セイレーン
少年達は、町外れの、寂れた大きな館を冒険するのが好きでした。
いつしかそこは彼らの秘密基地となり、毎日仲良く遊んでいました。
そんなある日のこと。
少年達は、秘密の地下室を見つけました。
そこには、とてもとても美しい歌声を奏でる一つの人形が佇んでいました。
少年達は、すっかりその声に魅了されました。
毎日のようにその地下室に訪れては歌声に聞き入りましたが、歌声は常にその色を変え、どれだけ聞いても彼らを飽きさせることはありませんでした。
それからいくらか年月が経つと、少年達は青年になりました。そして、成長と共に、沢山の欲望が頭をもたげるようになっていました。青年達の誰しもが、その歌声を独り占めしたいと考えたのです。
青年になった少年達は、歌声を取り合い殺しあいました。そして、1人の青年だけが残りました。
少年だった青年は、何年も何十年も歌声を聴き続けました。いつの間にか体は痩せ細り、薄いボサボサの髪は真っ白で、顔もシワだらけになったけれど、ただただその声を聴き続けました。
ある日、少年だった老人は、朽ちゆく我が身の最期を悟りました。もっと歌声を聞いていたい。生に執着する老人は、見るもおぞましい形相で人形に手を伸ばし、必死に、震える手で人形に触れます。長い長い年月を共にした人形に、初めて触った瞬間でした。
すると、少年は突然、おぞましい老人ではなく、ただの寂しい、一人ぼっちの老人の顔になりました。
「冷たい、歌声だなぁ」
あの頃の、下手くそな彼らの歌は、暖かかったなぁ。
少年は静かに息を引き取りました。
人形は、何事もなかったかのように、ただ美しい歌声を奏で続けました。
それからまた、長い時が経ち、沢山の人がそこを訪れましたが、どれも少年と同じ結末を迎えました。
沢山の屍で埋もれていく地下室に、美しい歌声は、いつまでもいつまでも、響き続けましたとさ。
終わり。