2002年4月 SIDE SAKUYA
携帯が止まって、飲みに行く金もなくて、クサクサした数日を過ごしていた。ようやく携帯の料金を払って、溜まっていた着信メールの送信者の名前を見た途端からウキウキはしていたけど、内容を見て俺は舞い上がった。
送信者は、実紗。
内容は『逢える?』
着信は、携帯料金を払うちょっと前。
携帯が止まる前に連絡しておいても、携帯が止まっている時に実紗からメールが来ることも、今まで、何回かはあった。そして、毎回説明しても一日以内に返信しなければ、実紗は怒り狂って、理不尽な要求をしてよこした。
今回は、直ぐに返信できるタイミングに感謝して、俺は実紗にメールを返した。
『いつがいい?』
『二十九日。』
直ぐに返信が来るあたり、実紗の機嫌は良いらしかった。
『何時にどこまで迎えに行けばいい?』
『八時に家。』
実紗の家は俺が遊ぶ飲み屋街から少なくとも車で一時間半はかかる距離だった。でもそんな事どうだっていい。
一か月近くメールも電話も逢うことさえも出来なかった実紗に二十九日に逢える。はっきり言って有頂天だった。
『判ったよ。』
それだけで、メールは終了。でも、俺はワクワクする気持ちを抑えきれなかった。
で、フッと思い出す。
俺、とーこと逢う約束をしていた。あの時は酔っていなかったからはっきりと覚えている。
いつもだったら、とーこ以外のオンナだったら、気にしない。メールも電話もせず忘れたフリ。そしてもう二度と逢わなければいい。
けれど……。
とーこがくれた心の温かさや、まっすぐでひたむきな瞳や、「あの」言葉を思い出す。
それは海でとーこを抱き締めた時に、耳元で囁かれた言葉。
「さくやは、とーこを幸せにする天才だね。」
ダメだ。何も言わずに忘れたフリなんぞ出来ねぇ。
俺は携帯を取り出した。




