2002年4月 SIDE SAKUYA
四月の海はまだ寒い。
震えを止めようと頑張っているとーこを後ろからしっかり抱き締めた。
「お月様、綺麗ね。」
言われて初めて見上げれば、満月。とーこに言われるまで何年も夜空なんて見上げてなかったことに気付く。
「星も、綺麗。」
背中から抱き締めてやって、すっかり冷たくなったとーこの左頬に自分の右頬をしっかりくっつけて、同じ空を見上げた。
「連れてきてくれてありがとう。さくや。」
その声は本当に本当に嬉しそうで、俺にとっては酔った勢いでした約束がとーこにとってはとても大切なものだったんだって思い知らされる。
「お前、本当にカリッカリ。」
なんて答えて良いのか判らなかったのもあるけど、抱きしめて初めて実感したんだ。いままで、こんなに細くて小さなオンナを抱き締めたことなんてない。
「さくやは、あったかい。」
背中から回した俺の手にとーこが指を絡めた。その細くて小さな手は思ったより冷たくて、俺は急いでとーこの両手を自分の手で包み込む。
「ありがとう。」
しばらく、俺たちは黙って夜空と夜の海を眺めていた。
あまりにもとーこがカタカタ震えるから夜の海は早々に切り上げて来た時と同じように小さな手を引いて車に戻った。
「ごめんね。せっかく連れてきてくれたのに。」
「俺も寒かったし。」
「でも、楽しかった。ありがとう。」
また心がフワッとした。前にもとーこと話していてこうなったことがあるのを覚えている。
とーこは俺の心の、誰も触らなかった部分を温めてくれる。
だから、か。
だから、自分から逢いたいと思ってしまう。癒されたいんだ、俺は。
この温かくなった気持ちをまだ失いたくなくて、俺は車のエンジンをかけるのを躊躇った。
「俺がよく行く場所、行く?」
直ぐに別れがたくて俺は自分自身に助け舟を出した。
「行きたいな。」
断られていたら、ショックだったかもって思うのは、俺は今まで一度も断られたことがないからだ。決してとーこが相手だからではない。そう、思うことにした。




