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チート! 036 スノーを助けるには……

 


 黒い影がふっと動いたと思えば次の瞬間には巨大なドラゴン脇腹に圧倒的な力で殴られたように巨大な陥没が発生する。

 ドラゴンは悲鳴ともとれる奇声を上げそれを行った影に(あぎと)から見える鋭い歯を突き立てようとする。

 しかしドラゴンの顎は、鋭い歯は影を捉えることはなかった。

 何故ならドラゴンが影に喰らい付く直前に首の付け根付近に鋭い痛みを感じたからだ。

 ドラゴンの皮膚は非常に硬い鱗にまもられているので簡単には傷付くことはない。しかし今のドラゴンの首からは鱗、皮膚、そして筋肉さえ切り裂かれて大量の血を流しているのだ。


「う~硬いです~」

「その硬いドラゴンを切り裂くんだからアズハの短剣は尋常じゃないよっ!」


 大きな盾を持った大柄のジーナがアズハの作った傷口にむけて斧を振り下ろすと斧は深々とドラゴンの肉を(えぐ)り、そして骨をも砕いた。


「とどめだっ!」


 黒い影が言葉を発した途端、ドラゴンの首は胴体を残し吹き飛ぶ。


「うは~ご主人様、容赦ないです~」

「シロー殿の前では我ら2人の力は不要だったな」

「2人が奴の気を引いてくれたからだ」


 シローはドラゴンの胴体と吹き飛んだ頭部を回収すると現れた階段に目を向ける。

 ここは炎の迷宮の40層、そのボス部屋でボスのレッドドラゴンを倒したところである。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 シローはアキム・ベットーネを捕縛し助けたと思ったスノーがクリスタルの中に閉じ込められた姿を見て愕然とした。

 何をしてもクリスタルからスノーを助け出すことができないのだ。そしてスノーを助けることができなかった自分を責め殻に閉じこもるようにして部屋から出てこなかった。


 自分の部屋に閉じこもったシローを心配して部屋の扉の前にはアズハ、クルル、ジーナの3人が集まっている。

 流石に3日も部屋に閉じこもり食事も摂っていないのでタフなシローでも危険と感じた3人は扉を破壊しシローに無理やりでも食事を摂らせるつもりなのだ。


「良いか、行くぞ!」

「「はい」」


 ジーナが扉に向かって勢いよく体当りをぶちかます。

 この家はシローが造ったことで扉一つとっても非常に頑丈にできていることからジーナも全力で体当りをするのだった。

 ドガーンと大きな音を立てて扉が破壊される。

 そして3人が見たシローは尋常ではないほど(やつ)れはて床に体育座りをしており、部屋の中はシローが垂れ流したであろう糞尿の臭いで悪臭を放っていた。


「く、これは思った以上に深刻だな……」

「ご主人さま……」

「お(いたわ)しい……です」


 3人は息をしているのかも分からないシローの姿を直視するのが辛かった。愛しい者を助けることもできない無力な自分を許せないのであろう、そんなシローの姿に3人も心が痛んだ。

 だが、このままで良いわけがなく、3人はシローを奮い立たせようと試みる。


「シロー殿!このままで良いのかっ!?そんな姿のシロー殿をスノー殿が見たらどう思うか、きっと悲しむだろう!」

「ご主人様!奥様が悲しまれます!立ち直って下さい!」

「ご主人様は私を助けて下さいましたです!だからこんどはクルルがご主人様をお助けする番なのです!」


 3人の声にまるで反応を見せないシロー。

 その悲しみはシローの心を閉ざしてしまったのだろう。

 次の日もその次の日もシローは心を閉ざしたままであった。

 食事はスープをスプーンですくい口に無理やりでも押し込むと何とか飲んでくれたが、その分尿の排泄頻度が上がりシローが垂れ流してしまうが、3人がそれを小まめに片付ける。

 甲斐甲斐しくシローの世話をする3人だったが、このままでは何れシローは死んでしまうだろうと思った3人は荒療治を試みることにしたのだ。


「このままでは本当にスノー殿は死んでしまうぞ!」

「はいです!奥様はまだ死んでいないのにこのままでは死んでしまいます!」

「ご主人様が助けなくて誰が助けるのですかです!」


 スノーはまだ死んではいない。スノーを見つけた時にシローがクリスタルを【解析眼】で解析したところスノーはクリスタルの中で生きていたのを確認している。

 但し、クリスタルの中でスノーが生きていられる時間は限られていた。発見時で359日、これがスノーに残された時間なのだ。


 シローの性格を熟知している3人はスノーを助けるために必ず立ち直り再びスノーを取り戻すと考えたのだ。


「時間を無駄にするとは考えられない!」

「奥様が可愛そうです!」

「愛していないのでしょうか、なのです!」


 ピクリとシローが肩を揺らす。これを見た3人はシローに畳みかける。

 それが30分ほど続いたか、シローの瞳からポロポロと大粒の涙が流れ落ちるのだった。

 3人は良い兆候なのか、悪い兆候なのか判断が付かずこれ以上の継続を諦めることにした。

 3人も疲れたがシローも疲れただろうと部屋でベッドに寝かしその日は3人も早めに就寝するのだった。


 翌朝、日が昇るまでにまだ間がある時間帯。

 朝が一番早いのはアズハである。彼女は日の出前には起き出すのが日課となっており誰よりも早く起き朝食の支度をするのだったが、今日に限っては先に起き出した者がいた。


「お早う、アズハ。モグモグ」

「……お、おはよ……う……御座います」


 テーブルに座り大量の食糧を口に頬張ているシローを見たアズハは放心状態となった。


「心配かけたな、俺はもう大丈夫だから……腹が減っては戦はできぬって言うから……」

「は、はいっ!今スープをお作りしますので!」

「うん、頼むよ」


 アズハは嬉しかった。昨日までは死んだように濁った眼をしていたシローが今では眼に力を取り戻し自分の意志で食事を行ているのだ。これを喜ばずに何を喜ぶかと言うほどだ。

 アズハが手早くスープを作るとテーブルに皿を置く。

 それを待ってましたとばかりにシローは皿に口を付けてゴクゴクと一気に飲み干す。


「プハーッ!美味かった!」


 流石に頬はこけたままだが、昨日よりは顔色も良くなり自分の意志で食事を摂るシローを見てアズハは目に涙を浮かべる。

 そうこうしているとクルルとジーナが起き出しダイニングへやって来るとシローを見て大喜びをしたのは言うまでもない。


「皆、心配をかけた。すまなかった」

「も、もう良いのだな、シロー殿」

「ああ、今日はゆっくり体力を回復させてもらうが、明日からは問題ないぞ」

「しっかり体力を回復させるです!」

「うむ、クルルの言う通り体力の回復を優先に数日は無理に動かない方が良いと思うぞ」

「大丈夫だ、俺には【再生】スキルがあるから直ぐにでも回復するよ」


 こうしてシローは立ち直ったようにみえた。アズハ、クルル、ジーナの3人は嬉しく思うのであった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 復興著しい魔道ギルドのギルド会館。

 土系の魔法が得意な魔導師が総動員されアキムによって破壊されたギルド会館は既に立て直された。しかし建物は魔法で建て直せても内装はそうは行かないし、更にアキムの魔法によって死んだり重傷を負った職員は簡単に補充ができないのだ。


 そんな魔道ギルドの新会館の中でこれでもかと言うほど汗をかいている者がいた。

 バンデ・バデ・デンバ、魔道ギルドの重鎮でありアキムの件で何かと動いていた魔導師である。


「し、シロー殿、そのように殺気を放たれては話も出来ぬ……」

「話は簡単。スノーを封じているあのクリスタルは悪魔の呪いだ。俺はその呪いを解除する方法を探している」

「それについては今調査を」

「それで、奴は何か話したのか?」

「そ、それが……まったくもって……」

「……何も聴取が進んでないのか?」

「わ、わけの分からぬことばかり口走るので……気が触れたとしか……」


 シローでも解除できない呪い。その呪いを解除するには呪いをかけた悪魔を退治する他ないのだ。それが解呪の条件なのだ。

 シローの【チート】であってもこの条件を満たさない限り解呪はできない。


「まったく……あまり時間がないので早く突き止めてほしい」


 そう言うとシローは席を立つ。

 そして不意に部屋のドアを開いたのでシローは警戒して身構える。


「ほほほほ、そんなにバンデを虐めんでやってくれまいか」

「貴方は……」

「久しいのぅ、シロー殿」

「お久しぶりです、フリンボさん」


 思いがけない再会である。何故ここにフリンボが居るのかと瞬考するもその理由に直ぐ思い当たった。

 フリンボは魔道ギルドの重鎮も重鎮、鉱山都市フリオムを治める賢者であり魔道ギルドの頂点の一角なのだ。魔道ギルド本部の一大事に駆け付けても可笑しくはない。


「ほほほほ、クルルは元気かの?」

「ええ、とても元気で毎日ハンマーを振るっていますよ」

「そうか、そうか、まぁ、そこに座りなさい」


 立ち話も何だからとシローを今まで座っていたソファーに戻す。そして自分はバンデの横に座ると視線を厳しくする。


「スノー殿の件は聞いた」

「……」

「その悪魔だが、ワシに心当たりがある」


 シローはガッと立ち上がりフリンボに詰め寄りフリンボの肩をガシっと掴み「本当か」と揺さぶる。


「落ち着くのじゃ!」

「っ、すみません」

「良い、良い」


 シローが落ち着きソファーに再び腰を降ろすとフリンボは話し出す。


「その悪魔じゃがの、恐らくは炎の迷宮に住み着く悪魔じゃろうて」

「炎の迷宮の……」

「古来より住み着く悪魔で時々地上に現れ我らを馬鹿にしたような騒ぎを起こすのじゃ」

「フリンボ様、そのような悪魔が?」

「ああ、過去に炎の迷宮に挑戦した勇者パーティーがその悪魔と戦い逃げ帰ってきたのだ」

「ゆ、勇者様が……あれは火竜による……」

「ほほほほ、火竜が居たとしても勇者は戦ってはおらん。悪魔から逃げたと言うより火竜の方が醜聞が良いからそう噂が流されたのじゃ」

「なんと……」


 魔道ギルドの重鎮であるバンデでさえ知らぬ事実を部外者であるシローがいるこの場で暴露するフリンボだった。


「恐ろしく強く、そしてずる賢い悪魔だと聞いたぞ。なんせ当時の勇者が手も足も出せずに逃げ出したのだからの。お陰で当時の魔導師系賢者が2人も死んだがのぉ」

「その悪魔は炎の迷宮に行けば……」

「居るじゃろうな。しかしどの層に居るかは不明じゃ。深い層に居るはずじゃがの」


 

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