第七話
「え?今のってまじなのか?」
「そうよ。私が書いたものじゃない。学校の友達に渡すように頼まれてただけだし。」
そう言って、ゆりは俺の手に握られているラブレターなるものを取り上げる。
「なるほど。そのお前の友達は、俺が寺田と親しいことを知っていたわけだ。だから・・・って寺田の妹ってお前らと同じ学校で同じ学年だろ。どうしてこんな回りくどいことを?」
「さあね。」
俺の詮索をかわして、ゆりは話は終わったとばかりにリビングのソファに座り込む。
そのいでたちは、まさにドロンジョ。だが、セクシーさなどは微塵に感じられない。誰だよ、今俺のことボヤッキーとかいったやつ。ぼやくのとかかってるんだぜ。凄いだろ。
「なに、ボケっとつっ立ってんの?」
「なにって?」
「お腹すいたんですけど。」
お腹すいたんですけど=早く飯作れ、妹語は理解するのに長い年月が必要だ。
結局のところ、妹がアイドルを辞めようが何をしようが、俺との関係なんてのは良くも悪くも変わりはしない。
家族であって、家族でない。兄妹であって、兄妹でない。
数年前までは、ここまで疎遠なわけではなかった気がする。妹が芸能界にデビューすることとなったのは、妹が五歳のころ、つまり今から十年前だ。
俺としてはこのころから、妹には何かしらの劣等感を抱いていた。
その妹も子役としてデビューはしていたが、人気と呼べるようなものではなかった。ゆりが世間に認知されだしたのはアイドルグループとして活動を始めてから。それが今から五年前にあたる。
そして三年前、俺とゆりの両親が亡くなったとともに、ゆりのアイドルグループは日に日に人気を増していった。
この三年前を皮切りに、俺とゆりはお互いに深くかかわらないようになったと、俺は考えている。
それは、あいつがアイドルを辞めたからといって、変わるものではなかった。
あいつも変わらないし、俺も変わらない。だからこそ、この関係も変わらない。
その日の深夜、ふと俺は目を覚ました。
トイレでも済ませようかと、よろよろと立ち上がり暗闇の中自分の部屋から出て、階段を下りる。
ぷるるるるるっ
鳴ったのは家の備え付きの電話だ。
「夜中の二時だぞ。ったく。」
俺は苛立ちを覚えながら、受話器を耳に当てた。
『ゆり!今日のことはもういいけど、明日からは仕事に出なさい。』
相手は女性だろう。
仕事とかなんの話だ。何を言われようとも俺は働かねえぞ!
「すいませんが。そちらは?」
『あっ。ご家族の方でしたか。ゆりさんのマネージャーの森宮と申します。』
「マネージャーさんがこんな時間にどうしたって言うんですか?」
ゆりは仕事を辞めたはずだ。なのに、今頃どうしてこんな連絡が来るんだ。
もしかして。
『今、彼女に勝手に辞めてもらわれると困ります。』