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チート! 024 旅の途中のとある街2

 


 久し振りに宿に泊まったシローたち3人。

 スノーとアズハはシローとは別の部屋に泊まっており今はシロー1人だけでベッドに横になって考え事をしていた。

 この鉱山都市フリオムには回廊迷宮といわれる迷宮の入り口があるのだが、この回廊迷宮の入り口は鉱山都市フリオムの1ヶ所だけではなく他の街にも入り口が存在しているのだ。

 つまり入り口があるという事はそこから出る事もできるのだ。

 そしてどういう原理なのか解明されていないが地上を行き来するよりはるかに短い時間で街と街がこの回廊迷宮で繋がっているのは有名な話である。


(この鉱山都市フリオムから迷宮都市ヘキサまでは馬車で16日ほど、それが回廊迷宮で繋がっているので回廊迷宮を使うと馬車で3日になる。スノーとももう直ぐお別れだな・・・ヘキサに到着すればスノーの呪いを解いて別々の道を行くのか・・・)


 シローはスノーと出会った頃の約束を思い出していた。

 既にスノーの呪いを解くための条件である【神聖魔法】は十分にレベルを上げているし、MNDに関しても十分な数値となっているので準備は整っており、後は解呪を実行するだけである。

 これだけして解呪できなければシローに加護を与えたエクリプ神が美の女神より神格が低い事になる。

 仮に解呪ができなくてもシローには【チート】があるので最悪は【チート】を行使し解呪するつもりでいる。

 但し、できれば解呪で何とかしたいというのがシローの本音である。

 いくら【チート】でもこれだけの高条件の解呪を行うには膨大なMPが必要であろう事は容易に想像ができるからだ。


(スノーと分かれたら今度はアズハと2人きりになるのか、アズハもいつかは奴隷から解放してやらないとな。その為にはあの【神狼化】の封印を解いてやらないといけないな・・・今回の魔物集団暴走(スタンピード)で封印が解ける1,000体の約半分まで来たからもう少しだ・・・)


 シローの中では2人を長く傍に置こうとか、占有したいとか、という考えはなかった。

 あるのは如何に2人を一人立ちさせるかであり、もし2人に好きな人ができたならその人に任せるという事も考えていた。

 奴隷の主人というよりは最早保護者的な考えである。


 翌日、スノーとアズハを引き連れて街中を散策する。

 坑道を居住区にした事もあり住居は石壁をくりぬいたものだが、石壁に彫刻がほどこされており決して武骨な感じはしない街並みである。

 その中で最も目を引くのが中央にそびえ立つ太い石の柱。


「あれが賢者の塔です。あそこに大地の賢者がお住まいになっています」


 今日もアズハはガイド代わりにシローたちを案内する。

 賢者の塔は巨大な空間であるこの街を支える大きな柱である。

 その内部には空洞もあり、その空洞に賢者の住居やこの街の行政機関などがはいっている。

 そんなフリオムの街の中心にそびえ立つ柱の太さは直径200メートルはあり、その正面に大きな門が一般人を拒絶しているように存在している。

 当然の事だが門は衛兵によって警備されているので許可無く賢者の塔に入ることはできない。


「デカイなっ!」

「本当ですね、これが人口的に作られた塔だなんて・・・」


 3人はアズハの案内でフリオムを楽しむ。

 そして金属製品が所狭しと置かれている商店をハシゴして良さそうなアイテムがあれば購入をしていく。


「デリンボさんも良い腕をしていたけど、やっぱりドワーフ製の金属製品は一味違うね。この剣だって丁寧な仕事をしているよ」

「ほほほほ、お主、デリンボを知っておるのかぇ?」


 店に陳列してあったシルバーソードを手にとって眺めていたシローに声を掛ける一目でドワーフと分かる容姿をしている老人。

 その白髪交じりの茶髪と顔の殆どを覆いつくす濃い髭、ドワーフの特徴である低い背と筋肉質の体格、そんなドワーフなのだがどこか違和感を覚えるシロー。


「アンタは?」

「ほほほほ、ワシかぇ? ワシはフリンボと言う者じゃ。それよりお主はデリンボを知っているのかぇ?」


 フリンボと名乗った老ドワーフはシローに鋭い視線を投げかえるもシローはその視線を華麗にスルーする。


「ああ、デリンボさんにはカウラニで世話になった。この牛斬もデリンボさんの作品だ。ところで、アンタ・・・フリンボさんって言ったか? デリンボさんとは?」

「ほほほほ、デリンボはワシの息子じゃぇ」


(何とっ! ・・・確かにデリンボさんに似ているといえば似ているな。てか、デリンボさんがこのフリンボさんに似ているのか)


「ほほほほ、その剣・・・ちと違うか? 剣にしては細いの、刺突剣(レイピア)とも違うの? 確かカタナといったかの?」

「ああ、これは刀っていう剣の仲間なんだ」

「ほほほほ、ちと見せてくれんかの?」


 シローは瞬考したが腰に携えていた牛斬をフリンボに手渡す。

 フリンボは鞘から牛斬を抜き放つと何度か角度を変えて繁々と牛斬を眺め鞘に収めシローに返す。

 その視線は鋭くハンマーを振るい剣を鍛えているデリンボのようでシローはやはり親子だと感心する。


「ほほほほ、お主、名は何と言うのじゃぇ?」

「俺はシロー、冒険者をしている。後ろに控えている2人はスノーとアズハだ」


 シローの紹介で名を呼ばれたスノーとアズハは小さく頭を下げ2人のやりとりを見守る。

 こう言うところで前に出ないのは奴隷としての躾が行き届いている。


「ほほほほ、その2人は奴隷かぇ? お主は奴隷推奨派かぇ?」

「たまたま出会った2人が奴隷ってだけだ。別に奴隷が好きなわけでも推奨をしているわけでもない」


 魔導王国セトマはその政治体制もあって奴隷推奨派と奴隷反対派の二派に分かれて奴隷に関する議論をしている。

 王政をしいていても政治は民間出身の政治家が行っており、特権階級意識が希薄である為でもある。

 こうした意識の中で奴隷は人権を損なうとして魔導王国セトマでは奴隷反対派の有力者が多く存在しており、奴隷禁止法案が時折議会に提出される事も珍しくないのだが、法案はことごとく否決されてきた歴史がある。

 奴隷反対派が多く存在するこの国で奴隷禁止法案が否決されるのは、他国からの商人などは奴隷を使役している者も多く自国の奴隷を禁止しても国内の奴隷を完全に禁止できないという理由がある為である。

 それに魔導王国セトマだけ奴隷を禁止しては安価な労働力が少なくなり他国との競争力が保てないという考えも根深く残っているからだ。

 フリンボはそれ以上2人に関して聞く事はなかったが、シローの牛斬については細かい刃毀れがあり自己修復の効果があってもメンテナンスは必要だと指摘する。

 フリンボが鑑定系スキルを使った様子はなく、少し見ただけで牛斬の効果について見抜くのかとシローは舌を巻く。

 そこでシローはフリンボにメンテナンスを頼むのだったがフリンボは引退しているので無理だと返事をする。


「ドワーフは終生職人だって聞いた事があるけど、フリンボさんは違うんだ?」

「ほほほほ、今は息子が工房を継いでおりワシは悠々自適な隠居生活じゃぇ」

「息子さんはデリンボさんだけじゃないのか・・・」

「ほほほほ、デリンボは末息子じゃぇ、元気にしてたかの?」

「ええ、元気でしたよ。奥さんと娘さんも元気でした」


 フリンボは目を細め息子夫婦と孫娘の近況に聞き入った。

 フリンボはデリンボが他国で鍛冶工房を始めたために簡単には会えないので、シローの話に耳を傾け孫娘の成長に喜びを覚えるのだった。


「ほほほほ、今日は良き日じゃったぇ。お礼にこのペンダントを進呈するのじゃ」


 シローの手に握らせたペンダントは中央に赤茶色の石が嵌めこまれ金の外縁に細かな意匠がほどこされたもので、見た感じからも高価なものだと分かる。


「こんな高そうなペンダントを俺に?」

「ほほほほ、これは気持ちじゃぇ。このフリオムで困った事があればそれを見せてワシの名を告げよ。さすれば多少は力になるじゃろうぇ。っお、そうじゃった、その刀のメンテナンスじゃがの、息子のアレンボの店に行けばよいのじゃ。そのペンダントを見せれば優先的に対応するじゃろうて」


 息子のアレンボの店の場所を言い残してフリンボは立ち去った。


(デリンボさんの親父さんや兄って事だから腕はよいのだろうな。明日にでも行ってみるかな)


 その日はフリオムを散策し、翌日アレンボの工房に向ったシローだったが、最初は取り次いでもらえなかった。

 しかしフリンボより貰い受けたペンダントを店員に見せると掌を返したように応接室に通され、数分後にはアレンボが現れた。

 そしてそこでデジャブを感じる。


(デリンボさんじゃないよな? 兄弟だからってこんなに似ているものなのか?)


 既視感が半端ないシローだった。

 アレンボに牛斬と猛牛の暗刀(あんとう)を手渡し確認してもらうと明日の昼には出来上がっていると言われたのでそれを了承する。

 元々このフリオムに寄ったのは鉱山都市が珍しいというのもあるし、回廊迷宮を見てみたいという気持ち、そして何よりスノーのランクアップ試験を受けるのが目的であり、昨日冒険者ギルドに寄った最大の理由にもなる。

 あの魔物集団暴走(スタンピード)で緊急依頼を完遂し、十分な実績を残したとしてシローはランクが上がっている。

 アズハはランクCと変わりないが、スノーはE+より上に上がる為にはランクアップ試験を受ける必要があるのだ。

 しかしアゼン村の冒険者ギルドは出張所なのでランクアップ試験の試験官の確保ができない為に実施しておらず、他の冒険者ギルドの支部や本部で受けるようにとアリシアーナから言われている。

 とは言え、魔物集団暴走(スタンピード)で十分な実績を残しているので試験はあくまでも形式的なもので試験を受ければまず間違いなくランクD-にランクアップするとの事だった。

 そしてこのフリオムの冒険者ギルドの支部でランクアップ試験を受ける事にしたのだが、次のランクアップ試験は12日後になるのでそれまではフリオムで旅の疲れを癒す事にしたシローだった。


 自分の刀のメンテナンスだけではなくシローはせっかくなのでアズハの防具を購入したいとアレンボに申し入れる。


「その娘のか? 狼人族の娘だな?」


 アレンボはアズハの首に嵌められている首輪を見てアズハが奴隷である事は直ぐに判断できた。


「ご主人様、私の防具は今のままで十分です」

「この娘はアズハ。俺の仲間で狼人族です。防具は軽くて動きを阻害しないような物が良いですね。金の事は心配しなくて結構ですのでできる限り良いものをお願いします」


 シローはアズハの言葉を一切無視してアレンボに希望を伝える。


「ほう・・・まぁ良いわ、ついて来い」


 アレンボが見立てたのは革鎧で急所を金属プレートで補強しているものだ。


「これはワイバーンの皮を素材に要所を摩鉄で補強している革鎧だ。値ははるが良いものだ」

「こ、こんな高価な鎧なんて奴隷の私には相応しくありません!」


 アズハはアレンボが見立てたワイバーンの革鎧を見て慌てて拒否をするが、シローは事の他気に入った様子でその革鎧をアズハに合わせて欲しいとアレンボに頼むのだった。



 アイテム名:摩鉄強化のワイバーン革鎧

 スロット:2

 主素材:ワイバーンの皮、摩鉄

 効果:物理防御+120、魔法防御+180、速度強化(微)

 強度:231

 条件:STR85以上、AGI110以上



「似合っているじゃないか、なぁスノー」

「はい、よく似合っております」


 調整された『摩鉄強化のワイバーン革鎧』を着たアズハを見てシローとスノーはアズハの容姿を褒める。

 それを温かい目で見つめるアレンボや店員たち。

 値段は流石の高値であったが、シローはそれを躊躇せず支払う。

 その姿にアレンボは目を細めるのだった。


「良い買い物もができた、お礼を言います」

「うむ、何かあればいつでも来るが良い」


 シローは満足して店を後にする。

 アレンボの工房を後にしたシローとスノーとアズハはそのまま街中の散策をして今日の宿をとる。

 態々この街外れの宿を選んだのはこの宿には温泉があると聞いたからで、宿代も今まで泊まった事のある最も高い宿の倍もする高級宿だ。

 宿代は高いがこの世界に来て初めての温泉に入れたのだからそれはそれで満足するべきだろうと考えたシローだが、残念な事に温泉は混浴で常に誰かが入っている状態なので1人でゆっくり入りたいと思っているシローには不満しかなかった。


「まったく、せめて貸切制度を作っとけよっ!」

「如何しましたか?」


 悪態をつくシローにスノーが恐る恐る問いかける。

 こめかみに青筋を立てているのでシローが怒っていると判断したのだろう、こういうところでシローとスノーがまだ心から信頼しあっていない事が分かる。


「気にしないで良いよ、独り言だから」


 随分と大きな独り言があったもんだとアズハは2人のやりとりを傍観する。

 打ち解け切れていない3人のギスギスした時間が流れる。

 シローはこの世界で親がいるにも関わらず、その親の愛情というものを感じた事がない。

 子供は親の愛情を感じ、愛情というものを肌で知るのだが、シローにはその経験はない。

 そういった事が原因なのか、前世の経験によるものなのか、シローは愛というものを知らないし、愛という不確かなものを信じてもいない。



 

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