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チート! 012 スノー

 


 スノーは完全に後衛火力型であり、対してシローは前衛が得意ではあるが後衛火力としても動ける。

 パーティーとしてはバランスが良いと思われるが、シローが前に出て刀を振ると殆どの魔物は一振りで光り輝いて消えてしまう。

 その為、今は盾を構えて魔物をスノーの元に行かせないようにしているシローだが、盾関連のスキルがなくても意外と使えるものだと自画自賛している。


「アイスランス!」


 スノーが構築した魔法が放たれると氷の矢がゴブリンの腹部に突き刺さりゴブリンは絶命する。

 多くの魔法使いは詠唱をするようだが、魔法を使うのに詠唱が必要というわけではない。

 魔法はイメージであり、イメージさえ明確であれば詠唱を唱える事も魔法名を発する必要もないのだ。


「アイスランスを放つときに魔力を高めるのに時間が掛かっているね、その時間をもっと縮めると戦闘も楽になるよ」

「はい・・・申し訳ありません・・・」

「別に怒っているわけじゃないから、頑張って発動時間を短縮させようね」

「はい・・・」


 主人と奴隷という関係なので仕方が無いのだろうが、シローは壁を感じている。

 その後も魔物を狩り続け、魔物の止めはスノーに刺させるようにしている。


「魔法の発動はイメージだよ。どんなイメージで氷を作っているの?」

「え~っと、水が氷になる感じでしょうか・・・」


 確かにそうなのだが、何か漠然としたイメージだ。

 そのままでは発動時間の短縮は難しいだろう。


「水が氷になるには?」

「・・・寒くなる・・・ですか?」

「どの程度寒くなれば水は氷になるのかな?」

「・・・とても寒いです・・・」

「・・・水が自然に凍る場面を見た事はあるかい?」

「・・・いいえ」


 明確なイメージが魔法の発動時間や威力に関係すると言われているので、スノーのイメージが曖昧なままでは向上は見込めないだろう。

 ではどうするかと言えば、水が凍るメカニズムを教え明確なイメージを持たせれば良い。

 だが、分子がどうのとか言う話しをしてもスノーには難し過ぎるだろう。

 どうしたものか、と頭を回転させる。


「水は液体、氷は固体って言う事は知ってるかい?」

「えきたい? こたい? ・・・分かりません」


 その回答が返って来るのは分かっていた。

 この世界では日本で言う理科や科学の分野は発達していないので液体とか固体と言う知識どころか、気体の存在さえも知らない。


「水は形を持たない、しかし氷は形を持つ、これは良いね?」

「はい、分かります」

「大雑把な説明になるけど、触った感覚があり形を持たない物を液体と言い、形を持つ物を固体と言う、これは覚えておいて欲しい」

「はい」


 余りにも大雑把な説明ではあるがシローとてそんなに詳しく説明できるものではないが、それ故にスノーもこの2つくらいは覚える事はできるだろうとシローは思う、いや、思いたい。


「水が動かないようにイメージしてみて」


 分子は分からなくても分子運動を止めるように誘導する。


「はい」


 スノーの掌の上に魔力が集まるのを感じると、動かない水が具現化される。

 ある意味この動かない水の方が凄い気がするのだが、それには触れない事にしたシローだった。


「これは見た感じは動かない水だけど、よく見ていてね」

「はい」


 シローはスノーの掌の上の水の固まりに指を差し込む。


「指が刺さるという事は水が動いているからだ。このように外的要因でこの水は動いてしまう。この外的要因でさえも動かない水を作ってみて」

「・・・はい」


 流石に動かない水なんて難しいのか、出来上がった水の固まりには指が刺さる。


「すぐには出来なくても良いよ。俺もそんなに簡単にできるとは思ってないから」


 だが、次の瞬間、水の固まりは氷になる。


「で、できました! ご主人様、出来ました!」


 ピョンピョン跳ねて喜びを体で表したスノーはハッと我に返り気まずいのか頬を薄っすらと赤く染める。


「凄いね、こんなに早く出来るとは思って居なかったよ。じゃぁ、その要領でアイスランスを作ってみてくれるかな」

「はい、アイスランス!」


 瞬時に魔力が氷の槍を作り出し空中に浮いている。

 日本だったらアイスランスを作るのもそうだが、アイスランスが空中で静止している方が驚きの現象だろう。


 (何この娘、飲み込みが早すぎませんか? 精霊術師だから・・・と言うわけではない・・・と思うけど・・・)


 コツを掴んだスノーの氷魔法の構築速度は短縮された。

 後はその構築を実戦で行い、経験を積むのみと言わんばかりにスノーに魔物を狩らせる。


 この世界はスキルレベルの概念はあるが、人間自体のレベルについての概念はない。

 しかし魔法の訓練や戦闘を行えばINTやMNDが上がる事は多くの人が知っているし、魔法を使って訓練や戦闘をしてもSTRやVITといった他の能力も僅かではあるが上がる事も知られている。

 その逆で剣の訓練や戦闘を行えばSTRやVITが上がり易く、INTやMNDはやや上がる事も知られている。

 つまり訓練や戦闘を行う事で能力が上昇するのだが、身体能力に関してはレベルの概念がない為にその原理が明確にはなっていない。

 だからというわけではないが、ひたすらスノーに経験を積ませ、見えないレベルを上げさせる。

 残念ながらシローは訓練や戦闘では身体能力もスキルレベルも上がらないと思われるので、止めをスノーに刺させてもシローの能力に影響はない。


「MPは大丈夫かな?」

「大丈夫です。ご主人様に魔法を教えて頂いたお陰で消費量が減っているようです」

「そうか、だけど敵が出てくる場所では余裕を持って休憩をするんだ」

「はい、分かりました」


 その後も魔物を狩りまくり、スノーはすっかり氷の構築をものにしたようだ。

 それとスノーに新しいスキル【魔力操作】が発現していたのだが、このスキルはスーパーレアスキルだからそんなに簡単に発現するものではない。


 その日、冒険者ギルドに向かいゴブリン駆除とグラスウルフの駆除を報告をすると、スノーはランクF-にランクアップしてしまった。

 スノーの実力としてはランクDでも十分に通用するので問題はないだろうが、シロー同様にアッと言う間にランクアップした事は冒険者間の噂となるまでに時間は要さなかった。


「おい兄ちゃん、えらい別嬪さんを連れているじゃないか、俺に1晩貸してくれや」


 ギルド会館を出て宿に戻ろうと道を歩いていたシローとスノーの前にテンプレ馬鹿が現れる。

 シロー1人の時はテンプレが殆どなかったが、スノーを購入したらすぐにこういう事があるんだな、と思うシロー。


 (まさかとは思うけど、スノーがヒロインなんだろうか?)


「え~っと、近寄らない方が良いですよ。・・・って、もう遅いですね」


 スノーの手に触れてしまったこのお馬鹿さんの名前はアッホーというのだが、既にVITとLUKの値が1になっている。

 つまりHPの最大値が激減しているという事だ。


「な、なんだ・・・体が・・・」


 シローは動きが悪くなったアッホーを放置してスノーの手を引き走り出す。

 HPの最大値が激減したのだから、アッホーは呪いから回復する条件を満たさない限り今後冒険者としてやっていけないだろう。


 シローはアッホーを見捨てる。

 自分の馬鹿な行動の結果であり、シローが責任を負うべき事ではないと切り捨てる。

 自分の行動に対する責任は自分が負うものであり、それをシローがどうこうしようとは思っていないのだ。


 (弱そうに見える俺が美人を連れているだけでふざけた事を行動に移したアッホーの責任であり、自業自得なので俺は知らん)


「あの方は・・・私のせいですか・・・」

「気にする必要はないよ。彼の行動は彼自身で責任を取るべき事だ。世の中そんなに甘くないって事が分かっただろうさ」

「しかし・・・いえ、何でも有りません。・・・それよりご主人様は大丈夫なのですか?」


 スノーは何故シローに呪いによるバッドステータスが現れないのか不思議であったし、何より心配をしている。


「俺がスノーを購入したのは鉱山送りになると聞いて不憫だと思ったからだよ。つまり俺はスノーの容姿が気に入って買ったわけではないので、スノーの呪いに引っ掛からないわけですね」


 シローは予定通りの言い訳をする。


「あ、有難う御座いますっ!」

「ん?」

「ご主人様のお陰で鉱山に行かずに済みました。もっと早くお礼を言うべきでした! 申し訳有りませんっ!」


 スノーはシローにお礼を言うと頭が地面にぶつかるんじゃないかと思うほど頭を下げる。

 半分は本当なのだが、半分は嘘だからそこまで大げさにしなくても良いのに、とシローは頬をかく。


「気にしなくて良いよ。さぁ、早く宿に帰ってご飯を食べよう」

「は、はい」


 薄暗くなった街中をシローとスノーは連れ立って宿屋を目指す。

 今朝宿を出る時にはちゃんと2部屋とったので、今日はゆっくりとベッドで寝れるだろう。


 宿に戻り部屋で体を拭こうとお湯を頼む。

 下級ではあったが貴族のファイフォーレンの屋敷には小さいながらも風呂があったので2日に1回は入浴していたシローだが、この世界で風呂は一般的ではなくこの宿屋にはないのだ。

 そう思っていると部屋の扉をノックする音が聞こえる。


「ご主人様、宜しいでしょうか?」

「鍵は開いているよ」


 扉を開けてスノーが部屋に入ってくる。


「どうしたんだい?食事なら30分後に食堂に集合だったはずだろ?」

「お体を拭くのを手伝わせて下さい」


 スノーは奴隷である。

 故に宿では主人と一緒の部屋で主人の身の回りの世話をし、寝る時は床で寝るようにと教育されている。

 勿論、食事も床で食べるし、食べ物も主人の食べ残しである。

 それが普通だと教育されているし、世間一般の常識でもあるのだ。


「大丈夫だよ、1人でできるから。スノーだって汗をかいただろ? 俺の事より自分の事をしなよ」

「いえ、これはケジメですので。お世話をさせて頂きます」


 スノーは少し目を潤ませシローに迫る。

 鼻と鼻がくっ付きそうな距離にまで迫られてドキッとするシローであり、間近で美人の顔を直視できるほどシローは前世を通じてリア充ではなかった。


 (仕方なくだ! 決して俺が望んだわけではないのだ!)


「スノー下は自分でするから・・・」

「いえ、拭かせて頂きます!」


 スノーの鼻息が荒いように見えるのは気のせいだろう。

 されるがままに蹂躙されたシローの体はすっかり綺麗になった。


 (・・・もう婿にいけない・・・よ)



 

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