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チート! 020 旅の途中でとある新迷宮2

 


 思わぬ場所で狼人族の奴隷を手に入れてしまったシローは発見した迷宮から最も近くで冒険者ギルドの出張所があるアゼン村を目指す事にした。

 本来であれば迷宮をもっと探索したかったのだが、狼人族のアズハが精神的に弱っていたので休息を与える事にし、ついでに正式にアズハをシローの奴隷にする為の手続きをする事にした。

 それに死んだ5人の冒険者についても報告をする事になるだろう。


 アゼン村は人口200人ほどの小さな村ではあるのだが、地理的に街道沿いにあり商人や旅人が休憩するための宿屋が6軒も軒を並べているのと酒場が多くある村で所謂宿場町的な存在である。

 ただ、このアゼン村にはもう一つの側面があり、それは冒険者の村であるという事だ。

 村人数百人ほどに対し冒険者は常時100人以上が活動拠点にしており、冒険者比率が高い村でもあるのだ。

 このアゼン村に冒険者ギルドの出張所があるのはアゼン村の近くに魔物の棲みかになっている森があるからで、6軒ある宿屋には常に冒険者が寝泊りしている事もありそれなりに潤っている村でもある。

 ただ、宿屋が6軒では全ての冒険者や商人に旅人を全て泊める事が出来ないので、冒険者はパーティーメンバーで家を借りて生活をしている側面もある。

 そして村の住民に対し冒険者をはじめとした商人や旅人の人口比率が多いのはこう言う村ではあまり不思議な事ではないのだ。


「長閑とは言えないな。冒険者が多いせいか人口の割りに歓楽街というか酒場が多い」

「この村は冒険者や商人たちがお金を落とす事で成り立っています」


 アズハはこのアゼン村を拠点にしていた冒険者の奴隷だったので村の事には少し明るい。

 ここでシローはアズハについての処遇を考える。


 (スノーだけでも気をつかって気疲れしてしまうのに更にアズハのような美少女を奴隷にしてしまって俺はどうすれば良いのだろうか?)


 シローが新迷宮で助けた奴隷であるアズハ本人は自覚がないのだが、間違いなく美少女の部類に入る容姿をしているのだ。

 無意識に溜息を吐きながら冒険者ギルドを目指すシローとそんなシローの背中を見ながら歩くスノーとアズハ。

 シローの艶のある黒髪に尊崇の眼差しを向けるアズハ、そして愛慕の眼差しを向けるスノー。

 シローは男女の仲には鈍感であるのか、スノーの心情を推し量る事ができないのであった。


 冒険者ギルドの出張所は民家に毛が生えた程度の建物で中はカウンターと依頼を張り出す掲示板があるだけの簡素なものであったのでシローがアズハに訪ねると裏にアイテムの買い取り窓口や倉庫があるそうだ。

 しかし冒険者ギルドの目の前には2軒の酒場があり、更に数十メートル離れた場所にも酒場があり冒険者は主にその酒場に屯っているそうだ。


「冒険者ギルドアゼン村出張所へようこそ」


 淡いピンクの髪の毛が特徴の可愛らしい少女が受付窓口に座っていた。

 シローは珍しい髪の色だと暫く受付嬢の髪の毛を凝視していたので受付嬢から怪訝な眼差しを向けられる。


「ご、ご主人様・・・」

「あ、・・・報告がある」


 スノーの声で現実に戻って来たシロー。


「はい、何でしょう?」


 冒険者ギルドでは死んだ5人について報告し、アズハについてシローの奴隷として正式に登録をして貰うように依頼をする。

 冒険者は奴隷を連れている事が多いので冒険者ギルドは奴隷についての対応ができるようになっている。

 但し、冒険者ギルドは奴隷の売買は行っておらず、あくまでも奴隷契約に関しての業務を行っているだけである。


「ギルドカードをお見せ下さい」


 珍しい髪の色をした受付嬢はシローのギルドカードを確認し瞠目する。


「デザ・・リゲ・ター・・・」


 そう言えばギルドカードには討伐した魔物の履歴が残るんだな、とシローは今更ながら思い至る。


「・・・何処で、何処でデザートアリゲーターをっ!? この付近にはデザートアリゲーターなど棲息していないはずですっ!?」


 出来る事なら迷宮の事は秘密にしておきたかったが、言わざるを得ないようだと頬をかいたシローは受付嬢に迷宮のことを正直に話した。


「迷宮ですってっ!?」


 その後は受付嬢があれやこれやと手配をするのを待ちやっとアズハの奴隷契約について対応してもらるようになった。


「新しい迷宮については迷宮の難易度を調査する為に立ち入り禁止となります。それと調査の後、然るべき対応と褒賞金が支払われる事になります。ただ今直ぐ調査ができないので・・・」


 調査に時間がかかるのは構わないが迷宮が立ち入り禁止になるのはいただけないと心の中で舌打ちをするシローはそれを表情に出さず受付嬢に問いかける。


「調査には時間がかかるのか?」

「調査にはランクC以上の冒険者パーティーを当てますので、その手配と調査の時間で2週間ほどかかります」

「2週間も掛かるのか・・・仕方がないな、アズハの奴隷契約の更新手続きを頼むよ」

「はい、奴隷契約の更新には大銀貨1枚、1,000レイルが必要となりますが宜しいでしょうか?」

「ああ、問題ない」


 シローは淡いピンク色の髪の毛を持つ受付嬢に大銀貨1枚を手渡す。

 その時に受付嬢の手に触れたシローは少しドキマギするのだった。

 そして報奨金についてはギルドに預けると受付嬢に伝え出張所を後にする。


「さて、これでアズハは正式に俺の奴隷となったのだが、俺はアズハを解放しても良いぞ」


 冒険者ギルドで手続きをしたシローたちは食堂に入り食事をする。

 勿論、アズハは椅子には座らずシローの後ろで控えようとしたのだが、スノーも椅子に座らせていると言いアズハも椅子に座らせる。

 そして注文を終えたシローの言葉にアズハが驚く。

 タダで奴隷が手に入ったのにそれを解放しても良いと言う者は滅多にいないだろう。

 そんな希少種が目の前にいる事にアズハは驚いているのだ。


「・・・有難う御座います。・・・しかし私は奴隷から解放されても帰る場所がありません。何でもしますのでお傍に置いてください」


 アズハはその外見から迫害された経緯があり、1人では生きていけないと考えている。

 冒険者としてはそれなりの実績もあるが、それは主人の庇護の下での実績であり1人で冒険者を続ける自信もないし、他の職業に就く事も考えられない。

 シローにはまったく理解ができないが、奴隷のままでいたいと言う者もこの世界ではいるのだな、と、この世界の異様さに寒気がした。


「・・・分かった。だけど、俺は冒険者だから魔物と戦ったり盗賊と戦ったりするけど大丈夫か?」

「はいっ! これまでも魔物と戦っていましたから大丈夫です!」


 ボッチ体質であっても自分を頼ってくる弱者を放っては置けないのは前世での孤児院で年下の子供たちの面倒をある程度みていたからなのだろう。

 しかもシローは孤児達の面倒をみていたので本来は面倒見が良いのだが、同年代の友達がいなかった事で自分で自分をボッチ体質と決め付けているのだった。


 今回のアズハの件にはスノーの意思は反映されていない。

 何故ならそれはスノーがシローの奴隷だからであり、奴隷が主人に求められてもいないのに意見を言う事はあり得ないからだ。

 しかし自分以外の奴隷、しかも獣人ではあるが美少女の奴隷をシローが得た事に胸がモヤモヤするのを感じるスノーであった。


「さて、アズハも仲間になったし今日はしっかり休み明日は迷宮に行くぞっ!」


 このシローの発言にスノーは「やっぱり」と思い、アズハは額に縦線が見えるほどドン引きしていた。


「あ、あの、迷宮って・・・あの迷宮ですか?」

「アズハの言うあの迷宮がどの迷宮か分からんが、俺の言う迷宮はアズハを助けた迷宮の事だ」


 冒険者ギルドがあの新迷宮を管理下に置いた以上、調査が済むまでは新迷宮に入ることはできないのだが、シローには【時空魔法】の『転移』ができるので入り口を通らなくても新迷宮に入る事はできるのだ。

 スノーは何も言わずに諦めていたが、アズハは行きたくないオーラを醸し出している。


「アズハは能力的に斥候だね?」

「え、あ、はい、そうです!」




 ■ 個人情報 ■

 アズハ

 狼人 15歳 女

 シローの奴隷


 ■ 能力 ■

 HP:74/74

 MP:13/13

 STR:60

 VIT:50

 AGI:85

 DEX:60

 INT:20

 MND:30

 LUK:15


 ■ 種族スキル ■

 嗅覚Lv3

 聴覚Lv3


 ■ ユニークスキル ■

 神狼化(封印)


 ■ レアスキル ■

 罠士Lv3

 隠密Lv3


 ■ ノーマルスキル ■

 体術Lv3

 短剣術Lv3




 (ははは、このユニークスキル強すぎるだろう・・・この封印が解除されれば一気に化けるぞ)


 @神狼化

 神殺しであるシルバーフェンリルの血を引く者に稀に現れるスキル。

 全ステータス5倍、及び全スキルレベルプラス3。

 対神、対悪魔に対しては更にAGI値プラス200と魂への攻撃が可能となる。

 (封印)解除条件は敵を1,000体屠る事。(32/1,000)


「じゃぁ、アズハの武器を用意しないとね」

「えっ? あの、武器は持っていますが?」

「そんな短剣ではランクBどころか、ランクCの魔物相手でも刺さらないぞ」


 元々、アズハの能力ではランクD程度の魔物でも互角の戦いができるか難しいのにランクBの魔物であるデザートアリゲーターが入り口付近にいるような迷宮では生き残るのも厳しいだろう。

 これまでは斥候としてのポジションが与えられていたのだが、この【神狼化】を見る限り前線で戦う必要があるだろう。

 アズハのユニークスキルである【神狼化】が解放されれば大概の事は自力で対応できるだろうが、今のアズハではそうは行かない。

 そんなアズハを生き残らせるためにシローはアズハに良い武器と防具をあてがうつもりでいるし、能力の底上げをするつもりでもいる。


 シローは2人を連れてアゼン村を出る。

 アズハは武器を用意すると言っていたシローがアゼン村を出て行く事に疑問を持ちつつ後をついて行く。


「あの・・・ご主人様」

「ん? どうしたんだスノー」


 スノーは少し言いずらそうに口を開く。


「あの迷宮はギルドによって封鎖されていますので入る事が出来ないと思いますが?」

「はははは、そんな事は気にしないぞ!」

「き、気にしないと言われましても・・・」

「まぁ、俺に任せておけ!」



「迷宮が発見されると、先ずは冒険者ギルドが指定した冒険者かパーティーによる調査が行われます・・・」

「そして調査が終わるまでは・・・」

「迷宮は冒険者ギルドによって封鎖されます」

「あの受付嬢さんもそう仰っていました」


 スノーとアズハが交互にシローに説明をする。

 見事なまでの連携で説明をする奴隷コンビだった。

 ただしその事はシローも分かっている。

 しかし『転移』という切り札を持っているシローはギルドに見つからずに新迷宮に入る事ができる。

 ただ、ギルドの調査が明日から始まってしまうのであればシローも諦めたかも知れないが、調査隊の手配には少し時間がかかると聞いているので、新迷宮内には誰も居ないと分かってもいる。





 暫く進むと街道から外れ森の中に入って行く。

 そしていつものように簡易家を作り休むのだが、アズハは開いた口が塞がらない状態である。

 シローが食事を用意していると風呂の用意を済ませたスノーがアズハを連れてキッチンにやってくる。


「も、申し訳ありません! ご主人様に食事を作らせてしまって・・・」


 アズハは気にしないようにとシローに言われるも、そんな簡単に割り切れるわけではない。

 13歳で奴隷となって2年も経っているアズハは女性の主人1人に仕えたのだが、幸いな事に暴力や性的な虐待はなかった。

 それでも奴隷として扱われていたので食事は主人の残り物や安いパンと硬い肉ばかりだったし、床で食事するのが普通だった。

 奴隷が床で食事をするのは一般的な事で誰も不思議には思わないのだ。

 そして恐縮しまくるアズハをなだめるのに時間が掛かったが、シローの作った料理を口に運んだアズハの目が見開かれ料理に舌鼓をうちテンションアゲアゲだったのは言うまでもない。

 そして風呂でもアズハの常識が覆され、寝床に関しても同様であった。


「俺はこっちの部屋で寝るからスノーとアズハはそっちの部屋で一緒に寝てくれ」


 スノーとアズハは素直に頷き、自分たちの部屋に入って行くのだったが、アズハはそこでもうろたえる。

 柔らかなクッションが利いたキングベッドに寝るなどあり得ないのだ。


 (スノーが居て良かったよ。一々驚かれ説明していたら疲れちゃうよ)







 翌朝のシローたちは食事を摂りアゼン村に向うのだが、その前にシローはストレージから短剣2本を取り出しアズハに渡す。

 この短剣はガイジャスの街で購入したものだが切れ味が強化されているのに二束三文で売られていたので迷わず購入しておいたものだ。


「この短剣に交換ね」


 シローはアズハの持っていた短剣と自分がストレージから取り出した短剣を交換しアズハに装備させた。

 武器が新しくなったアズハは使い心地を確かめるように鞘から抜き差したり、素振りをしたりする。


「ご主人様、この短剣はとても使い易いですっ!」

「そうか、それは良かったよ」


 アズハの笑顔を見てスノーはアズハが羨ましいと思ってしまう。

 そして自分がアズハを羨ましいと思う事にどんな意味があるのかは分からないままモヤモヤした胸の内にスノーはイラつくのだった。


『ピーーーーーーーッ! ピーーーーーーーッ! ピーーーーーーーッ!』


「わっ! 何だ!?」


 アズハが喜び勇んで短剣を振り回していると急にシローたちの周囲に高音量の警告音のような音が鳴り響く。

 3人が何事かと周囲を警戒するも、その音がスノーとアズハの懐から鳴り響いていると気付いたのはスノーだった。


「これは・・・冒険者ギルドアゼン村出張所の緊急依頼のようです」


 スノーとアズハはギルドカードを懐から取り出し緊急依頼の内容を確認する。

 この時、シローのギルドカードが鳴っていなかったのは、シローがギルドカードをストレージの中に収納していた為であった。

 ギルドから発せられた信号のようなものはシローのストレージ内には届かないという検証がこれでできてしまった事になる。


「緊急依頼は拒否できなかったはずだよな?」

「はい、急ぎアゼン村へ向う必要があります」

「緊急依頼なんて初めてです!」


 シローの確認にスノーが答え、アズハは初めての緊急依頼に少し上気している。


「面倒だけど、行かないわけにはいかないよな・・・気乗りはしないけど行こうか」

「「はい」」


 村の入り口に着くと昨日は居なかった門番がシローたち3人を呼び止める。


「君達は冒険者かい?」

「そうですが、村の中が騒々しい・・・」

「そうか、冒険者か! 今直ぐ冒険者ギルドに向ってくれ! 詳しい話はギルドであるはずだ」


 門番は終始焦った表情でいたのでシローはこのままでは埒が明かないと考え冒険者ギルドに向う。


 (おかしい・・・昨日はこんなに魔物が居なかったはずだ・・・これが緊急依頼の原因か?)


 シローは状況を探る為にいつもは抑えて使っている【空間把握】の範囲を広げると、村から2Kmほどの場所に魔物が押し寄せてきていたのだった。



 

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