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チート! 043 怠惰の魔王レジー

 


「フフフ、楽しいですねぇ~」

「減らず口を叩ける余裕がまだあるのか?」


 左腕を失い傍から見れば満身創痍の悪魔が楽しそうに口角を上げる。

 しかし次の瞬間、失った左腕が再生し始め数秒後には何事もなかったかのように元通りになった腕の感覚を確かめる悪魔の姿があった。

 しかも破れていた燕尾服も元通りとなっておりシローは便利なものだな、と燕尾服が元通りになったことを少し羨ましがる。


 シローにも【再生】スキルはあるが、この悪魔が持っているのは【超再生】である。

 つまりスーパーレアスキルの【再生】よりも更にレア度が高いウルトラレアスキルである。

 その効果は先ほどシローが目にしたように数秒で左腕を完全に再生してしまうほどに優秀なスキルである。


「戦いはこれからが本番ですよ。精々、私を楽しませて下さいねぇ~」


 悪魔の姿がブレる。

 シローの目の前にまるで瞬間移動をしたように現れた悪魔が手刀を突き出す。

 その指の先に鋭く伸びだ爪が今にもシローの胸に突き立てられそうな勢いである。

 しかしシローは悪魔の超速の動きをしっかりとらえ、その手刀を半歩ズレて躱すとカウンター気味に左の拳を突き出す。


「ウガッ!」


 シローの拳をその顔面に受けてしまい後方に殴り飛ばされ受け身も取れずに何度も後ろ回りをしながら地面を盛大に転がっていく。

 これには流石の悪魔も驚愕をする。

 たかが人族の子供だと侮っていた先ほどとは違い本気の攻撃を仕掛けたのに容易(たやす)く反撃を受けてしまった。

 長く生きてきて同じ悪魔にも味わされたことのない屈辱。


「お前では俺には勝てないぞ」

「……」


 悪魔は初めて薄ら笑いを消す。

 左腕を失っても決して消すことのなかったシローを馬鹿にしたような薄ら笑いを消したのだ。

 この人族は強い。認めたくはないが自分よりも強い。

 それが悪魔にかつて味わったことのない感覚を与える。


「フフフフ、この私がこうも……人族の少年、名は何というのだ?」


 先ほどまでの人を食ったような口調とは変わった口調。

 シローはその口調にやっと本気で相手をする気になったかと考える。


「人に名を尋ねる時は先ず自分から名乗るものだぞ」

「フフフフ、なるほど、これは失礼した。我が名はレジー、他の者は私のことを怠惰の魔王レジーと呼ぶこともあります。人族の少年の名を聞かせてもらるかな?」


 シローは魔王と聞き少し眉を上げる。

 しかし魔王との遭遇は予想の範疇であり、大きな驚きを覚えるほどではない。

 フリンボの話では勇者パーティーが二人の死者を出し逃げ帰るほどの悪魔なのだ。

 生半可な悪魔でないのは簡単に想像がついた。


「俺はシロー、ただのシローだ。覚える必要はない。お前はここで滅ぼされるのだから」

「フフフフ、尊大な物言いですね」


 尊大な物言いの人族の少年。

 かつて勇者と言われる人族など比べるまでもない強者。

 自分の生きてきた中でも屈指の強者が目の前にいるのに怠惰の魔王レジーは不快に思うことはなかった。

 何故ならそれが強者に与えられた権利なのだ。

 強者は何をしても許される。強者こそ法であり強者こそが全てなのだから。


「では私も本当の姿を晒すとしますか」


 レジーが力みだす。シローは敢えてそれを見守る。

 シローはこの戦いこそが更に上に行くためのステップになるのだと無意識に感じ取る。

 そして強者との戦いを渇望するのだ。もっと俺を満たせと。


 レジーの背中の筋肉が盛り上がりシワ一つない燕尾服が破れる。

 更に両腕、胸、太ももと筋肉が盛り上がりそれまでの人族に近かった容姿が変わっていく。

 その姿が次第に定まり、最後には巨大な牛の頭の二息歩行の化け物となる。


「態々待って頂き忝いですね」

「構わんさ、それがお前本来の姿なんだろ?」


 その体長は優に三メートルを超え、牛の胴体だが二本の後ろ足で立つレジーはまるでミノタウロス。

 そしてどこからか現れた巨大な斧もミノタウロス似に拍車をかける。


「宜しいですか?」

「ああ、構わないぞ」


 レジーが巨大な斧を振り上げシローに迫る。

 圧倒的な質量が迫るその迫力はなかなかのものだ。

 その速度は先ほどまでよりもはるかに速い。

 しかしシローはその高速の攻撃にも反応をする。


 シローはレジーの斧を躱したと思った。

 しかしレジーの斧は悪辣なほどに避けにくい軌道を描く。

 シローを追いかけるように軌道が修正される斧。

 その斧は今までレジーの攻撃を尽く避けていたシローの左腕を抉る。


「……」

「フフフ、これでも掠る程度ですか。貴方は強いですね」


 過去にレジーと戦い逃げ帰った勇者なら左手どころか胴体を失うほどの威力であり、それ以前に回避行動などとれなかっただろう。

 そもそも以前の勇者ならレジーがこの姿になることなく蹴散らされていたことだろう。

 それに比べシローはレジー本来の動きを初見で掠る程度に躱せたのだレジーにとって非常に驚くべきことであり、シローの強さを素直に褒める。


 悪魔にとって強さこそが絶対的な法でありる。

 弱きことは恥であり生きる価値もないとまで思っている悪魔さえいる。

 怠惰の魔王レジーの本気モードを掠る程度で済ますシローは素直に尊敬の念を抱かれるに相応しいのだ。

 それが例え人族だとしても。


 血が滴り落ちる左手をチラッとみる。

 この程度の傷であれば十秒もすれば【再生】の効果で塞がるだろう。

 それよりもシローは怪我によって自分が慢心していたことに気が付く。

 あの程度の変化に対応できなかったのは慢心であり油断があったからだと断じ、気を引き締める。


「お前の強さは分かっていたと思ったが、油断していたようだ」

「ほう、油断していたから傷を負ったと言うのですか?気に入りませんね」

「確かめてみれば良いさ」

「そうしましょうか!」


 レジーの姿が消えたと思ったらシローも消える。

 その次の瞬間にはシローがいた場所に巨大な斧が打ち付けられ床に巨大な穴が開く。

 更にレジーが弾かれたように横に飛び十数メートル先の壁に激突する。


「ぐはっ」


 レジーが思わず声をあげ口から吐血する。

 しかしそこでレジーの腹部に巨大なハンマーで殴られたような激痛が走る。

 見えない。それなのに痛みだけが体中に走る。

 何をされているのか分からない。それなのにダメージが蓄積していくのが分かる。

 レジーにはシローの姿が見えていない。

 レジーの体が頑丈な壁にめり込んでいく。

 レジーが白目をむき気を失う。


 シローは決して手を緩めない。

 完全に息の根を止めるまで攻撃の手を緩めない。

 慢心が、油断が、1%にも満たないレジーの勝ちを呼び込むこともあるからだ。

 だから1%の勝ちも残らないように徹底的にレジーを潰し、可能性をゼロにする。


 レジーの右手が千切れ、左手が潰れ肉の塊ではなくミンチに変わる。

 右足が爆散し、左足が幾つものパーツに断たれ骨がむき出しとなる。

 顔面には鼻や目がなくなり脳みそだと思われるものが飛び散り、角などはすでに粉々になっている。

 胴体も胸を大きく抉られ心臓を取り出された後に握りつぶされ、シローの顔程もある巨大な核を無理やり引き抜かれる。


「……やり過ぎた」


 【闘神武技】を発動させたシローの隔絶した強さを認識する間もなくレジーはこと切れた。

 シローはやや息を切らせてはいるものの、疲れというほどの疲れはない。

 しかし体中にレジーの返り血を浴び酷い姿になっている。

 レジーにスノーの解呪方法を確認したかったが、条件はスノーをクリスタルに封印した存在を倒すことだ。

 レジーがその存在であればスノーの解呪条件はクリア―したことになるだろうとシローは自分の些細なミスをなかったことにする。


 魔物であればエフェクトの後にアイテムをドロップさせるのだが、レジーは魔物ではなく悪魔なのでエフェクトは発生しない。

 シローは知らないが、レジーは死んでも復活できる。

 しかしレジーが復活するにはシローが握っている核が必要となる。

 この核が破壊されると怠惰の魔王であるレジーであっても復活はできないのだ。


 シローは肉片に変わったレジーとレジーの核を交互に見る。

 そしてにやりと笑いレジーの核をストレージに収納する。

 この行為によりレジーの復活はシローがストレージから核を出さなければ叶わなくなった。


 レジーの核を【解析眼】で確認したことで核があるとレジーが復活することは分かった。

 そしてこの核がスノーの呪いを解除するための材料となることも分かった。

 これでスノーを取り戻せるのだとシローは素直に喜ぶ。


 シローが飛びのく。

 シローの後方に現れた気配にを警戒したのだ。

 そして再び戦闘態勢に移行しようとしたが、そこにはメイドが立っていた。

 シローたちが『アーシュ・マカジ宮殿』に入った時に現れたメイドである。

 戦闘態勢を解除したとは言えシローに気付かれずにすぐ傍まで近付いたメイドに警戒が最高潮となる。


「おめでとう御座います」


 何がめでたいのかシローには分からなかった。

 このメイドはレジーの部下なのだから主が倒されたらめでたいでは済まないだろう。


「貴方様は『アーシュ・マカジ宮殿』の主を倒しこの『炎の迷宮』を踏破されました。以後貴方様がこの『アーシュ・マカジ宮殿』の主であり『炎の迷宮』のダンジョンマスターとなります。私は『炎の迷宮』の管理を司るAIで御座います」

「……」


 開いた口が塞がらなかった。

 このメイドは何を言っているのだ?

 誰が『炎の迷宮』のダンジョンマスターだって?

 それにAIって何だよ?

 疑問と混乱が交互にシローを襲う。


「主様、私にご命令を」

「いや、ご命令って……」


 未だ混乱から立ち直っていないシロー。


 数分、メイドは何も言わずシローの前でただ佇む。

 シローもやっと平常心を取り戻しメイドに質問をする。


「俺がこの『炎の迷宮』のダンジョンマスターなんだな?」

「はい、そうで御座います」


 無表情に答えるメイドが妙に不自然に思える。


「『アーシュ・マカジ宮殿』とは何だ?」

「ダンジョンマスターの居住区である42層の宮殿です」

「……42層が最下層なのだな?」

「はい、その通りで御座います」


 

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