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イレギュラーズ

作者: 加賀谷紫苑

 とある山奥。木々が生い茂り、人が歩くのには苦労する獣道ばかりの所に、それは立っていた。


 異能力研究所


 異能の力を持つ少年少女を収容する、研究所とは名ばかりの牢獄。


 異能の力の存在は、生まれてすぐにこの牢獄へ収容する事で、世間に隠蔽されていた。


 研究所では、日夜非人道的な実験がなされている。


 肉体に電流を流し、どの程度で死ぬのか。ただひたすらの暴力によって、普通の人間と、回復の速さに違いがあるか。初潮や精通の時期に、違いはあるのか。少女たちの妊娠のしやすさに、違いはあるのか。


 そこではまるで、人を玩具のように扱うのが当たり前だった。


 人権など存在しない。


 ただひたすらにこの世のものとは思えない光景が広がっていた。


 否、この世のもなのだ。


 この牢獄に収容された子供たちは、結局死ぬまでここで過ごす。


 人間的、道徳的な考えなど、微塵も生まれない。


 やらなければやられる。


 弱肉強食。


 むかつくくらいに、そうだった。


 異能の力を持つと言っても、どう使えばいいのか分からない。


 大人たちの持つ、鉛の弾を吐き出す機械が、とても怖い。


 恐怖以外の感情を、彼らは抱かない。


 しいて言えば、自由への欲求か。


 何もできない。


 何も感じない。


 そんな日々の中、ある男が呟いた。


「外に出たい」


 その想いは、すぐに研究所の被験者たちに広がった。


「外に出たい」


 ある少女が呟いた。


「海を見たい」


 ある老人が呟いた


「山を見たい」


 ある少年が呟いた。


「世界を見たい」


 ある老婆が呟いた。


 彼らは、老若男女関係なく、外の世界を渇望した。


 異能を持つ人々が、それまで自分たちのすべてだった研究所(世界)を壊した。


 異能を使い、研究所の人間を虐殺した。


 造作も無い事だ。


 ある者は火を噴き、ある者は手を凪ぐ事で竜巻を起こし、ある者は人を生きたまま凍らせた。


 彼らは外に出た。


 初めて整理されていない道を歩き、初めて土に根を張った植物を見た。


 やがて彼らは一つの農村に着いた。


 彼らが事情を説明すると、村人たちは暖かく向かえ入れてくれた。


 異能の事は話さなかった。


 この暖かい人たちから、研究所の時のような、蔑みと殺意を孕んだ視線を受けたくなかった。


 彼らは村人たちと共に働いた。


 畑を耕し、果物の世話をする。


 幸せだった。


 村人たちの暖かさが、何より幸せだった。


 そんな幸せが壊れる。


 想像もしたくなかった。


 研究所の人々が持っていた、鉛の弾を吐き出す機械を持った人や、それを大きくしたような機械に車を付けて動くようにしたものがたくさん村に来た。


「出て行け」


 村人の一人がそう叫んだ。


 誰だったかは分からない。


 しかしそれを皮切りに、村人たちは口々に、彼らを罵った。


「騙してたな」


「化け物め」


「俺たちの事も殺す気だったのか」


 とめどなく溢れていく言葉は、彼らを深く傷つけた。


 機械を持った人の後ろに隠れた村人たちは怯えた様子でこちらを見ていた。


 それは何の前触れも無く始まった。


 音がして。


 いくつも音がして。


 少女が倒れた。老人が倒れた。少年が倒れた。老婆が倒れた。


 周りの人々が、赤いものを撒き散らして死んでいった。


 男にそんなもの効かない。


 死にたく無いと思ったら、当たらなかった。


 たった数秒の間に、自分以外の皆が死んだ。


 信じられなかった。


 許せなかった。


 男は“敵”を殺した。


 音もせず、時間もかけず、村人も、機械を持った人々も、殺した。


 海が見たかった。


 山が見たかった。


 もっと、世界が見たかった。


 男は泣いた。


 笑いながら、泣いた。

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