最恐の修羅場
今回は少し文字数が多いです。
「疲れた・・・・・・」
あまりの疲れに上半身を支えることができずに机に頭をのせることになる。例えるなら体が脱力感に包まれているような感じだ。
まさか高校生活がこんなに疲れるものとは思わなかった。
昨日の疲れ(主に部活関連)が今日もまだ残っていてもう死にそうだ。
「まだ四時間目が終わったばかりだというのにだらしないな」
誰だろうと顔を上げてみたら、そこにはクラスメイトの如月さんが堂々と立っていた。
「そうだった。まだ昼になったばかりなんだ」
先ほど終わった授業の教科書を机の中に入れて、鞄から弁当を取り出す。この動作だけでもかなり疲れる。
結衣ちゃんは今日も水無月先輩の情報収集に忙しい。なので今日も一緒に食べることにできない。
一人でさびしく食べようかなと思っていたが、如月さんの持っているものを見てその考えを改めることになる。
「もしかして一緒に弁当を食べようとしているの?」
如月さんは友達が僕ぐらいしかいない。そして弁当を持って僕の席に足を運んだ。このことから考えられることは一つしかなかった。
「べ、べつに佐藤と一緒に弁当を食べたいわけではないぞっ。佐藤が一人でさびしそうだったから心優しい私が昼食を共にしてやろうと思っただけだからなっ!」
如月さんは少し頬を染めながら弁解している。
そんなに否定しなくても弁当ぐらい一緒に食べるというのに、と言おうとしたが、疲れているのでもうなんかどうでもよくなった。
「ありがとう。如月さんはとても優しいね」
「その通りだ。私の海よりも深い慈愛の精神に感謝するがいい」
僕から見て前の席に腰掛けてきたので、僕も弁当を開けることにした。
「それにしてもとても疲れているように見えるが、どうかしたのか?」
「高校生になって初めて部活をすることになってね。人づきあいとかが結構疲れるんだよ」
「部活・・・・・・。そうなんだ」
「部活の先輩たちがなかなか個性的な人物で話を合わせるのに疲れるんだよ」
あぁ、今日も露出狂とドMの先輩たちと一緒の空間にいなければならないと思うとブルーな気持ちになってくる。
「・・・・・・佐藤がいるのなら私も入ってみようかなその部活」
「え?なんか言った?」
「別に何も言ってないよ!」
いや、絶対何か言ってるだろ。焦り方が尋常じゃないぞ。
そんなこんなで最後の晩餐を終えるのであった。
「ふーん、そうなんだ。美咲君に女の子の友達ができたんだー」
「うん。如月椿さんっていうんだよ。・・・・・・それはともかく何で怒っているの?」
「え?何で私が怒る必要があるの?」
今僕と結衣ちゃんと如月さんの三人で数学研究会の部室まで歩いている。
何でこうなったのかというと、如月さんが僕の体調の悪さを心配して保健室に連れて行こうとしたので断ったら、せめて部室まで連れていくと言ってきたのだ。
そしたら何故か結衣ちゃんが怒っていてなんか修羅場みたいになっていた。
「佐藤が先に紹介したけど改めて自己紹介してもらう。私は如月椿という者だ」
ついでに、如月さんも少しばかりか怒っているように見える。
まあ、如月さんの怒りなんて眼中にないけど。問題なのは結衣ちゃんの方だ。
結衣ちゃんが本気で怒ったら・・・・・・考えたくもない。
「如月さんというんだ。私は神崎結衣というの。ちなみに、私は美咲君の幼馴染で小さい頃からずっと一緒に遊んだりしたよ」
何故か幼馴染というワードを強調してきた結衣ちゃん。
「幼馴染だからといって過ごした時間がそのまま仲の良さにつながるとは限らない。たった一日の関係が幾年のつながりにも勝るときがある」
「私はいつも隣にいる人が一番大事だと思うよ」
「逆に言えば何年も一緒にいるのに大事な人止まりということはこれからも何も起こらないということだな」
「それでも私と美咲君が代わりが特別な関係ということに変わりはないよ。そこにつけいるすきがないほどにね」
「えーと、二人とも。とりあえず部室に入ろうか」
二人が部室の前まで歩いても入ろうとしないので、仲裁も兼ねて発言することにした。
「じゃあ続きは部室に入ってからということで異論はないな」
「もちろんだとも。ここで引き下がったら幼馴染の名が廃れるわ」
仲裁の意味はありませんでした。
まぁ、でもあの個性的な先輩達にあったら修羅場どころではなくなるから多分それどころじゃなくなると思う。
頼む!お願いだからなんとかしてくれよ。先輩達!
期待を込めて部室のドアを開けてみた。
いつも通りブーメランパンツ以外の服を着ていない水無月先輩。多分この先輩に二人とも注目するだろうな。
本物のメイドのように側に立っているメイド姿の佐々木先輩。この人もいつも通りだ。
このメンバーならきっとこの二人の仲裁になるだろう。誰にも見えないように小さくガッツポーズをした。
「今日は一人多いようですが、もしかして二人の友達ですか?でしたら是非座ってください。ちょうど紅茶を淹れたばかりなんですよ」
「じゃあ今日もお言葉に甘えてもらいます」
水無月先輩の言葉に答えた後にテーブルに座る。結衣ちゃんと如月さんも僕の後にテーブルに座り始める。このテーブルは結構大きいので僕たち三人は隣合わせで座ることができた。
水無月先輩がカップに紅茶を注ぎ始めるのを確認して、結衣ちゃんと如月さんの方を見てみると案の定、固まっていた。
結衣ちゃんは昨日見たから予想はしていたかもしれないけど、やはり驚いている。
如月さんは今日見るのが初めてだから当然驚いている。
しばらくすると水無月先輩が紅茶の入ったカップを持ってきたのでお礼を言いながら口をつける。
「やっぱり水無月先輩の淹れた紅茶はおいしいですね」
「ふふふ、そんなことありませんよ。ただの趣味みたいなものですから」
「いや、僕は紅茶に関しては素人ですけど水無月先輩の紅茶は本当においしいです」
水無月先輩の紅茶を賞賛していると隣の佐々木先輩が頬をふくらませて怒っていた。やっぱりこの人は癒し系の顔だな。
「会長の紅茶はおいしくて私の紅茶はおいしくないんですか~」
そういえば昨日佐々木先輩の紅茶を飲んだことを思い出した。
「いや、別にそんなことはないですよ。佐々木先輩の紅茶もおいしかったですよ」
「そうなんですか!だったら私の紅茶も飲んでください!」
そういって喜びながら紅茶を淹れ始める佐々木先輩。何で紅茶を二杯も飲まなければならないのだろうか?
「ちょっと佐藤」
僕だけにしか聞こえないような小さな声で呼びかけてきた如月さん。
「え?なに」
答えた瞬間、足が踏みつけられていた。
「っ!」
あまりの痛さに声を上げてしまいそうだったが、如月さんが人差し指を口に当てて『静かに』のジェスチャーをしたので声をださないように口を閉じた。
・・・・・・何故如月さんがこんなことを!
理由を考えたときに今度はふとももを思いっきり指でつねられた。
「っ!!!!!」
一瞬、また如月さんがつねったのかと思ったが方向的に違う。これは結衣ちゃんからの攻撃だ。
反射的に結衣ちゃんの方を見てしまったが、すぐにその判断を誤ることになる。
僕の瞳に映っている結衣ちゃんは・・・・・・怒っていた。
あ、死んだ。
「いつから美咲君と先輩方はそんなに仲良くなったの?」
「えーと、結衣ちゃん。何で怒っているのでしょうか?」
「別に私は怒ってなんかないよ」
「いや、絶対に起こっているよね」
顔はとってもにこにこしているけど体からものすごく負のオーラを発している。・・・・・・超怖い。ってかもうふとももをつねるのをやめてほしい。
「しかもそちらのメイドさんともかなり仲が良いようだな」
結衣ちゃんに意識を向けていたら反対方向から怒りの声が聞こえた。
「・・・・・・如月さんもやっぱり怒っているよね」
「何を言っている。私は一切怒ってなんかないぞ」
「だったら僕を踏んでいる足をどけ・・・・・・いや何もありません」
どけてほしいと言おうとしたら足をさらに強く踏んできた。
「確か水無月先輩と会ったのは昨日が最初だよね。それにメイドの人と会ったのは今日が最初だよね。なのに何でそんなに仲がいいのかな?」
結衣ちゃんがふとももをつねる力を強くしながら質問する。
昨日結衣ちゃんには内緒で部活を行ったことは話したらいけないだろうな。
「昨日部室に忘れ物をして取りに帰ったときに佐々木先輩、メイドの先輩に会ったんだよ。水無月先輩と佐々木先輩と仲がいいのはその時に雑談しただけだよ」
できるだけ、やばいという気持ちを抑えながら必死に弁論してみた。これでだめだったらもう後がない。
「雑談のわりには仲が良すぎるのではないか?特にその佐々木先輩とやらは」
如月さんも足を踏む力をさらに強めながら尋問していく。
ただ先輩方と仲がいいというだけなのに何でこんなに怒っているのだろうか?というより最初の修羅場よりもスケールが大きうなったような気がする。
「佐藤君!私の紅茶を飲んでみてください!」
「この雰囲気で紅茶を差し出すなんて自爆行為にも程があるでしょう!佐々木先輩!空気を読んでください!」
佐々木先輩は僕の言葉に『え?何でしょうか?』とカチューシャのついた頭を傾けている。この人はもしかしたら天然なのかもしれない。
「やはりこの仲の良さは普通ではないな」
「如月さんの言うとおりですね。これはどちらかと言えば恋愛感情に近いかもしれません」
「常識的に考えて昨日あったばかりの人に恋愛感情なんて存在しないでしょ。二人とも」
「佐藤は黙っていろ。これは私たちの問題なのだ」
「そうだよ。美咲君には少ししゃべらないでほしいね」
「そんなこと――――」
「三角木馬」ボソッ
「すみませんでした!結衣様!」
危なかった!あとすこしで三角木馬の刑になるところだった・・・・・・。
「質問する。何でそんなに佐藤に好意を抱いているのだ?」
「昨日美咲君に何かされたんですか?」
鬼のような悪魔のような二人は佐々木先輩に質問する。
「えーと、それはですね。その・・・・・・なんといいますか。それを言うのは恥ずかしいといいますか・・・・・・」
顔を真っ赤にして恥ずかしそうにもじもじする佐々木先輩。
あ、これは死んだな。
何故かは知らないけどとりあえず本日二度目の死の予感がした。
「佐藤君には私の顔にアツアツなのをぶっかけられました!!!」