2002年4月 SIDE TOOKO
もうすぐここにさくやが来ると聞かされて、あたしは焦った。
「どうして?」
斗亜さんの隣が空席、いつきさんの隣にあたし。変な座り方だなとは思っていたけれど……。
「瞳呼さ、桜夜に自分の気持ちが言えてないだろ。」
「言わなくていいです。そんな……。」
「お前、遊ばれたんだぞ?」
視界が、ぐらつく。あの大切な思い出は全部「遊び」だったんだろうか。
「いいんです。」
「よかねーから、泣けたんだろうが。」
「違うんです。」
「違わねー。」
斗亜さんは譲らなかった。その目は昨日と同じ、怒ったようにも見える。
「瞳呼さ、正直になれ。そんで、桜夜に思ったこと全部ぶつけてやれ。」
「でも、さくやは迷惑だと思うんです。」
「そんなの、言ってみなきゃわかんねーだろ。」
言ってみなくたって、判ってる。こんなの玉砕ありきの告白と同じだ。
時間は十九時十分前。壁掛け時計を見た目が、ドアから入ってくるさくやを見つけて、しまった。
「おう、桜夜。急に悪かったな。」
「いえ。」
その目は鋭くて、顔には誰も信じないと書いてある。初めて逢った時と全く変わってない。
その目で、あたしを一瞥して斗亜さんの隣に座ると「なんすか?」ぶっきらぼうにさくやが言った。
「今日、来させたのは、俺だ。まず、それがお前に言いたいこと。」
「はい。」
「何で来させたか。それは、瞳呼を見ていられなかったからだ。」
斗亜さんの声は重々しい。街中の今時珍しい喫茶店で流れている有線の音楽が白々しく聞こえた。あたしは、聞いていられなくて下しか見られなかった。昨日から履いているスカートがなんか、目に痛い。
「お前が、瞳呼を泣かせた。」
その言葉に、さくやがどんな顔をしたのかすら判らない。ただただ、今いるここの空気が刺さる。
「説明しろ。」
「説明しろって、なんすか?」
「泣かすなって、言っただろ?」
「止めてください。」
あたしはいたたまれなくなって、口を挟んでしまった。
「あたしが勝手に傷付いただけですから。」
「瞳呼。」
斗亜さんの声はまだ、怒っていた。
「ごめんね、さくや。今日は来させちゃって。」
「いや。」
この時、初めてさくやの顔を見た。さくやも怒っているような顔をしていると思っていたのに……。
「困ってるね。」
「ああ。」
水を一口飲んで、さくやはあたしを見た。その目は今まで逢ったことのないさくやの目で、あたしの中の不安は大きくなる。
「俺たちは口出ししないから、お前ら、話し合え。」
斗亜さんはそう言うと腕組みして椅子に深く座りなおした。
どうしよう。
さくやが、あたしの知らないさくやだ。
あたしは困り果てて、一つの決断をした。
そっか。
面倒なことを言えば、さくやはあたしを捨ててくれる。
幸い、さくやは彼女と逢ったばっかりだ。きっと気分が良いに違いない。そんな時に面倒なことを言えば、さくやが今まで出逢ってきたオンナたちのようにきっとあたしを切り捨てる。
さくやは車の中で話していたことがあった。面倒なオンナは嫌いだと。
自分の彼女以外に、我儘を言われたり、自分勝手なことを言われると腹が立つって。
じゃあ、今、さくやに思いっきり我儘で自分勝手なことを言ってのけよう。
そうすれば、さくやは何の罪悪感もなくあたしを切り捨てる。
期待させることを言ったことも、あの抱擁も、キスも全て忘れるくらい嫌なオンナになって、さくやを楽にさせてあげよう。
それが、今のあたしに出来る、精一杯。
それが、あたしのさくやへの最高の恩返し。
ねぇ、さくや。さくやのあたしの最後の印象は最悪かもしれないけど、それでもいいよ。
だって、それはあたしが望んだことだから。
さあ、一つ息をついて、最悪な言葉を吐こう。
さくや。ごめんね。




