: 風 桜月
2002年9月
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2002年9月 SIDE SAKUYA

 とーこがどんどん壊れていく。職場復帰は果たしたが、タクシーじゃないと職場まで通えてないようだ。俺が先に帰るから、刺し殺されそうになる恐怖は消えたが、いつ包丁を持って自殺を試みるんではないかとひやひやする。大量の精神安定剤と睡眠薬を飲んでやっとウトウト出来るくらいの精神状態でいつ緊張の糸が切れてもおかしくない。

 とーこは必死に俺に心配をかけまいと料理をしたり洗濯や掃除をするのだけれど、無理をしているのがみえみえだ。

 俺はそんなとーこが見ていられなくて、夜一人で飲みに行ったり、時には車で夜を明かした。妹の家に帰ったこともある。そして、俺が出かけるたびにとーこは過呼吸を起こした。それがいい加減面倒になってきた。病気だからしょうがないと自分に言い聞かせてとーこが落ち着くまで抱き締める。けれど、一つの疑問が頭をよぎる。もしかしてとーこは俺に出掛けて欲しくなくて過呼吸になってるんじゃないかって。だから、仕事先から直接出かける事が多くなっていた。月極駐車場も解約した。

 もちろん、とーこには連絡だけは入れていた。そんな時、決まってとーこからは『楽しんできてね』と返事が返って来ていた。それだって無理してるのが判った。


「お前、もう少し、仕事休ませてもらったら?」

「今月、行事が入っているから休めないし、帰ってくるのも遅いんだぁ。」

 専門学校に勤めているとーこは、行事が入るとその準備で忙しいらしく、残業は当たり前で最近帰ってくるのがいつもに増して遅い。

「さくや、今月の二十日、用事ある?」

「特に何もないけど……そっか、お前誕生日か。」

 メアドを思い出そうとした時に頭に焼き付いた数字。とーこの誕生日は忘れられない。

「覚えててくれたの?」

「おう。で、誕生日、どうしたいんだ?」

「なんにもいらないけれど、ただ、このお家に帰って来てほしいの。」

「おう。いいぞ。」

 久しぶりにとーこの無邪気な笑顔を見た。

 誕生日に一緒にいてやるくらいどうってことない。高価なプレゼントを買ってやることは出来ないけれど、同じ時間を過ごすことくらいなら出来る。

「仕事もいいけどあんまり無理すんなよ。」

「うん。ありがとう。」

 フライパンを振りながら、無表情な返事が返ってきた。

 最近、とーこはこうだ。言葉に表情がない。前はもっと嬉しい時は犬だったら尻尾が千切れるくらい振ってるんじゃないかって感じの嬉しさを表現してたし、怒っている時は火山がボンボン爆発してるんじゃないかってくらい怒ってますって表現してた。でも、最近は言葉だけが空中を飛んでくる。薬のせいかもしれないが、前のとーこに戻って来てほしい。

 俺が好きだと思っていたころのとーこに。

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