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数学研究会の変態日和  作者: 不完全な世界
第二章 選択の犠牲
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メテオストライク

今回の題名のメテオストライクは超てきとうに決めました。

「無抵抗で剣道部に入ってくれないか」


その言葉を最後に、僕は意識を失った。




痛い、頭がとても痛い。

頭蓋骨は砕けていないだろうが、この痛みは少なくとも皮膚は切れている。

金属バットで頭を殴られたような、壁に頭をたたきつけられたような痛みがする。共通することは鈍器で殴られるということだ。

痛みによって意識がもうろうとする。もしかしたら本当に鈍器で殴られていて頭が揺れているのかもしれない。もうろうとしても痛みが鈍くなることはなく現在進行形で痛みが頭を強く蝕んでいる。

こんな痛みは生まれて初めてだろう。……いや。どこかでこれ以上の痛みを味わったような気がするけど、うまく思い出せない。頭の中に霧がかかっているかのように見えそうで見えなく、つかめそうで空ばかりをつかんでしまう。知りたいものが目の前にあるのにどうしても知ることができない。いらついてしまう。

だけど何でだろう。とても痛いはずなのに、この痛みが温かく感じてしまう。やけに優しくて懐かしい感じがする。懐かしい感じがするのはわかる。しかし温かくて優しい感じがするのは何故だ?だめだ。どうしても思い出せない。




「美咲君!美咲君!」


誰かが何かを叫んでいる。

その何かが自分の名前だとわかったとき、一瞬で頭の中が覚醒した。

目を開けてみるとまわりは白いカーテンで覆われて、鼻をツンとつく薬品のにおいがする部屋のベッドに僕は横になっていた。おそらくここは保健室なのだろう。


「目が覚めたんだな!心配したぞ!」

「だいじょうぶですか?!佐藤君!」

「美咲君!よかった!目が覚めたんだね!」

「ぐはっ!」


如月さん、奈央、結衣ちゃんの順で声が聞こえて、そしていきなり結衣ちゃんが抱きついてきた。その、まだ状況がわかっていないんですけど。

そして勢いがあまりすぎて肋骨ろっこつが、肋骨ろっこつにひびが入りそうなんですけど。あ、今ひびった。


「神崎さん、さっきまで気を失っていたんですからまだ状況がわかっていないのではないですか?」


僕の肋骨ろっこつさりげなく守ってくれるなんて、さすが水無月先輩!

しぶしぶといった感じで体から手をはなす結衣ちゃん。そんなに僕の肋骨を折りたかったのだろうか?

もしここで抱きついてきた女子が普通の女子ならば、心配して抱きついたに違いないだろう。

しかし結衣ちゃんは普通の女子ではないと断言する。だから心配して抱きついたのか、それとも肋骨を折ろうとして抱きついたのか、本気で考えることになる。個人的な意見としては前者の方だったら嬉しい。僕の体の保身的な意味で。


「水無月先輩。僕は何で保健室で眠っていたのですか?」

「君は駿河君と会話をしていたときに頭を強打したらしいです。そして彼が気絶した君を保健室まで運んでくれたというわけですよ」

「ちょっと待ってください。僕は何で頭を強打したんですか?」

「駿河君がいうには空から大きな何かがすさまじい速度で君の頭にぶつかったらしいですよ」

「その大きな何かってなんだったんですか?」

「……あまりにも速かったので駿河君の目ではとらえられなかったようです。もしかしたら隕石だったかもしれませんね。だとしたらある意味すごい確率ですよ。あと駿河君は用事があって先に帰ってしまいました。お大事にと言っていましたよ」


さすがに隕石はないでしょうと言おうとしたが、言うのをやめた。

さっきの水無月先輩の発言は少しおかしかった……ような気がした。

会話と会話の間に少し間があった。これだけだと僕の気のせいなのかもしれない。けど部員思いの水無月先輩はこういうときに笑えない冗談を言うような人なのだろうか?

どうにも腑に落ちないというか、納得しないというか、どうしても気になってしまう。


「駿河君が君が倒れたと伝えたときには何かの冗談かと思っていましたけど……心配しましたよ。特に神崎さんはこの世の終わりのような顔をしていましたから」

「結衣ちゃんはそんなに心配してくれたんですか!?」


結衣ちゃんの目をよくみてみると確かに目が赤く、はれていた。

頭を強打して気絶するだけでそんなに心配してくれるなんて。普段からその一万分の一でもいいから僕に優しさ注いでほしい。いつもなら(SMプレイの時)軽く気絶しても全然気にしてくれないのに。……泣きそうだ。


「ありがとう、結衣ちゃん。心配してくれたんだね」


さっきの抱きつきは僕の肋骨を折るためじゃなかったんだね。


「心配……したんだから」


結衣ちゃんは心配する理由がなくなったというのにまだ泣きそうだった。

なんだか結衣ちゃんを心配させてしまって罪悪感ではないけど、少しばつが悪いような感じがする。

結衣ちゃんだけじゃない。ここにいる如月さんや奈央、水無月先輩にも僕は心配されたんだ。そしてここにはいないけど前中先輩にも。


「如月さん、奈央、水無月先輩、そして結衣ちゃん。心配させてしまってすいませんでした」


ベッドで横になっているため腰を曲げることはできないが、頭をきちんと下げた。


「謝る必要なんて無いぞ」


如月さんが凛とした声で答える。


「そうですよ。病人はおとなしくご奉仕される存在なんですから」


メイド服を着ていない奈央が頭を下げる。

病人は奉仕される存在ではなく看護される存在ですよ。そして看護するのはメイドではなくナースです。


「今日の部活はここまでにします。みなさんは適当な時間で帰っていいですよ」

「じゃあ早速帰ります」


長い時間横になっていたのでベッドから起き上がるとともに体の節々から音が鳴る。

あれ?水無月先輩も如月さんも奈央も唖然とした顔をしているが、なにかおかしなことを言ったか?


「もう立っても構わないのですか?頭はまだ痛いはずじゃ……」

「こういう痛みには慣れているんで」


結衣ちゃんのSMプレイによって常人よりは痛みに対して頑丈だ。僕のひそかな自慢の一つである。自慢したことないけど。

実際これぐらいのけがだったら何回もうけている。頭の皮膚が切れて出血するぐらいのけがだったら生活に支障はないだろう。ひどいときは記憶喪失だからな。あの時は本当ひどかった。

学生かばんを探すと親切にもベッドの横に置いてあった。

かばんを持ち上げ、結衣ちゃん以外の唖然とする人たちの側を通り、保健室をあとにした。




帰り道、沈みかけた夕日が空を赤く染める。それに伴い家や道路などの人口の建設物も塗りつぶしてしまう。

夕日はきれいだと思うが普段赤く染まらない空や家の屋根も素直に美しいと思う。人によって感性は違うが僕は見ていて心が気持ちよくなる。

この時間帯にこの道を歩いて帰るのがひそかな僕の楽しみだ。この風景を見て心が清らかになるのは間違いない。


「本当に痛くないの?」

「うん、大丈夫だよ」

「本当?気分とか悪くない?痛くなくても頭がふらふらしない?」

「……大丈夫だよ。気にしないで」


不気味だ。

何で今日に限って結衣ちゃんは僕の心配をするんだ?

いつもドSで加害者である結衣ちゃんはSMプレイの後、僕を心配することなんてなかった。

やりたいようにたたいたり、ひねったり、縛ったりして気がすんだらそのままにする。女王様モードの時も、いつものようにお姉さんのような性格のときも僕に対する罪悪感なんて存在しなかったはずだ。

じゃあなんで僕の心配なんてするんだ?もしかしたら結衣ちゃんは普段から手加減して傷つけていて今日は自分が傷つけていないから心配だとか?可能性としてはかなり低いだろう。

こんな態度をとられたら調子が狂う。


「ねえ、結衣ちゃん」

「ねえ、美咲君」


まさか声が重なるとは思わなかった。びっくりした。


「そっちから話していいよ」

「美咲君の方から先に話していいよ」

「いや、僕の話す内容はたいしたことじゃないから結衣ちゃんから先に話して」

「じゃあ私から話すね。美咲君はいつから数学研究会の先輩たちや前中先輩、如月さんと仲良くなったの?」

「先輩たちは前に話した通りだよ。前中先輩についても同じで、如月さんは一緒のクラスでだから仲良くなった」

「でも美咲君ってそんなに人と仲良くなれる性格だっけ?あ、別に非難しているわけじゃないよ」


確かに僕はそんな性格ではなかった。それは今でも変わらないだろう。

水無月先輩や奈央、前中先輩と仲良くなったのは数学研究会のおかげだ。あと彼らは個性的だからいつの間にか親しくはないけど、仲良くもないけど、知り合いになった。

基本的に変態とは積極的なのだ。人とのつきあいかたしかり、変態的な行為しかり。

もう変態の生態に関する本を出版できそうだよ、僕。もし書いたとするなら1ページ目で絶対『変態に出会ったらまず関わろうとするな。というか逃げろ』と書く。絶対に。

如月さんは僕が勇気を振り絞って話しかけたことから友達になったから唯一まともな理由だろう。


「もしかしてだけど……何か隠していない?美咲君」


勘が良すぎだ。

結衣ちゃんは申し訳なさそうな顔をしている。おそらく僕を疑っていることを悪く感じているのだろう。


「いや、何も隠してなんかないよ」


できるだけ自然な笑顔で返答したつもりだ。けど自分がどんな顔をしているかなんてわからない。結衣ちゃんの目にはどう映っているか?いつもの笑顔の僕が映っているのか、それとも結衣ちゃんと同じように罪悪感に押しつぶされている顔が映っているのか。

これだから、嘘をつくのは嫌いだ。

赤の他人をだますことも躊躇するというのに自分が一番親しい人をだますなんて苦痛以外の何物でもないだろう。

心が傷ついていく。もともと僕の心はもろくて弱い。だからこそ傷つきやすく、壊れやすい。壊れた心の部分が空白となって異常にそこがむなしい。心が壊れたはずなのにさまざまな感情が自己主張し始めてそれらが目から涙という形になって窮屈そうに漏れ出そうとする。


「そう、ならいいよ。ごめんね。こんな質問して」

「……気にしてないよ」


僕はまた、大嫌いな嘘をついた。

その日の夕焼けはどこか悲しそうな色だったことを、僕は忘れない。





近々、資格試験を受けるので、勉強のため更新が遅れると思います。

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