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巨人について(not yomiuri giants)

作者: 伊吹まるお

 地震かと思ったら巨人でした。東京湾からいきなり、上体だけで五十メートルはあろうかという巨人がぬっそりと出てきたのでした。突然の事態に人々はパニックを起こしました。誰かが「殺せ」と言い、どこからかヘリコプターがバラバラとやってきました。巨人は腰から下を海に浸からせたまま、ただだるそうにそれらを見ていました。別の誰かが「何もしてないのに殺すのはかわいそうだ」と言うと、その声はどんどん大きくなり、視察にきていたヘリコプターはまたどこかへと飛び去っていきました。

 それから毎日、人類はさまざまな方法を使い、巨人と意思の疎通を図ろうとしましたが、どれもうまくいきませんでした。巨人はただ悲しい目で人達を見つめるだけでした。巨人は時折沖の方へ出ると、何分間か潜っては息を継ぎ、また潜る……という行動をしました。どうやら食事をしているようでした。その度に小さな津波が起き、川は逆流し、船は揺れ、人々は大いに困りました。今はおとなしいだけで、一体何をするかわからないと、巨人を恐れ家から出てこない人たちも増えてきました。また、「殺せ」の声が強くなってきました。

 巨人が姿を現してから一か月が経ちました。幾度も幾度も意味のない会議が繰り返された結果、巨人はやっぱり排除されることになりました。巨人はいつものように食事をし、息継ぎをしに顔を出したところを、爆弾やらミサイルやら魚雷やら何やらで攻撃されました。巨人は一切抵抗せずそれらのすべてを受け入れました。そして最後に、とても悲しい声をあげながら太平洋へ沈んでいきました。その声は世界中の国へ聞こえたとされます。

 人類はこの一連の出来事を「悲劇」ということにしました。巨人のために慰霊碑が作られ、巨人の命日にはみんなでお祈りをすることになりました。時が経つほどに話は曲げられ塗りたくられ美化されました。巨人はいつの間にか「世界人類を団結させるために現れた神よりの使い」という扱いをされるようになりました。誰かが作った優しい巨人の絵本は翻訳され世界中で愛され、巨人は感謝の対象として語り継がれるのでした。


 もしこんな話があったらすごく嫌ですね。

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