ゲーセンという名の……
投稿がかなり遅れてしまいました。
申し訳ございません。
近くのファストフード店で昼食を済ませた後、僕たちはゲーセンに行くかカラオケに行くかを議論し、ゲーセンに行くことに決まった。
ちなみに僕はカラオケ派だ。だってカラオケはジュース飲めるしずっと座っていられるから。
そしてゲーセン派は僕以外の全員だった……。もうこの時点で議論なんてするまでもなく答えは決まっていた。行きたかったな、カラオケ……。
ところで、友達と一緒にゲーセンで遊ぶときはだいたい集団で行動するだろう。UFOキャッチャーで景品をとった喜びをみんなで共用し、ガンシューティングゲームを協力しながらクリアする。それが世間一般で言う、友達とゲーセンで遊ぶことだと思う。
しかしながら、僕以外の三人はゲーセンの自動ドアをくぐった瞬間に、単独行動を開始した。誰も一言も話さずに、足早にかけていった。
頼むから全員協調性を持ってほしい。まぁ、変態に常識を求めるのは無理だから妥協するしかないのだろうか。
そんな諦めをしながら、何で遊ぼうかとポケットの小銭を手でもてあそぶ。
狂ったように光を放つ照明、耳が痛くなるほど大音量の音楽、そして二酸化炭素濃度が上昇するくらいの人の多さ。
これだからゲーセンは嫌だ。
おまけにやることがまったくもって見つからない。普段からこういうところに来ないせいか、遊ぼうという興味がわかない。
そんな感じで何かないかとぶらぶらしていたら、意外な人に出会った。
水無月先輩だ。
いや、水無月先輩に出会うこと自体は別に以外ではない。意外だったのは水無月先輩がいる場所なのだ。
「こんなところでなにをしてるんですか?水無月先輩」
「おや、佐藤君ではないですか。なにをしているって、麻雀ですよ」
そう、水無月先輩は麻雀をしていた。
麻雀は高校生がするような娯楽ではないだろう。確かにする人もいるけどそこまで多くないと思う。特に水無月先輩は学校でも授業態度はまじめで(露出狂だけど)、成績も優秀(露出狂だけど)。麻雀とは縁がなさそうな人格だ(露出狂以下略)。
僕はその疑問を口に出さずにいることができなかった。
「どこで麻雀なんて覚えたんですか?」
「それはもちろん脱衣麻雀で覚えました」
「……はい?」
「脱衣麻雀ですよ。インターネットの無料ゲームとかであるじゃないですか。自分が勝つごとに女の子が脱いでいくというゲームです」
「いや、脱衣麻雀のことは知っていますけど……」
何言ってんのこの人?
だめだ。疑問を解決しようと質問したら、さらなる疑問を生んでしまった。ここはもうスルーだ。僕はもう決してつっこまないぞ。
「いいですよね、脱衣麻雀って。麻雀というゲームで勝つだけ相手を脱がすことができるなんて、夢がありますよね。ふふふ、露出狂の間では勝った方が脱ぐなんてルールもありますけど、僕はそっちも好きです。しかし露出狂である私が女の子の服を脱がすということもなかなか――――」
「すいません。もうそこらへんにしていいですか」
なんでだろう。つっこまないと決めたはずなのに、つっこんでしまった。
「つれないですね。もう少ししゃべらせてくれてもいいじゃないですか」
「お願いですからそれぐらいにしてください!こんな人が多い所で‘露出狂’とか‘脱衣麻雀’とか大声で言わないでください!」
「つまり小声ならいいということですね」
「だからそういう問題じゃない!さっきから店員さんがものすごい変な目で見られてるんですよ、水無月先輩だけならともかく僕までも!」
「ふっ。露出狂にとって見られることはいいことですよ。特に昼間のスクランブル交差点で全裸になっての歩行はたまらなく気持ちいいです。そうですよね、佐藤君」
「それはあなただけですから!僕に同意を求めないでください!」
やばい。さっきので水無月先輩が全裸になって歩いているところは想像してしまった。割と本気ではきそうだ。
そして店員さんが携帯電話を取り出してどこかに電話しようとしている。まちがいなく警察に通報する気だろうな。
こうして、僕は店員の誤解を解くために必死で言葉を探しながら弁解した。正直な話、もう水無月先輩を見捨てて自分だけ逃げようかとも考えた。ってかそれが一番の解決策であることに間違いないだろう。
水無月先輩のもとから逃げた後、またもやることがなくぶらぶらするはめになった。
「あと少し……あと少し……」
この声は方向的にUFOキャッチャーからだろうか。確かにあれはとれそうでとれないからな。
「……あぁ。それにしても吊るされてるってとても気持ちよさそうですね」
うん。これはもうUFOキャッチャーに間違いないな。そしてこのセリフはあのドMの人に違いない。
今回は話しかけようとは思わなかった。
引き止められて変態トークを聞かされるのはもううんざりだし、他の人にあらぬ誤解を受けるのも困る。
なのでできるだけ気づかれないように、彼女の後ろをさながら忍者のように気配を消して過ぎ去った。
「佐藤君じゃないですか」
「いいえ、僕は佐藤なんて名前じゃありません」
おぉ。ついに反射的に嘘をついてしまった。
人間という生き物は嘘をつくときに、意識してないかもしれないが頭を働かせているらしい。
どういう風な嘘をつくとか、話のつじつまを合わせるためにはどうするべきかとか、まぁそんな感じだ。
つまり、反射的に嘘をつくということはまずありえないのだ。
それができてしまった僕は、よほど変態とは付き合いたくないということだろう。
「いや、なにいってるんですか?もう思いっきり佐藤君でしょう」
「違いますよ」
背中を向けていたからよくわからなかったが、奈央は『うーん』と思案している。
やがて結論に至ったのか『なるほど!』っと声をあげた。これは絶対にわかってないな。
最上級の変態は思考の行き着く結果すべてが変態的である。
これは僕の人生で学んだ格言だ。
「これは焦らしプレイですね!佐藤君!」
「だから何であなたも変な方向に考えてるんですか!」
やばっ。思わず後ろを振り向いてつっこんでしまった。
奈央は満面の笑みで、ものすごく嬉しそうだった……。考えるまでもないだろうがドM的な意味で。
背筋をさあっとすぎるような悪寒が走る。
「やっぱり佐藤君じゃないですかー。もう、なんで嘘なんてつくんですか?」
「ぐっ、これはもろもろと事情が――――」
「あとなんで焦らしプレイをやめてしまったんですか?やるならもっとやってくださいよ」
「あー、それはもうどうでもいいです」
奈央はもう逃がさんとばかりに僕の服を両手でつかむ。
「えーと、僕はこれから遊びたいゲームがあるので手を放してくれませんか?」
とりあえずこうでも言っておかないと離れないだろう。
「まぁまぁそんなこといわないで、一緒に遊びましょうよ」
「いや、だから」
「ほらっ、見てください。あのUFOキャッチャーを。あのつるされ方はなかなか興奮しますよね」
「いいえ、全然まったく」
「そうでしたね……佐藤君は吊るされるのが好きではなく吊るすのが好きでしたもんね」
「あなたの脳内で僕はどういう人間になってるんですか!」
「なんなら今すぐにこの場所で私を吊るしてもかまいませんよ。むしろそれが私の願望です!」
「もう変態すぎて返す言葉が見つかりません!」
何なんだこの人は。こういう人通りが多い場所で平然とこんな言葉を言えるなんて。
あー、もう。疲れる。
またさっきの店員さんが真っ青な顔で震えながら僕たちを見ているし。もう勘弁してくれよ。
「なんか変態トークが聞こえるからもしやとは思ったが、やっぱりお前たちだったか」
その言葉で振り向いてみると、そこにはがっちりとした体格の男がいる。
前中駿河先輩だ。
剣道部主将であり、剣道部序列二位の前中先輩は僕たちをおかしなものでも見るように爆笑していた。そうです。この人おかしいんです。
「誰だと思ったら前中先輩じゃないですか?こんなとこにいるなんて部活はどうしたんですか」
ちょ、それ死語だよ。
「ぐ、だから謹慎中って言っただろ。察してくれよ」
「おー、忘れていました。ところで前中さんも遊びに来たんですか?」
「そりゃあ、ゲーセンに来る理由は遊ぶことだけだろ。間違ってもお前らのように変態的なことを公衆の面前で話すことにはならないな」
なんか、本当にすいません。それしか返す言葉がみつからない。
「……本当にすいません」
「俺に誤っても意味ねーだろ。謝るぐらいならゲーセンから出た方がいいぞ。割とガチで」
やばい。なんか涙がでてきそうだ。
「じゃあ私は吊るされるぬいぐるみを見に行きますので」
「わかりました」
そういって、ダッシュでその場を離れていった。
ついにUFOキャッチャーという単語すらでてこなくなった。そこは普通にUFOキャッチャーをしにいくといってくれ。
「君も大変だな。ああいう協調性のない変態の相手をするなんて」
「前中先輩。あなたはわかってくれるんですか……?」
「当たり前だ。俺はBLだけど一応常識というものをもちあわせている」
親指を上に向けて、にこって笑う。
最近、常人と会話したことが少なかった。唯一の常人が同じクラスの如月さんくらいしかいなかったから。
だからだろうか。今、ものすごく感動している。
「ほら、あれを見てみるんだ。一般人はああいう風にUFOキャッチャーで遊ぶんだぞ」
「はいっ」
そうだった。UFOキャッチャーというのはぬいぐるみを手に入れるためにUFOを操作するゲームなんだ。当たり前のことだけど、それが無性に懐かしかった。
麻雀を始めたのは脱衣麻雀から、UFOキャッチャーは吊るされたぬいぐるみを見て興奮するもの。
そういった変態の理論だけを聞いていたからか、僕も汚染されていたのかもしれない。
しかし、ここに前中先輩という常人が、僕の理解者がいてくれた。これだけで僕は救われたんだ。
知らずと流れてくる涙を袖で拭い、その光景を目に焼き付ける。
「……そういえばUFOキャッチャーってなんか違和感があるな」
前中先輩が唐突に言い出す。
「違和感ってなんですか?」
「いや、なんとなくなんだが。えーとな。うーん。そうだ!UFOキャッチャーのUFOはローマ字的にに『うふぉ』になる!」
「えっ」
いきなり何を言い出すのだろうかなー、前中先輩は。まさかね。まさかとは思うけどね。常人の前中先輩に限ってね。
「『うふぉ』は発音的に『うほっ』とも聞こえるぞ。と、なると『うほっ』の次に入る言葉はもう一つしかないよな!美咲よ!」
「えーと、わかりませんねー」
まさかね。僕が信じた前中先輩は公衆の面前でこんなことを言わないよね。ってか自分で公衆の面前で変態トークをすることがおかしいって言っていたじゃないか。あはは。
「『うほっ』の次は決まっているじゃないか。『うほっ、いい男』だろ」
「……」
「おや、どうした美咲。なんかものすごく悲しそうな顔をしているが」
「なんでも……ないです」
所詮、前中先輩も数学研究会のみんなと同じだった。
あんなに普通の人だと信じていたのに、唯一仲良くなれそうな変態だと思っていたのに。
裏切られた、というほど深刻に傷ついていない。かといって軽い嘘をつかれたといほど軽いことではない。
強いて言うのならば失望した、というところが妥当だ。
失望したの意味のとおり、希望を失ってしまった。
やはり、変態という人種はみんなこういう感じなのだろうか?
変態であること事態はマイナスではない。問題なのはそれが社会に理解されないことだ。
だから変態とはおとなしくしていれば、共感を求めなければ普通の人間となんらかわらないはずだ。おとなしくさえしていれば。
脱衣麻雀と露出狂の関係について語る水無月先輩。
吊るされているぬいぐるみを顔を赤くしながら眺める奈央。
『うほっ、いい男キャッチャーか。ふふふ、これはいけるな』と恐ろしい呪文を唱える前中先輩。
何故、変態は興奮を抑えることができないのだろうか。
そういえば、僕がよく知っているもう一人の変態と出会うことはなかった。
気が付いたら彼女を探している僕がいた。
しかし、彼女はどこかへ消えてしまったかのように、見つかることはなかった。
ここはそこまで広くないのに。
果たして、この小説が投稿されることを心から楽しみに待っていた人はいるのだろうか。いや、多分いないだろう。っと思う日々を過ごしています。