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俺たちの進む道には  作者: 風 桜月
2002年7月
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2002年7月 SIDE SAKUYA

 最近、家に帰るのが怖い。刺されるんじゃないかと思う。実際とーこはそういう目で俺を見る。とーこはそんなつもり全くないんだろうが、自分を守ろうとしてその防衛反応が目に出てる。ドアチェーンを開けたとーこが包丁を手に持ってたとしてもおかしくない。でも、何故か家に帰らないという選択肢は思い浮かばなかった。車で寝るのは慣れてる。だから車で寝たっていいんだけれど壊れていくとーこを一人には出来なかった。

 玄関のドアにイタズラされたって日から、しばらく経って、家の前で何本ものタバコの吸い殻を見つけたがとーこには黙っていた。なんだ、この家。見張られてるのか?とーこはまだ仕事には行っていないから昼間は一人きりだ。余計な心配はかけたくない。

 今日も玄関前で電話をかける。

「俺。」

「お帰り。」

 玄関のチェーンが外れる音がして、誰も信じないと顔にはっきり書いてあるとーこが出てくる。家の中は夕食の準備をしているのかいい香りがした。

「お疲れさま。」

「なまら、いい匂い。今日の夜ご飯何?」

「ゴーヤチャンプルと、冷奴くらいだよ。」

 野菜嫌いの俺が、とーこの出す野菜料理は食べられるようになった。特にゴーヤチャンプルは気に入っている。

「やった。先、風呂入ってくるわ。」

「うん。」

 会話が続ければ、とーこの人を殺しかねない目は穏やかになる。今日もそうだった。こんな風にしてしまった犯人が許せない。とーこは後ろから襲われている。犯人の顔を見ていないから逮捕は難しいだろうけど、逮捕されたらただじゃおかねぇ。それと、この家に執拗に悪戯をする犯人も許さねぇ。とーこが一人でどれだけ心細い気持ちでいるかを思うと辛くなった。

 俺は、とーこと知り合ってから、とーこの立場に立ってものを考えられるようになった。

 今までは他のオンナがどう考えようとソイツの勝手だと思っていたけれど、とーこだけは特別に思う。

「さくや。」

「ん?どうした?」

「斗亜さん、ダブルワークしてるんだって。」

「先輩が?どうして?」

「いつきさんを食べさせていくには夜の仕事だけでは難しいんだって。」

「確かにな。夜だけじゃ食っていけねぇな。」

「身体、大丈夫かなぁ?」

 自分の身体の方が大変だろうに、他人の心配をするところがとーこらしい。

「大丈夫じゃねぇの?先輩、高校時代はソフト部だったし体力には自信あるだろ。」

「でも、夜は飲んでるし。」

「まぁ、先輩が決めた事だからな。」

「そうだね。」

「それよりお前、何でそんなコト知ってんだよ。」

「この前、花火大会に行かないかって電話があったの。今、毎週土曜日にやっているでしょう?でも、とーこ今、こんなだしお断りしたんだけどね。その時に言ってた。」

「花火大会ならいつきさんと行けばいいのにな。」

「喧嘩中だって。」

「意味判んねぇ。」

 いくら先輩だって、とーこと二人で出かけるのは気持ちいいもんではない。特に今、とーこは弱ってる。絶対に守りきる自信がなければ出かけて欲しくない。そういう俺だって、昼はほったらかしで買い物すらまともに付き合ってやったこともないけれど。

 とーこの右半身のどす黒い打撲の跡は徐々に消えて行ったけれど、心の傷はどんどん深くなってるような気がする。あと一週間で診断書の期限が切れて仕事に行くようになるけれどそんなにうまくいくんだろうか。

「プレステ、欲しいな。」

「プレステ?どうして?」

「お前、テレビ見ないだろ。プレステあったら休んでる間DVD見たり、ゲームしたりできるじゃん。俺もスロットのゲームしたいし。」

「スロットのゲームって面白いの?」

「本物は金ねぇから出来ないけど、やりてぇんだよな。昔、やってた機種の復刻版とかあったら欲しい。」

「そうなんだ。とーこはお家でファミコンとか買ってもらったことがないから、あんまり判らないけれど、さくやがゲームしているところを見たいな。」

 とーこのために言ったのに、いつの間にか俺の話になっていた。


 一緒に寝てて、夜、何度もうなされているとーこをそっと起こす。何種類もの睡眠薬を飲んでいても深くは眠れていないようだった。こんな小さな身体で何をそんなに耐えてるんだ。

 今までひっかけたオンナの中には精神を病んだオンナもいた。実紗も旦那の暴力から子供と着の身着のまま逃げて大変な思いをしたと聞いたこともあった。そんな時俺は、それは自分が悪いんじゃね?と思っていた。自分の心が弱いから心を病むんじゃね?とか、好きで一緒になった旦那から暴力を受けるんだから仕方ないんじゃね?とか思ってた。

 でも、とーこを見ていると、一生懸命立ち向かおうとしているのに心に身体が付いて行ってないのが判って、どうサポートしてやるのが最善なのか判らなくなっていた。


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