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御茶ノ水アリサは金持ちすぎる 3

 目が覚めたら白い天井が飛び込んできた。

 目眩がする。瞼が重い。

「ここは……」

 サラサラとしたベッドの手触り、薬品の匂い。

「痛ぅ……」

 頭に巻かれた包帯。

 どうやらここは病院らしい。

「御茶ノ水……」

 少女の姿はなかった。

 上半身を起こし、辺りを一周ぐるりと見渡してみるが、淡白なクリーム色が広がるばかりで、稲穂のように流れる金色は幻のように消えてしまった。

 なんだかとても空しい。


 そのあと親が呼び出され、医者と面談し、自宅に戻らされた。

 意識を失う前に鼓膜を震わせた声。やはり夢ではなかったのだろう。現に俺は医療費を一切支払うことなく受付窓口を通過した。


 次の日も病院に寄ってから学校に行く。

 三限目から参加した俺を、クラスメートは労ってくれた。

 浅ましい本性をされけだした委員長や、我先にと金貨を取りに行った坂倉ですら、心配そうに声をかけてきた。やっぱり普通が一番なのだ。

「御茶ノ水さんいなくなっちゃったなぁ。噂じゃ本国に帰ったらしいぜ」

 坂倉が昨日手にいれたフラン金貨を大事そうに磨きながら呟いた。

「可愛いし、お金くれるし、あーあ、ああいうカノジョいたら最高なのにな」

「かもな」

 俺の返事を受けて坂倉はきょとんとした。

「……風紀委員が女の子のことで肯定的に頷くなんて珍しいじゃん」

「そう? まあなんだかんだでイイ奴だったよ。御茶ノ水アリサは」

 みんなお金に目が繰らんで、誰も彼女の内面を知らないのだ。

 俺だけが知っている。

 なんだかそれが少し嬉しい。


 一日の終わりは平凡に過ぎていく。

 病院に寄るため早足で帰宅する俺の目に、町内会の掲示板のお知らせが飛び込んできた。昨日の夜に駅の裏通りの再開発が決まったらしい、御茶ノ水の手によるものだろうか、恐るべきスピードだ。


「12日は市議会選挙です! 皆さま選挙に行きましょう!」

 駅の入り口前を通過しようとした俺に、ポケットティッシュが差し出され、勢いに負けて受け取ってしまう。

「ありがとうございます! 清き一票をよろしくお願いします!」

「あ」

 スーツを着たティッシュ配りの男性は俺に一礼すると、また別の人に声をかけに行った。

 すっかり様変わりしていたが昨日御茶ノ水のヌイグルミを奪った不良だった。謎の特殊部隊に拉致られた彼らのその後は想像するだに恐ろしい。

「はっはっは、働くって素晴らしいなぁ!!!」

 俺を殴ったタンクトップが道路の地直しをしながら、白い歯を見せて笑っていた。なにがあったんだ、あんたら。



 病院を出て、夕日に目を細める頃には昨日の出来事がすべて夢のように感じられた。

 御茶ノ水アリサ。

 へんな奴だった。

 いや、不思議な奴だったと言い換えよう。

 一緒にいて退屈することはなかったし、単純に彼女といると楽しかった。

 もう会えない、ような気がする。

 風が吹いた。

 感傷に浸るように赤く染まる坂道をゆっくり上っていると、頂上に誰かいるのに気がついた。

 カエルのぬいぐるみだった。

 カエルのぬいぐるみで顔を隠した御茶ノ水だった。

 昨日ぶりの再会だった。俺の感傷を返せ。

「僕と付き合ってくれないかな」

 甲高い裏声。腹話術のようにぬいぐるみをしゃべらせる御茶ノ水は心底バカっぽかった。夕日に染まるカエルの間抜け面と目が合う。

「真っ正面から向き合えよ」

 別れ際の言葉を思いだし、にやけながら言ってやった。

「……」

 御茶ノ水はゆっくりとぬいぐるみを胸に抱くと、上目遣いで俺を見た。

「私と付き合ってくれないかな」

 彼女の頬は夕日に照らされて赤くなっていた。


読了ありがとうございました。


どうでもいいですけど、思い付いてからすぐに書いたんで勢いだけは無駄に良いとおもいます。これ。

ただあんまり見返したり推敲したりしてないんで誤字とか脱字はいつも以上に多いと思います。多分。


ご意見ご感想いただければ喜びます。ありがとうございました。

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