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数学研究会の変態日和  作者: 不完全な世界
第二章 選択の犠牲
12/21

下校

更新遅れました

放課後とは、親しい友達と一緒に帰ったりしながら会話したり、買い食いしたりして友情を深め合う。学生にとってまあまあ楽しい時間だと僕は思う。

そう、それが親しい友人だったらの話だが。


「それにしても春はまだ肌寒いですね。さすがにこの季節に水着はきついですね。そう思いませんか?佐藤君」

「その質問を僕にする理由をあなたに質問したいです」


部活が終わり(やっと)、帰り道も途中まで一緒ということなので、水無月先輩と下校することになった。

水無月先輩は登下校の際はちゃんと服を着ている。本当によかった。下手したら僕まで警察に連れて行かれるかもしれない。


「そういえば水無月先輩が僕と前中先輩が一夜を過ごした仲だといっていたことを佐々木先輩から聞いたんですけど」

「ええ、そうですが何か」

「何でそんな嘘を言ったんですか・・・・・・」


もう疲れた。怒る気力さえおきない。


「え!違うんですか?」

「いや、違うに決まっているでしょう」

「そうですか。それはすみませんでした。そんなことよりも佐藤君ーーーー」

「勝手に話題をそらさないで下さいよ」


この水無月先輩といい、佐々木先輩といい、もうカオスだな。数学研究会。


「それにしてもどうやって神崎さんを数学研究会に勧誘しましょうか?」


水無月先輩は頭に手を乗せて考えている。

そんなことよりも僕と前中先輩の関係を今すぐ佐々木先輩に伝えなおしてほしい。


「・・・・・・もういっそのこと勧誘しないという手はないのですか。その方が結衣ちゃんのためにもなりますし、余計な労力を消費することもありません」

「しかし、それで佐藤君はよろしいのですか?」

「どういう意味ですか」

「言葉通りの意味ですよ。二人は幼馴染でとても仲がよかったのですよね。ここで違う部活に入るのはあまり嬉しいことではないのでは?」


確かに結衣ちゃんと違う部活に入るということは二人で過ごす時間が減るということだ。

けれど僕は結衣ちゃんから離れたいので実質的には僕にとってはプラスのことになる。


「確かに僕は今までずっと結衣ちゃんと一緒に過ごしてきました。」

「だったらなおさらじゃないですか」

「結衣ちゃんは今までずっと僕の面倒を見てくれて、姉のような存在です。だからこそ僕は結衣ちゃんから離れる必要があるのです。これ以上結衣ちゃんと一緒にいたら、僕はずっと結衣ちゃんの足をひっぱることになる」


はっきり言って、僕がこのことを水無月先輩に話す必要性はなかった。こんなことをいってもある意味傍若無人な水無月先輩は考え方を改めないであろうから。

単純に僕は同情の言葉が欲しかったかもしれない。


「なるほど。私は神崎さんをどうしても数学研究会に入れたい。しかし、佐藤君はそれを望んでいないということですね」

「ついでに言えば本人もそのことを望んでいないと思います」

「わかりました。考えておきましょう」

「え?」

「部員の意見を最優先に考えるのは会長たる私の役目ですから」


驚いた。

あの水無月先輩が人の意見を尊重するなんて。以外と部員思いの人だったんだ。


「しかし、やっぱりドSの人材は欲しいですね。けれど佐藤君にさっき宣言してしまいましたし。あぁ、どうすればいいのでしょうか」


やっぱりこの人は傍若無人な人だ!少しでも期待した僕がバカだった!


「それにしても佐藤君も佐藤君ですよ」

「いきなりなんなんですか、水無月先輩」


僕はできる限り怒気を含んだ声で答えた。


「・・・・・・何で怒っているのかはわかりませんが。そんなに彼女から離れたいのならもっと前から離れればよかったじゃないですか。まあ、今まで別れなかったから今ここに佐藤君が数学研究会に入部してくれたのでいいですけどね」

「本当、最悪ですね」


僕が結衣ちゃんから離れようと思ったのは中学三年生の冬ぐらいからだ。その時にはもう志望校を変更することができない時期だった。

けれど、確かに水無月先輩の言うとおりでもある。

例え進学する学校が一緒でも、進学する前に結衣ちゃんから離れることはできたはずだ。それが今になってずるずるとひきずっている。


「もしかして彼女にその話を切り出すことができないのですか」

「どんな風に話したら結衣ちゃんを傷つけずに済むのかがわからないだけです」

「そうですか。確かにそれはわかりませんね。しかし佐藤君。それはただの言い訳にしかすぎませんよ」

「言い訳、ですか」

「その通りです。神崎さんから離れることを実行することで彼女が傷つくことは必然のはずです。その気持ちは君もよくわかっているはずです」


水無月先輩は淡々と言葉を発していく。


「だからこの目的を達成するためには彼女を傷つけることを前提としなければなりません。だからどういう風に言えば傷つけなくて済むなんて問題じゃないんです」


僕のこと何も知らないくせに、冷酷な言葉を並べていく。


「問題なのは君が彼女を傷つける勇気があるか無いかですよ。だから彼女から離れるためには――――」


その言葉を言うまでの時間が何故かものすごく長く感じた。


「言えばいいじゃないですか。『もう僕に近ずかないでくれ』と」


その言葉を聞いた瞬間、勝手に体が動いていた。

気づいたら、僕は水無月先輩の胸ぐらをつかんでいた。

その瞬間のことは詳しく覚えていなかった。

水無月先輩はとても驚いていた。当然だ。僕もかなり驚いている。

しかし驚いたのはほんの一瞬のことですぐに怒りが戻ってきた。


「あなたは・・・・・・あなたはそんなことを言えばどれだけ結衣ちゃんが傷つくのか本当にわかっているのですか・・・・・・!」

「何を言っているのですか彼女を傷つけることがあなたの願いでしょう」

「違う!それは決して同じことではないっ!」


僕が結衣ちゃんのためを思って離れようと思っているのに、彼女を傷つけようとすることは本末転倒だ。それに、それだけは絶対にしたくない!


「君がどう解釈しようが勝手です。けれど、このことだけは君に覚えておいてもらいたいです」

「・・・・・・なんですか」

「人は何かを得ようとするには必ずそれと同等それ以上の代償を支払う必要があります」


水無月先輩の言っていることは正しいのかもしれない。しかし、


「それでも僕はなるべく結衣ちゃんを傷つけることなく、結衣ちゃんから離れます」


この思いは決して揺るぐことはないだろう。結衣ちゃんのことを思っているからこそ、傷つけるという選択肢は最初から存在なんてしていないのだから。

両者とも沈黙が続いたので、つかんでいた胸ぐらを離すことにした。


「私は君の言っていることを否定したりはしません。かといって自分の考えを否定することもしませんが」


沈黙を最初に破ったのは水無月先輩だった。


「けれど、もし君の考えを貫きとおせることができたなら、それはすばらしいことだと思います。・・・・・・だからできる限りの応援はしますよ」


何だよ。

傍若無人な人だと思っていたら、本当は結構いい人じゃないか。

本当にどっちかにしてくれよこの人は。


「では、私はこっちの道を右に曲がりますので」

「そうなんですか。じゃあここまでですね」

「ええ。それでは佐藤君、さようならです」

「それは違うんじゃあないですか」

「え?」

「また明日、ですよ」





やっぱり水無月先輩はいい人ですね

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