2002年4月 SIDE SAKUYA
電話を切って頭を抱えた。
ドロ沼だ。いや、底なし沼かもしれねー。
とーこは遊び慣れてない。今まで遊んできたオンナたちとは違うって頭では判ってんだ。なのに一晩限りの火遊びよりタチが悪い。
俺は他のタチのやつらより、モテることを自覚していた。最初にオンナだけが集まるバーに行った時のことは忘れられない。ネコたちの俺を見る気合の入った目とタチどもの嫉妬の眼差し。あの優越感は俺を有頂天にさせた。誘ったオンナに断られたことは一度もなかったし、その中にはちゃんと彼女がいるオンナだって数えきれないほどいた。
だから、遊び慣れてないとーこが俺の外見か、態度か、歌声か、その中のどれか、または全部が嫌いじゃない、もっと言えば惚れてるかもしれないことは、とーこの感情を正直に映すあの目で判っていた。
でも、その想いに応えてやることは出来ない。俺は実紗を愛している。
けど、何故かとーこに逢いたくなる自分がいて、その気持ちを抑えきれない。だから、うっかり「逢いたい」だなんて素面で言ってしまった。
絶対に、誤解させてる。
だとしたら、残酷だ。
そこまで考えてハッとした。
俺、今「残酷」って思ったか?
残酷なことならいくらでもしてきた。貢がせるにいいだけ貢がせて「一度も、くれって言ったことはない。」と捨てたオンナもいた。俺を好きであろう気持ちを利用して飯や宿を提供してくれるオンナには素直に甘えた。正美だってその一人だ。酔っぱらって抱いて、朝、隣に寝ているオンナの名前が思い出せない事だって一度や二度ではない。飲みに行ってよく逢うタチの中には「お前いつか刺されるぞ。」って言うやつが少なくなかった。
「桜夜は止めておけ。」と夜の街で噂になったことすらある。そんくらい、俺はまっとうな生き方をしていない。
とーこに対して今更何をしようと、心が痛むことはないはずだ。とーこは遊び慣れていないうちに俺に逢ってしまったのだから仕方ないと割り切ればいいだけなんだ。
そこまで考えて、俺は訳が判らなくなっていた。
傷付けることを承知で、自分から誘ったオンナはとーこだけだ。
アドレス帳にごまんと入っているオンナの誰でもない、とーこだけなんだ。
「ビール、飲みてぇ。」
ごちゃごちゃ考えるのは俺の性に合ってない。俺はいつものように酒に逃げることにした。




