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俺たちの進む道には  作者: 風 桜月
2002年5月
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2002年5月 SIDE TOOKO

 さくやとは毎日のように逢う。

 お仕事が終わって、メールが入っている時もあれば、突然電話が来ることもあるけれど、逢うのは決まって最初にさくやと素面で逢った、地下鉄駅の側の水色の看板の下で、その後コンビニに寄って必ず海まで出かけた。

 あたしたちがこうやって逢っていることは斗亜さんたちには秘密だった。

 斗亜さんたちは斗亜さんたちなりにあたしたちの幸せを思って引き離してくれたのだろうから、こうやって逢っているのは何だか失礼な気がした。

 さくやがどう思っているかは判らないけれど、あたしはそう思っていた。

「今日、先輩にバレた。」

 急に言われて心臓が跳ねる。

「何が?」

「お前と逢っていること。」

 どうしてバレたんだろう?ドキドキしながらあたしは繋がれている手を見つめる。

「コレ。」

 さくやが少し手を離して、車の中の青いランプをシガーソケットから抜く。

「正美ってオンナがいるんだけど、ソイツこの辺に住んでて、俺とお前が車に乗ってるの見たんだと。」

 正美さんって人をあたしは知らない。どうしてさくやの隣に座っているのがあたしだって気付いたんだろう?

「でも、とーこだって判らないよね?」

「俺の隣に座っているのが、見慣れない小さなオンナだって聞いて、先輩はピンときたらしい。」

 さくやにはオンナ友達がたくさんいるから大丈夫だって思っていたけれど、あたしはこの世界では新顔だ。その正美さんって人にとって見慣れないならあたしはさくやの彼女でもオンナ友達でもないって斗亜さんは直ぐに気付いたんだろう。勘のいい人だから。

「どうしよう。」

「別に、良くね?」

「だって……。」

「俺の好きでお前といるんだから、誰にも文句は言わせねぇ。」

 横を向いたら、さくやの目は怒っているようにも見えた。

「ただ、先輩が知ってるって、お前も知っていた方が楽だろ?」

 あたしのことを気遣ってくれるのが判って、すごく嬉しくなる。

「あ。」

 一緒にいることがバレたなら、一緒に出掛けてもいいのかもしれない。

「さくや、来週までに暇な日、ある?」

 今日、職場で映画の無料鑑賞券をもらった。あたしはさくやと行きたい。

「土日は仕事ないぞ。」

「映画、観に行かない?」

「俺、コナンくんがいい。」

 OKされることが嬉しくて、あたしはワクワクする。

「いつ、行こうか?」

 さくやと一緒に出掛けられる自分は最高に幸せだと思う。


 さくやは街中がとにかく苦手らしく、逢う場所に困ったから、いつも待ち合わせする地下鉄駅まであたしが足を延ばして二人で街中まで出て映画を観ることになった。お昼間に待ち合わせするってだけでドキドキした。そういえばあたしたちはあの、携帯のアドレスを消した一件以来お酒の席でない場所で明るい時間に逢ったことがない。しかも二人きりは初めてだ。

 あたしは何度も服装をチェックして、子供っぽくないか逆におばさんっぽくないか見ていた。さくやは何メートル先からでも判る。顔に誰も信じないと書いてあるから。今日はカーキのジャケットにジーンズ。改めて格好良い。

 さくやのリクエスト通り子供向けアニメ映画を観て、映画が終わって、地下街を歩いていた時、本当に偶然、斗亜さんといつきさんとすれ違った。

「おう。お前ら、何やってんだ?」

「映画、観て来たんすよ。」

「何で、お前ら一緒にいるんだ?」

「それは、成り行きってもので……。」

 斗亜さんはニヤニヤしながらあたしたちを見てた。車に一緒に乗っていたと聞いた時からこんな日は想像していたのかもしれない。

 つられてあたしもニコニコ顔で斗亜さんと、それからいつきさんを見てビックリする。

 いつきさんが凍りつきそうなくらい冷たい目であたしのことを下から上まで見つめていた。

「こんにちは。」

 どうにかこの状態から抜け出したくていつきさんに声をかけると、引きつったように笑って「お邪魔になるから行こう。」斗亜さんをせかして二人で去ろうとした。

「お前ら、また遊びに来いよ。」

 斗亜さんはニコニコ顔のまま、いつきさんに引っ張られて行ってしまった。

「完全に、バレたな。」

「うん。」

「ま、いっか。」

 さくやの笑顔はいつになく爽やかだったけれど、あたしはいつきさんのあの瞳を忘れられなかった。なんだろう?


 お昼ご飯を二人で食べるというのも初体験。

「何、食べたい?」

「ラーメン。」

「さくや、ラーメン好きなんだ。」

「おう。朝昼晩ラーメンでもいいくらいだぞ。」

 こうやって、好きなものを少しずつ知っていく。嬉しくて、切ない。

「デートみたいだな。」

 また反則な一言をサラッとさくやが言う。

「そうだね。」

 落ち込むのは、止めにした。今だけ、さくやはあたしを見てくれてる。それで十分だから。

 あたしたちはラーメンを食べて、街中のペットショップに行った。

 さくやは子犬が好きらしい。特にヨークシャテリアという種類の犬が好きで、その子犬がいるケースの前では目尻を下げて見入っていた。

「なまらめんこい。」

「可愛いね。」

 黒と茶色の小さな命。よちよち歩く姿はたまらない。

「俺、一生に一度はヨーキーを飼ってみたいって思っているんだ。」

「そうなんだ。可愛いもんね。」

 いつもは誰も信じないって顔に書いてあるのに、こんな時のさくやの顔は穏やかで優しかった。


 また、さくやの好きなものを知ってしまった。

 さくやはヨークシャテリアが好き。

 もっと知ってる。ラークマイルドのロングを吸ってて、スーパードライっていうビールをよく飲んで、からあげくんのプレーンが好き。味噌チャーシュー麺が好きで、カラオケが上手い。甥っ子の影響で子供向けアニメが結構好きでアンパンマンとかコナンくんとかよく見てる。自分の車が好き。飲むのが好き。彼女の事が大好き。

 こうやって、さくやの事をどんどん知っていくんだ。

 そして、さくやの情報に押しつぶされそうになる。そんな自分が嬉しい。

 さくやの事を、もっと知りたい。

 どうせ、長続きしない関係なら、さくやとの想い出をたくさん作りたかった。そうすれば、さくやが彼女のところに行ってしまったとしても、笑って送り出せる。

 さくやでいっぱいになりたかった。そしたらきっと、さくやがいなくなっても淋しくない。……でも、本当に?

 さくやとの想い出が増えるほど、さくやを離したくないと思ってしまっているくせに。

 嘘吐きな自分がいる。

 どうやっても、さくやは自分に振り向いてくれない。それは判ってる。けど、今だけはあたしのさくやでいてほしいって欲張りな自分がいた。





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