2002年4月 SIDE SAKUYA
ばぁちゃんとおかんの会話は言葉のドッジボールだ。どっちも話を聞いてないし、どっちも話したがる。俺はビールが飲めれば満足だからその騒音に耐えていた。
そういえば、明日から携帯が止まる。料金を払うだけの持ち金がない。今月も借金の返済と飲み歩いた分で給料は右から左に消えてった。
実紗ととーこくらいには知らせておかないとな。
最初に実紗にメールしたけど、無反応だった。一時間たっても返信がないから諦めてとーこにメールした。
そして、ついうっかり、本音が出てしまった。
実紗ともとーことも連絡が取れなかったら、俺はどうしたら良いのか判らなくなる。逢いたい時に逢えないなんてつまらない。実紗とはそういう状態が何か月も続いてるから慣れてる。けれど、とーこに逢いたい時、連絡が取れなかったら、俺はきっと淋しいと思う。
とーこと電話していたら、無性に逢いたくなって、前にとーこがマーキュリー病院の側に住んでいるって言ったことを利用した。
時間は二十一時を回っている。本当は車で迎えに行ってやりたいが、俺はもう相当飲んでいた。
歩いて三十分の距離は近いとは言えない。それも、こんな夜に本当はオンナ一人で歩かせたくはない。けれど、それをおしてでも逢いたかった。
二十一時四十五分。とーこからメールが入った。
『遅くなってごめんね。マーキュリー病院の駐車場にいるよ。』
俺は開けたばかりのビール片手にタバコをケツポケットに入れて、おかんとばぁちゃんに気付かれないように外に出た。
そこには、夜風の中一生懸命歩いてきたのが判るとーこが立っていた。
それを見ただけで抱き締めてやりたくなる。
車のカギを開けて、二人で車に乗り込む。
「誘ってくれてありがとう。」
「俺が、お前に逢いたかったの。」
「とーこの方が、さくやに逢いたかったよ。」
可愛いことを言ってくれる。
「携帯止まったら、こうやって逢えなくなるんだぞ。困るべ。」
「四日なんて直ぐだよ。」
「お前は毎日逢いたくねぇの?」
「逢いたいけど……。」
「けど?」
「そんな、我儘言えないよ。さくやには彼女がいて、とーこはさくやが淋しい時だけ傍にいるって決めたんだから。」
言われた途端、我慢していた何かが、外れた。
ここが、ばぁちゃん家の近所だとか、世間体とか全部忘れた。
俺はとーこの肩を摑まえて、抱き締めていた。




