第三話
あれは、間違いなくラブレターだ。
家を出て、一月の寒さに身を縮こまらせながらも、俺はあの玄関で見つけた封筒のことを考えていた。
あの淡い桃色の封筒、明らかだよね。ラブレター以外の何物でもないよね。
気になる。
これは、俺がゆりの兄貴だからだとかそういうのではなく、一個人として気になる。
だって、国民的アイドルだぜ?そいつがアイドル辞めてまで告白しようとしてる相手なんて、どんな奴だか気になるだろ?
まあもしその相手に会えたなら、俺はゆりと付き合うのは辞めたほうがいいと全力で説得にかかるけどね。
兄貴の俺でさえ、なんか尻に敷かれてる感が否めないのに、付き合うとか、見えてる地雷地帯にダイブするようなもんですよ。命綱なしでバンジージャンプするようなもんですよ。それじゃ、ただの飛び降り自殺か。
俺の家から徒歩で十分ほどの距離にある、公立高校が俺が毎日通っている高校だ。
山の中腹にそびえたつ高校なので、急勾配の坂を死に物狂いで登る必要がある。俺の高校が、『坂高』と呼ばれる所以でもある。
ちなみに、俺は入学当初自転車通学だったがこの坂がどうしてもきつすぎるので、自転車通学を断念した。それ以来、俺の愛車『星屑号』は倉庫行きになってしまった。
いろいろと考え事をしているうちに、俺の属する一年三組の教室に到着した。
たった十分の通学時間なのに、この身体の疲労感はなんだ。膝がワロタンバリンシャンシャンしてやがる。
「なに、神妙そうな顔してんの?」
俺が自分の席に到着するなり話しかけてきたのは、寺田健太。俺のクラスメイトで、この学校の数少ない友達の一人だ。こういうハーレム系アニメやゲームに必ずいるあれだ。しかし、残念ながらこいつのステータスは俺の見立てによると最低ランク。好感度の高いヒロインを教えてくれるどころか、女の子の友達さえまともにいない無能なやつである。なんか、鋭利なブーメランが帰ってきました。
つまり、俺たちは友達が少ない。略して、はがない。
「別にー、どうってことはないんだけどさ。というか、今日はなんか一段と男子生徒が騒がしい気がする。」
「あのゆりりんが電撃引退ともなれば、こうなるのも仕方ないだろ。お前は高みの見物かもしれないけどよ。」
ちなみに、校内で俺の妹があのゆりりんだと把握しているのはごく少数の人間だけだ。
俺は学校ではあまり目立たない分、そんなことには気づいていない人間は五万といるわけである。