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俺たちの進む道には  作者: 風 桜月
2002年6月
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2002年6月 SIDE SAKUYA

 とにかく忙しい。実紗が札幌に引っ越してくる前日に高熱を出した。俺はこの町の事をよく知らないから、とーこに夜間救急センターを探してもらって、子供を夜間保育園に預けて、実紗をそこに連れてった。実紗の機嫌は最悪で、救急センターが混んでいて待たされてることにイライラし、ようやく呼ばれて点滴を受けてる間に、その点滴が遅いと言って自分で針を抜いて帰ろうとした。会計もしないでだ。何とかなだめて、会計だけして歓楽街近くの新しい部屋に送って行こうとすると、店に出ると言い出した。何でも今月はナンバーワンの座が危ういらしい。

「熱があるんだからやめておけ。」

「桜夜に命令される覚えはないわよ。」

「はぁ?意味判んねぇ。とにかく家に帰って寝てろ。」

「嫌だって言ってるでしょ。髪セットしなきゃならないから、その角曲がって。」

「帰れって言ってんだ。」

「煩い。じゃあ、桜夜がナンバーワンにしてくれるの?」

 それには応えられない。仕方なく指定された角を曲がって指示通り車を走らせた。」

「じゃあね。」

 車が停まりきらないうちに助手席のドアを開けて、実紗は夜の街に消えてった。

「くっそ。」

 イライラする。でも、酒を飲みに行けるほど余裕もない。黙っていつものところに車を停めて車の中でビールでも飲んで寝るか。


 とーこは俺がこんな生活を送らなくてもいいようにと家を借りてくれると言った。とーこだって金持ちって訳じゃないだろうから、コツコツ貯めてきた金を俺の為に使ってだ。

 とーこに逢いたい。でも、こんな時に限って、妹の酒乱の旦那が暴れたり、仕事のシフトが不規則になったりで、とーことメールする暇すらなかった。

 そんな中、とーこから入居日が六月一日になったとメールが来た。とーこは怖くなかったろうか。俺は実紗の救急センターの件以来、とーこと連絡を取っていない。とーこはそういうとこ感じやすいから、引っ越しが駄目になったらどうしようとか考えているんじゃないかと心配になった。ただ、俺はとにかく忙しくてとーこに逢う暇がなかった。

 六月一日、まずは自分の車で、前にボコられた道を避けてとーこの家の側の駅のロータリーに向かう。

 久しぶりに逢うとーこは変わらず穏やかで癒された。

「久しぶり。」

「おう。家、どっち?」

「ロータリー出て左。」

 とーこの指は右を向いてる。

「お前、指は右向いてるぞ。どっちよ。」

「あ。右。」

「小学生か。」

「とーこ、右と左に弱いの。」

「何だそれ。意味判んねぇ。」

 とーこといると面白い。何でか判らないけれどリラックスできた。

「あ、ここ。」

 そこには一棟二戸建ての古い建物が建ってて、俺は初めてとーこの生活に足を踏み入れた。酒乱の父親から逃げているにしても、もっと綺麗なマンションとかに住んでるんだと思っていた。とーこは自分の家の事は多くは語らなかったけれど、とーこはとーこなりに苦労しているのは一目で判った。

「レンタカーどこで借りた?」

「駅前だよ。」

「じゃあ、まず、車借りに行くべ。」

 二人連れだって歩く。こんな些細なことが久しぶりで何だかくすぐったい。

「お荷物、一往復で運べるかな。」

「一往復では無理だべ。」

「そっか。引っ越しを甘く見てた。」

 ワゴンタイプのレンタカーを借りて、とーこの家に戻る。荷造りはあらかた済ませてあるようだった。まず、大きな荷物から運び出し車に積む。俺には楽勝な重さの荷物でも、とーこが悪戦苦闘しているのを見ると可愛くて仕方なくなる。

「お前、軽い荷物運べ。俺、大きいの運ぶから。」

「大丈夫。とーこ力持ちなんだから。」

 言ってるそばからよろめいて、段ボールを落としそうになったのを、すんでのところで支えて「な。言うこと聞けって。」言って聞かす。

 ちょうど半分くらいの荷物を積んだところで車がいっぱいになったから、一旦引っ越し先に荷物を持っていくことになった。

「お前、道案内しろよ。ここからだとどうやって行っていいのか判らねぇからな。」

「うん。任せておいて。」

「任せはしないぞ。また右とか言いながら左指すなよ。」

「それは、判らない。」

 珍道中は始まった。

 途中、とーこは地図を見間違うことはなかったし、車を運転する人が助かる指示の仕方をしてくれた。例えば「二本先、右方向。」とか「次の信号、左に入るよ。」とか。ただし時々「みだり」とか言うのは勘弁してほしかった。それでもとーこは真剣で、何とか新居に迷わず着くことが出来た。

 新居周辺が一番ゴチャゴチャした道で、よく一回で着けたと思う。

「よく一回で着けたな。」

「帰りも一回で帰れるといいね。」

「お前が『みだり』とか言わなきゃ大丈夫じゃね?」

 はじめとーこはクスクス笑っていたが、次第に大声で笑いだした。

「『みだり』はないよね。」

 自分で言っておいてここまでウケられて、とーこは能天気だと思う。

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