2002年4月 SIDE TOOKO
「あたし、帰らなきゃ。」
せっかくの楽しい時間だったけれど、終電の時間が迫っていた。明日は日曜日なんだから始発までお店にいても良かったけれど、もし明日もさくやが逢ってくれるんだとしたら、少しは寝て洋服もメイクも変えて逢いたい。
「じゃ、俺も。」
言ってさくやが立ち上がると、斗亜さんが
「お前ら、一緒で本当に帰るのか?」
疑わしそうな目であたしたちを見る。「え?」何のことを言われているのか判らなくてあたしは首を傾げた。そんな横でさくやは笑いながら「帰りますよ。」淡々と言う。
「じゃあ、お前ら、明日絶対来いよ。さくやは約束忘れたら瞳呼と俺にワンカートンだからな。」
「判ってますって。」
クスクス笑いながらさくやが重たいドアを開けてくれた。
先にお店を出たら、後に残ったさくやに「手ぇ出すなよ?」斗亜さんが念を押していた。
彼女がいるさくやがあたしなんかに手を出すことなんて絶対ないのに。
エレベーターまで送ってくれた斗亜さんが「じゃあ明日な。」そう言ってエレベーターのドアが閉まった途端、あたしは強く抱き締められた。
「さく……」
最後まで言わせてもらえない。激しいキスが降ってくる。
四階から一階までの僅か数十秒が長く熱い時間に思えた。
「お前が愛おしいよ。」
開かなきゃいいと思ったエレベーターのドアが開いた時、さくやはあたしの耳元で腰が抜けそうなくらい甘い一言を囁いた。「愛おしい」なんて反則だ。キスはしたけど、まだ「友達」でいられると思ったのに……すごく好きになりそうな気持を、彼女がいるからと抑えつけていたのに。
そんなあたしの気持ちを知ってか知らずか、さくやは黙ってあたしの左手を強く握ると駅に向かって歩き出した。
土曜日の繁華街。終電近くの人ごみの中、手を繋いであるく。あたしの左側には格好良いさくや。こんな素敵な人に「愛おしい」と言ってもらった自分。
明日、さくやがあたしのことを忘れていても良い。
今、こんなに幸せならば。
そう、思った。




