2002年4月 SIDE TOOKO
仕事終わりに携帯の着信を確認するのはもう癖のようになっていた。
今日も、さくやからのメールが受信BOXに入っていた。嬉しくなってすぐ開く。
『明日から携帯止まるから。』
……そういえば、川沿いの遊歩道で話した時に、さくやは借金を背負っているって言っていた。その額までは知らなかったけれど、毎月の月給を圧迫するには十分な額だっていうのは口ぶりで判った。だから、人並みに稼いでいても、一人暮らしするには至らないとか、最悪の時はお給料日まで携帯が止まるとか。その、お話か。
『いつまで、お話できないの?』
『二十五日まで。』
数えると四日もある。あたしは途端不安になった。
もし、その四日の間にさくやがあたしを、あたしといた時間を忘れちゃったらどうしよう。
『だから、今日はいっぱい話そうな。』
思いもかけないさくやからの提案。早々にお仕事終わらせて良かった。あたしは嬉しくて携帯を握り締めた。
『そうだね。』
それから、あたしたちはずっとメールで会話していた。さくやがあたし以外の女の子とメールしているかもしれないなんて思えないほど、送信すればすぐに返信があった。
『お前、GW休み?』
『うん。カレンダー通りプラス間の三日間がお休み。さくやは?』
『俺は、カレンダー通りなんて望めないな。』
『大変なんだね。』
そこで、一旦メールが途絶えたから、あたしはさくやがお風呂にでも入っていて返信できない状況なんだろうって勝手に考えた。
突然携帯が鳴って、その着信音がさくや専用に設定していたものだったから、あたしはドキドキしながら通話ボタンを押す。
「お前さ、二十九日暇?」
手帳を見るまでもない。今年のGW前半は予定を入れていなかった。
「うん。どうしたの?」
「遊びに行くべ。」
「うん。」
「朝まで帰さねぇから、お前、うちの人に言い訳考えとけよ。」
「え?」
言われている言葉の意味は判っているはずなのに、頭が理解するまでに時間がかかった。
「明日から、携帯止まったら……。」
そこで、言葉を止めてさくやはしばらく考えると、ようやく話し出した。
「俺、お前に逢いたくなったらどうしたらいいんだべ?」
その言葉に、涙が出た。
「さくや、反則だよ。」
思ず思っていることが口をついて出る。
「何で?俺が、お前と逢いたいと思ったらダメなのか?」
「ダメじゃないけど……。」
「な?困るべ?」
泣いているって悟られちゃいけない。さくやがあたしに対して思っているよりもずっと、あたしの方がさくやに逢いたいんだってことも気付かれちゃいけない。
「二十五日までなんて直ぐだから。」
あたしが、さくやを慰めてどうするんだろ?携帯のスピーカーが音を拾わないようにゆっくりと息をつきながら、落ち着け、落ち着けって心に言い聞かせた。
「大丈夫だよ。」
本当は、大丈夫じゃない。
でも、そのことを知るのは、先の話。
「そういえば、お前、マーキュリー病院の側に住んでるよな?」
「うん。歩いたら三十分くらいかかるけど、家の側だよ。」
「俺、今、ばぁちゃん家いんの。マーキュリー病院の側なんだけど、逢いに来る?」
時間は二十一時を過ぎていた。でも、時間なんて関係ない。
「行く。」
「待っているから。」
電話を切った途端、部屋着を脱いでメイクをした。明日は平日で仕事があるけれど、そんなのどうでも良かった。電話を切って十分で用意して部屋を出る。
「出かけてくるから。」
ママは驚いていたようだったけれど、あたしはさくやの事しか考えてなかった。
家の側と言っても、実は歩いて行ったことなんてない。近くのコンビニに入って地図を立ち読みしてだいたいの道筋を頭に入れる。
大丈夫。大きな通りまで出れば真っ直ぐだ。
真っ暗な夜道を、ただひたすらさくやに向かって歩き出した。




