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御茶ノ水アリサは青春したい 1


 お昼過ぎの五時間目は睡魔との戦いで、うつらうつらとノートに象形文字を綴るだけの、そういう平和な時間になるはずだった。

 過去形の理由は、配られた「教科書」に記載されていた文章に戦慄を覚えたからだ。


「はい、じゃあ、今日は28日だから出席番号28に先生のラッキナンバー3をプラスして31番のヤマダ、教科書読んで」

 無理矢理すぎるこじつけに面食らいながらも、大人しく指示にしたがって、記載された文面をそのまま読む。


「タンポリアは世界有数の金の輸出国であり、GDPは日本の約四倍。世界幸福度調査では常に上位に食い込む豊かな国である。近年IT業界を牽引する企業誘致が進んでおり、更なる発展が見込まれている」

「ここアンダーライン。テスト出るから覚えておけよ。よし座っていいぞ。えー、このようにタンポリアは長い歴史とそれに甘んじない改革の精神をもつ素晴らしい国のわけだ」

 慌てて教科書の裏面をみる。文科省の認可マークが入っていた。ひしひしと最高レベルのご意向を感じる。

「さて突然だが転校生を案内する。お入りください」

 担任でもない地理の教師は教室の前のドアを指差した。突拍子もない展開に脳がついていかない。

 合図ともにドアをガラリと開く。


「諸君、私は一番が好きだ」


 敷居の向こう側で、開口一番ふざけたことを宣う少女は御茶ノ水アリサだった。


 CGのような人間離れした容姿に、しっとりと垂れる金髪。深い青い瞳は輝かせて彼女は教壇に立った。

「完膚無きまでの一番(ナンバーワン)だ」

 凛とした声が静寂の教室に響く。プレゼンのようだった。室内の空気と視線がすべて彼女中心に渦巻いていた。

「いいか、人間として生まれ落ちたのなら、なんでもいいから一番になるのだ。どんなジャンルでもいい。スポーツでも勉強でも、誰かにとってのナンバーワンでもいいのだ。上を目指す気概が人類の発展に重要だ」

 教卓に手をついて、まっすぐに俺を見つめる。

 たまらずに目線をそらす

「はい、というわけでね、彼女が誰か知っている人も多いだろう」

 先生は黒板にサラサラとチョークで文字を書いた。

 御茶ノ水アリサ。

「改めてよろしくお願いする」

 少女は一切頭を下げることなくふんぞり返ったまま挨拶をした。

 拍手が巻き起こる。どうやら展開についていけていないのは俺だけらしい。

「はい、新しい仲間の御茶ノ水さんになにか質問がある人いるか?」

 先生が声をかけると同時に手が上がった。

「御茶ノ水さんの趣味はなんですか?」

「テレビゲームだ。FPSにはまっている」

 俺と同じだった。

 また別の人物の手が上がる。

「御茶ノ水さんの好きな食べ物はなんですか?」

「ハヤシライスだ」

 俺と同じだった。

「はい! 御茶ノ水さんの好きなスポーツはなんですか?」

「セパタクロー」

 俺と同じだった。

 こいつ、仕込んだな。

「はい」

 たまらずに手をあげる。

「むっ、ヤマダ」

「なんで転校してきたんですか?」

 御茶ノ水とは坂道で別れたあと連絡がとれなくなっていた。大体一ヶ月前くらいの出来事だ。

「簡単なことだ。私は負けるのが嫌いなんだ」

「負け?」

「前回は失敗だった。間違って隣のクラスに籍を置いてしまったからな。だが、次は間違えない、私の席はヤマダの隣だ」

「……もう一つ質問良いかな」

「む、なんだ?」

「安部と伊藤、どこに行った?」

「勘の鋭いやつめ」

 やりやがったなこのやろう。出席番号一番になるために前二人を移動させやがったな。

「その二人ならいまは三組だ。よろこんで異動してくれたよ」

 ニタリと醜悪な笑みを浮かべる御茶ノ水。

「さて、先ほど自己紹介した通りだ。私は君のナンバーワンになる。そのために戻ってきたのだ」

 御茶ノ水は教壇を降りて、つかつかと机の間を通ると俺の隣の席に腰を落ち着けた。

 昨日まで安藤の席だったのに。

「よろしくな。ヤマダ」

「あ、はい」

 反射でぺこりと頭をさげると、御茶ノ水は満足そうに頷いて正面をむいた。

「では授業を続けたまえ」

「はい、喜んで!」

 居酒屋みたいな掛け声を上げて地理の教師は再び教壇に立った。

 再開された授業は至極まともだったが、再開三分で隣の御茶ノ水は居眠りをし初めていた。


「非常につまらん授業だ。あいつは減給だな」

「なんで学校運営を牛耳ってるんだよ」

 中休みは短い。べつに尿意はないけどトイレに立とうとしたら御茶ノ水は呼び止めた。

「さて、本題だヤマダ。貴様は以前私の告白を断ったな」

「ま、まあ、そうだけど、あれはまだ早いからちょっと待てって意味で……だって出会って二日間しかたってなかったしさ」

「調べたぞ」

「……はい?」

「ヤマダタカヒサという人物を私は完璧に理解した。故に私が貴様のナンバーワンになれない、いや、なれなかった理由もな」

「どういう意味だ?」

「他に好きな人がいるだろ。中学のとき二回告白してフラれたそうじゃないか」

「なんで知ってやがる!」

「調べたと言っただろう。だからな、私が君のナンバーワンになるためにはっきりさせておこうと思って」

 御茶ノ水はにこりと笑った。

「来てもらったぞ」

「は?」

 キザな客がレストランでウェイターを呼ぶように指をぱちりと鳴らすと、教室の後ろのドアが開いて、スーツの男と昔の同級生が入ってきた。

「ちょ、ちょっとなんなんですか、もう逃げませんから離してください。一人で歩けますよ!」

 男に引っ張られて唇を可愛らしく尖らせる少女。

「はあ? え、え? なんで?」

「あ、ヤマダ君……、久しぶり……」

「え、ちょっ、なんで雨宮さんがいるの?」

「や、詳しいことはわからないけど、昨日いきなりスーツの人たちが来て、飛行機に半ば無理矢理乗せられたの」

「拉致じゃねぇか!」

 隣の人物を睨み付ける。

 御茶ノ水は涼しい顔でなにも答えない。

「もうワケわかんない」

 雨宮さんは中一のときのクラスメートで、白い肌が特徴の可愛らしい女の子だ。林間学校と卒業式の時に、告白したのだが、残念なことにフラれてしまった。卒業後は別の県の高校に行ってしまったので接点が無くなってしまったので、会うこと事態久しぶりだった。

「あ、え、わかりました。言えばいいんですよね」

 隣のスーツにせかされるように、不機嫌そうな雨宮さんはぷっくりとした唇を開いて言った。

「ごめんなさい、ヤマダくん。好意は嬉しいけど、私、他に好きな人がいるの。だからあなたも他の人を好きになって」

「……」

 告白しても無いのにフラれてしまった。

「ご苦労様」

「なんなんですか、もう帰っていいの?」

「よろしい。丁重にお送りしてさしあげろ」

 御茶ノ水がひらりと手をふると、雨宮さんを連れてスーツたちは教室を出ていった。

 ナチュラルに校内に部外者入ってきてるけど誰も止めなかったのだろうか。

 それにしても雨宮さん、さらに美人になってたなぁ。

 傷心の俺の痛みを癒すのはそれだけだった。

「わかったか、ヤマダ」

「なにがだよぉ……」

 怒る気力もない。

「君の好きな人は君が好きではないのだ」

「ど、どうせまた金積んだんだろ!?」

「いいや。人の心はお金じゃ買えないからね」

「くっ」

 積んでいてほしかった!

「よって新しい愛を見つけるしかないのだよ。私と恋をするしかないのだ。それが理解したのなら、私の告白に対する答えは一つだろ?」

「……」

「どうした、ヤマダ、元気ないな」

「ほっといてくれ……」

 やばい、まじで心が折れそうだ。

 涙が出そう。

「……ヤマダ、大丈夫か、体調悪いのか? どこが悪い? 顔か? 頭か? 」

「なぜその二択になる……」

「悪いとこは言え、すぐに治すから!」

 慌てふためく御茶ノ水の純粋さに少し元気が出たが、そもそもの原因はこいつだ。

 でもいいや、いまはこれに便乗させてもらおう。

「ああ、少し体調悪いから早引けさせて貰うわ。先生にそう言っておいてくれ」

 一旦距離をとろう。

 家に帰って対策を練るのが先決だ。

「私に任せろ」

「は?」

 医学部卒のお医者さんにはとても見えない御茶ノ水はスマホをポケットから取り出して耳にあてた。

「もしもしセバフチャンか、ドクターヘリを用意しろ。それから腕のいい医者もだ。む、モグリか、そうか噂は聞いたことがある、そいつでいい。言い値で構わん」

「まてまてまたまて! 大丈夫だ! めっちゃ体調よくなってきた! キャンセル、キャンセルしろ!」

 あまりにも大事になりそうだったので慌てて彼女の電話を止める。何てやつだ、

「セバフチャン、聞こえたか。ああキャンセルだ。む、帰り? ああ、少し待て」

 御茶ノ水は一旦電話を耳から外した。

 よかった、とりあえずドクターヘリに乗らずにすんでと安堵する俺に御茶ノ水は普通の表情で訊いてきた。

「ところでヤマダ、帰りは陸と空、どっちがいい?」

「いや、意味わかんないんだけど」

「だから帰りは自家用ジェットかリムジン、どっちがいいかと聞いているのだ」

「チャリで帰ります……」

「むっ、そうか」

 御茶ノ水は再び電話を耳にあて「どっちも不要だ」と端的に告げて電話を切った。

「やれやれ過保護な連中だな」

 お前には言われたくねぇよ。

「それにしても放課後デート楽しみだ。ちゃんとプランを考えておくんだぞ」

「……」

 なに勝手に予定いれてんの、こいつ。



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