2002年4月 SIDE SAKUYA
酔っぱらっていた。
いや、泥酔だな。これは。
このところ、ずっとそうだ。酒の力がなければ、笑ってることも眠ることも出来やしない。そんな自分に嫌気がさして、また飲んで、また酔っぱらう。
その繰り返し。
いつも酔っぱらう場所は違っていて、行きつけの店だったり、名前も知らないオンナの家だったり、停車中の車の中だったり、居候をしている妹の家の間借りしてる部屋だったり。
今日は珍しく二日連続で同じオンナの家だ。
確か正美って名前のそのオンナは十五の時に産んだ子供と一緒に男に捨てられて、今はオンナしか愛せないといつか言ってた気がする。酔ってる時に聞いた話だから、定かではない。
そんなオンナが、男にしょっちゅう間違えられる俺のことを好いているだろうとは思っていた。男と暮らした経験を持つオンナは、大抵俺を「代わり」にしたがる。俺は自分のことを「俺」と言うが性同一性障害じゃない。けれど、そこら辺の男より、男らしく見えるそうだ。
自分の都合で勝手に俺を好きになってるのなら、こっちだって好き勝手にしても良いだろう。
飯を作ってあると言えば、食いに行く。妹のところに帰り辛い時は泊まる。酒代もタバコ代も出したことはなかったけれど、正美の家にいれば何かと快適だった。
ただ、どんなに酔っていても、正美に手を出したことは一度もない。
布団が一組しかなくて仕方なく一緒に寝るが、お互いケツを向けて寝る。きっと正美は俺に嫌われたくなかったのだろうし、俺はこのオンナに何も感じてなかった。
「桜夜、電話!」
自分の家のようにビールを取りに冷蔵庫に向かった時に、正美が俺の携帯を差し出した。
着信は、行きつけの店の一つを経営している先輩から。
酔っていて出たい気分じゃなかった。正直、ブッチしたい。
けれど、行き場所がなくなった時に面倒だから、着信音になっている流行の曲が終わらないうちに通話ボタンを押した。
途端、聞こえてくる喧噪。
「おい、桜夜。あしたのコト覚えてるだろうな。」
挨拶も前置きもなく、いきなりの問いかけに「明日のコトっすか?」とりあえず酔った頭をフル回転で答えられそうな言葉を探してみる。
居場所を失うのは嫌だし、先輩には逆らいたくなかった。
「お前、絶対忘れてるだろ?」
「ああ。明日行くって言ってましたっけ?」
食い気味で一番無難な答えを返してみたら、電話の向こうが少し揺れた。
「オンナ、紹介しろって言ったのは、お前だぞ。」
……確か、そんな約束をしていた気もする。でも、酔った時の約束なんていつも右から左へと忘れていた。
「紹介してくれるんすか?」
正美の家に転がり込んではいても、毎晩のように違うオンナと次の朝を共にしても、実際俺には彼女がいる。
我儘で、強気で、女王様だけど、間違いなく美人の実紗。
子持ちで夜の商売をしている実紗にかまってもらいたくて。でも時間のない彼女にかまってもらえなくて。
男と家庭を作ったことがある彼女が、男を相手にしている実紗が、本当に自分のコトを好いてくれているのか心配で、だからどんな我儘にも振り回されておいている。
……そんな状態に疲れて。「あのオンナを好きになったのなら仕方ない。」そういう周りの言葉にも疲れて。そもそも地方都市のビアン界の狭さに疲れて、俺は女友達を求めているようだった。
まだビアン界に慣れていなくて、彼女のいる俺のコトも知らなくて、狭い世界でうっかり友人の彼女でもないオンナを探すのは案外骨の折れる仕事で……。
だから、勢いで先輩に頼んだ気がする。
いや。頼んだ。思い出した。
「つい最近店に来たばっかり。」
「美人すか?」
正直、俺は面食いだ。そこは譲れない。出会い系で沢山失敗している分、人からの紹介ならなお、顔は重視したかった。
「可愛い系。代わってやるよ。」
俺の返事を聞く前に、向こうの携帯は先輩の手を離れたようだった。
「代わってやる。」はいいけど、話したいことなんて決めてない。
携帯の向こうのザワザワした空気を聞きながら、俺は何だか楽しくなってきた。オンナを紹介されて嬉しいとか、そんなんじゃない。とにかく人が集まっている「淋しくない場所」の空気にテンションが上がったんだ。
「こんばんは。」
電話の向こうはガッチガチに緊張していた。声は合格。甘すぎず酒焼けもタバコ焼けもしてない。
「髪の色、何色?」
何の脈絡もなく、急に思いついたことを質問してみた。
さあ、電話の向こうはどう答えるだろう。




