転生女子、おひとり様
わたくし、あなたのもとへまいりましたわ
ああ、あなたはどこにいらっしゃるの――?
コンコンコン
控え目なノックが入り口扉から聞こえてきました。ノックをするということは村人さんでしょうか?
「はーい、どなた様ですか~?」
私はノックに応えて返事をしました。
「……」
でもそちらの返事は返ってきません。おかしいです。村人さんならすぐに返事して入ってくるはずなんですが。
「どちら様ですか~?」
もう一度問いかけてみますが、やはり返事がありません。
「聞こえなかったのかなぁ?」
いや、そんなはずはないでしょう。かなり大声で返事している自負有りますからね☆
仕方なく受付机から立ち上がり、扉に向かいます。
ええ、立ち歩くのが面倒だからいつも声を張り上げて、向こうからこちらに来てくれるのを待ってるんです! 横着ものですよーだ。
「どちら様ですか―?」
カラン
声をかけながら扉を開けると、そこには金髪・青い目のかわいらしい少女が立ってました。
フランス人形もかくや! というような容姿。ふおおおおお! 美少女です!
見たことのない少女だったので、おそらくトリッパー様でしょう。
あまりのおかわいらしさに一瞬ボーゼンと立ちすくんでしまいましたが、いかんいかんとすぐさま我に返り仕事をおっぱじめます。
「えーと、いらっしゃいませ。ご自分のお名前はわかりますか?」
ニッコリと笑いかけながらいつものセリフを言う私です。
「……ジュリと申します。あの……先程突然森の中に迷い出たようなんですが、わたくし、一体どうしたのでしょう?」
小さな頭を傾げながらこちらを見上げる青い瞳。
不安で瞳が定まってない様子は、『オネーサンが守ってあげるぅ!!』と抱きしめてしまいそうな儚さを持ってますよ。
おおっと、イケナイ妄想に走りそうでした。
「まあ、ここで立ち話もなんですから? 中にお入りくださいな! そこでお話ししましょう」
相手に安心を与える(はずの)満面の笑みを彼女に向けて、とりあえず家の中にご案内します。
「はい。ありがとうございます」
幾分ほっとしたような笑みを見せて、勧められるがままに中に入って行きます。うん、最近は私のこの営業スマイルにも磨きがかかってきました! 地味にショウくんの営業スマイルを盗み続けた甲斐ありです☆
机の対面の椅子を勧めつつ、私は自分の席に着きます。
もちろん営業スマイルは継続したままですよ!
ジュリさんが席に着いたのを確認してから、おもむろに召喚リストをめくりました。
「ジュリさんですね? ジュリ……何ていうんですか? 名字というか家名?」
そうジュリさんに質問しながらも、召喚リストをなぞっていきます。
「それは……覚えてないんです。すみません。ジュリという名前だけを覚えてました」
「りょーかいです。他には何か記憶がありますか?」
「ええ……。ここに来る前、わたくしは対立する家柄の殿方と恋仲でございました。ですがどう足掻いてみてもこの世では一緒になることができないので、来世で必ずやお会いしましょうと約束してお別れしたのでございます」
俯き加減で、少し悲しげに話すジュリさん。
まあ、なんて悲恋!! 乙女心直撃じゃないですか! リサ、ウルウルしちゃいますよ!
すると、
「ほほう」
そんな儚げな様子のジュリさんとは対照的な声が、私の上から降ってきました。
「メグちゃん!」
私の頭の上に顎を乗っけて、ジュリさんの話に相槌を打ってますよ。どこから現れてんですか! お客様がびっくりしてるじゃないですか。
「まあまあリサ。さ、ジュリさん? 続けて? 他には?」
突然現れたメグちゃんにびっくりしたのか、青い目を見開いて絶句していたジュリさんでしたが、
「それからわたくしは親の薦めるままに他の貴族の方に嫁入りしまして、80まで生きました。ああ、でも彼とお別れしてからの記憶はございませんの。ただ、他の方に嫁いだことだけで……」
と、思い出すまま話してくれました。
「ほうほう」
「そうかい。……うん、視たところ特殊な能力はついてないみたいだねぇ」
出ました、メグちゃんの視か……うおっと、スキャン!
「ねえ、メグちゃん。この場合転生だよね? じゃあ彼氏さんの方も転生してくるのかなぁ?」
「そうだね。前世の記憶を持つ転生だね、こりゃ。多分彼氏の方も転生してくるだろうけど、そいつと同時に転生したわけじゃない。時差のある転生だから出現にもズレがあるだろうね」
腕組みをしてうんうん、と肯きながら言うメグちゃん。
「ロベルト様がいつ亡くなられたとか、消息を全く存じませんの……」
目を伏せ、また悲しげに言うジュリさん。
「最悪の場合、相手の心変わりで転生してこないかも知れないよ?」
意地悪そうな顔で言うメグちゃんは、正真正銘の魔女です☆
「なんて奴だ!」
私は勝手にプンスカしてます。いや待とう、私。それ、メグちゃんの勝手に作った話だから。
そんな訳のわからない私たちに対して、
「そんなことはございません!! ロベルト様は必ずこちらに来て下さります! ……そうお約束したのですから……」
下まぶたに涙を湛えながら、ジュリさんは言い切りました。言い切りましたよ!!
キッと、メグちゃんを睨んでます。
完全に彼氏を信じ切っての発言です。これぞ愛というものでしょうか?
「言い切ったよ~! すごいね~、メグちゃん」
「ああ。ここまで信じ切れるってのは相当だねぇ」
さっきまでの意地悪な顔を引っ込めて、優しい笑顔になるメグちゃん。
フッと目を細めたかと思うと、おもむろにいつものごとく虚空からメモ帳を引っ張り出しました。
「でもさぁ、そのロベルトさん? 転生してきた記録はないんだよねぇ? もうどっかに生れ落ちてるのか、これから転生してくるのか――ショウ~! あんたロベルトって聞いたことある~?」
メモを繰り繰り、二階で家の修繕をやってくれているショウくんにも声をかけてます。
「え~? なんですかぁ?」
ひょこっと階段から顔を出すショウくん。緊張感のかけらもないけど、今日も爽やかイケメンです☆
「ロベルトって転生者に覚えある~?」
「ないですねぇ? もうこっちにいるんですか?」
「いや、まだわからないんだよ。そっか。じゃあこれからちょっと気に留めておいて」
「ラジャ」
じゃあ続きしてきます~、とショウくんはまた緊張感のない声で言い、また二階に戻っていきます。
「ふう。どうするかね?」
「どうするの?」
私とメグちゃん、顔を突き合わせて相談します。
そこへ。
「あの……もしお邪魔でありませんでしたら、この近くで生活しながらロベルト様がこちらへ来るのをお待ち申し上げたいのですが……いかがでしょうか」
おずおずと言い出すジュリさん。うう、健気です!
「まあ、それもありかもね。よし、わかった。この家の客間を使うといいよ。偶にこういうのもあるから、全然大丈夫だよ!」
あまりに健気なジュリさんの申し出に庇護欲掻き立てられたのか、メグちゃんが太っ腹な提案をしました。
ええ、ワタシ的にもいい案だと思います!
「ありがとうございます! わたくしもなるべくできることは致しますので!」
ほっとした様に微笑むジュリさん。
こうして『魔女☆メグの家』に新たな住人が増えることになりました。