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番外編_召喚された勇者ではないお話2

 


「ここがエスペノ王国の王都ですか~、首都だけあって賑やかですね~」

「ん~、もう着いたのか?」

「ええ、先ほど王都の門をくぐりましたよ」

 スノーの膝枕ですやすやと寝ていたシローはアズハの気が抜けるような声で目を覚ました。


「シロー殿はどこに行ってもシロー殿だな」

「なんだよそれ?」

「ご主人様はご主人様なのです!」

 ジーナがどこに行っても変わりのないシローに苦笑いを見せ、クルルがそれを肯定する。


 アルグラーツ特使の用意した馬車でエスペノ王国の王都までやってきたシローはこの後、国賓待遇とも言える歓迎を受けることになる。

 これも皆、シローの機嫌を損ねないようにとのフェリペ三世のはからいだ。

 しかし、堅苦しいことが嫌いなシローにとってはそう言った歓迎パーティーやセレモニーをされる方が嫌なのは言うまでもない。


 ノーチェックで城の中に入っていくシローたち。

 これもアルグラーツ特使とフェリペ三世の連携のなせる業である。

 本来であれば王都の門で検問があり、更に貴族街に入るとことで検問、城に入るところで馬車から降りて歩くことになる。

 今回、シローたちは城の門を入っても馬車で移動をしている。


 貴族の中にはそういったシローへの過剰なまでの配慮に苦々しく思っているものもいる。

 しかしフェリペ三世よりシローの機嫌を損ねた者はたとえ王族であろうと厳罰に処すると事前に布令が出されていることもありシローへ直接文句を言いにいくような者はいなかった。


 このエスペノ王国はシローが生まれた国だ。

 つまり王都では母親が冒険者ギルドのマスターをしており、父親に至っては近衛騎士団の隊長である。

 下手をすれば父親と顔を会わせることになるだろうが、父親とはそれこそ一年に一回会うかどうかの状態だったので会ってもシローがシーロだとは気付かないだろうと思っていた。


 しかしシローが国王であるフェリペ三世と面談した執務室に警備の責任者として父親の顔があった。

「招聘に応じてもらい感謝する」

 フェリペ三世はシローに丁寧に感謝の意を伝える。

「すまないが、丁寧な言葉使いはできない。それでもかまわないか?」

 シローのこの言葉に警備をしていた近衛兵は剣呑な雰囲気を醸し出す。


「分かっておる。いつもの口調で構わぬ。皆もそのつもりでな」

 剣呑な雰囲気になっていた近衛騎士に言い聞かせるようにフェリペ三世は言う。

 その言葉を受けて近衛騎士の雰囲気は幾分は和らいだが、それでも完全に敵意を収めるまでには至っていない。

 自分の主人に生意気な口を利く小僧が、と思っているのだろうとシローは理解を示す。

 シローも自分から喧嘩を売るほど若くはない。

 前世を含めて既に三十年以上を生きているのだ、少しは落ち着いたと自分では思っている。

 勿論、シローの思い込みである。


 フェリペ三世との面会はスムーズに進む。

 そして本題である。シローへの要望は勇者が魔王と戦えるように育成すると言うものだった。

「悪いが、それは難しいな」

「何故だろうか?過去の勇者、我が国を建国された初代様は魔王を倒しているが?」

 フェリペ三世の要望をにべもなく難しいと言うシローに近衛騎士が歯噛みするのを横目にシローは手をひらひらとさせる。


「魔王の強さを国王さんは知っているのか?」

 その質問は心理であった。

 そう、魔王の強さなど誰も知らないのである。

「シロー殿なら二度も魔王を討伐しており分かるのでは?」

 シローはため息をはく。

「俺が最初に倒したレジーはスピード型、二回目に倒したフュリーはパワー型、他の魔王の特徴を知っている奴はいるのか?俺は知らないぞ」

 この言葉にフェリペ三世は何も返すことができなった。

 見たこともない魔王を倒せるようにしてくれと言われて、はい分かりました。とは誰も言えないだろう。


 その後のフェリペ三世とシローの話し合いは基準のすり合わせであった。

「勇者と言っても死ぬんだろ?戦いに絶対はないんだ、死んだら俺のせいだって言われても困るぞ」

「分かっておる、シロー殿には勇者が危なくなったら全滅しないように手助けをしてほしい」

 細かい取り決めをして最終的にはエスペノ王国の王都の近くにある迷宮を踏破させるに落ち着いた。


 戦いの基本は教える、それ以降は勇者の努力だとシローは言うのだ。

 国王はそれを了承し、合意に至った。

 シローもここまで来た以上は面倒だが依頼を無下に断ることはしない。

 勿論、条件面で合意ができなければ断るが、フェリペ三世はシローとの溝を埋める努力をした。

 シローもフェリペ三世の姿勢を評価し妥協できるところは妥協して合意に至った。


「アナンメアリーを」

 合意に至ったので勇者の面倒を見ている王女を執務室に入れたフェリペ三世。

「お初にお目にかかります。私はエスペノ王国国王、フェリペ三世の娘でアナンメアリーと申します」

 平民のシローに丁寧な挨拶をし、頭を下げるアナンメアリーの動きは非常に優雅であった。


「俺はシローだ。平民だ。すまないが、丁寧な口調はできない」

 対してシローの挨拶は非礼とも言えるものだったが、アナンメアリーは気分を害することもなくにこやかにシローを見つめる。

「シロー様は魔王を二回も討伐されているほどのお方、いつも通りの口調で接してください」

 親子は似るのか、シローの無礼な言葉使いに怒りもせずそれで良いと言う二人には好感を持った。


「後はアナンメアリーに任せる。シロー殿と取り交わした条件はこれだ。頼むぞ」

「はい、最大限の努力を致します」

 先ほどフェリペ三世とシローの間で取り交わされた契約書を受け取ったアナンメアリーはサーっと目を通すとフェリペ三世にそれを返却する。

「後程写しを頂ければと思います」

「うむ、手配しておこう」

 契約書は王国用とシロー用に二通作成されて共にフェリペ三世とシローのサインがある。

 それを王国とシローがそれぞれ保管するのでシローも持っている。


 シローとアナンメアリーは国王の執務室を出て今度はアナンメアリーの執務室へ移動した。

 そこにはスノーたちもいて紅茶を飲んでくつろいでいた。

「シロー、どうだったの?」

「受けることにした」

 スノーが確認するとシローは言葉少なく答える。

 これがいつものシローなのでスノーは特に何も思わない。


「でしたら城下町で家を見つけておきますね」

 アズハに頷き肯定するとアナンメアリーから待ったが入った。

「住居でしたら城内に用意致します」

 しかしシローはそれに首を振る。

「好意はありがたいが、城内で暮らすのは御免こうむる」

 そのシローの回答にアナンメアリーは口を押え軽やかに笑い声をあげる。


「ごめんなさい。シロー様が聞いていた通りのお方なのでつい」

「構わん。王女さんには苦労をかけるだろうからその程度は問題ない」

 一体、どんな苦労をかけられるのか少し不安になりつつもアナンメアリーは今後の予定を話し始める。

「では、明日の午前中に顔合わせを行います。午後からは実際に勇者様方の実力を見ていただきます」

 アナンメアリーとの打ち合わせを終わり、城下の宿を紹介してもらう。

 アナンメアリーからは今日だけでも城内で逗留をと誘われたが、シローはかたくなにそれを断った。


 城から王家の馬車で城下の一番高級な宿に案内をされたが、その護衛にはゲール・ファイフォーレンがいた。

 この世界での父親が家で息子である自分の護衛をしているのは何だか違和感しかなかった。

 家出をする前、十二歳までで両手両足の指があれば事足りる程度にしか顔を合わせたことがない父親の背中を見つめるシローだった。


「どうかしたのですか?」

「……いや、何でもない」

 シローからすれば父親より特使としてシローを迎えに来たアルグラーツの方がよっぽど親近感が持てる。

 ついに言葉は交わさなかったがシローには何の感慨もなかった。



 

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